映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第15回『窓辺にて』
『窓辺にて』
▶好きと言う感情を主役にしたオリジナル作品が味わえる度:100
余韻が秋にぴったり。心の棚卸し作業をしたい人にオススメ!
この世界を生きていると、自分だけがどこかまちがった、おかしな存在に思えてならない瞬間がたまにあります。
自分だけ歯車があってないような気がしてならない。
もしそんなことを考える人がいたら、窓辺にて、行き交う人々の人生を垣間見るように、
彼らの人生をのぞいてみてください。
人間の複雑さが、豊かに描かれているんです。きっと明日を待つ時間を楽にしてくれるはず。
『愛がなんだ』『街の上で』などの今泉力哉監督が描くラブストーリーは、今泉監督17作目となる完全オリジナル作品。
映画ファンが心待ちにしているともいえる一作だ。好きという感情そのものについて、掘り下げた新鮮な大人の恋愛映画に仕上がっていた。
あらすじは、編集者をしている妻が担当作家と浮気をする。それを知りながら何も言い出せないフリーライターが、自身に芽生えたある感情に悩んでいくさまを描くといったものです。
作家周りの人びとが登場し、ゼロから何かを作り出す、クリエイターの葛藤にも触れられる内容となっています。
この映画で描かれる稲垣吾郎演じる茂巳の悩みは、実はなかなか重たいものなのかもしれない。
しかしその悩みは人々の関わりによって、歯痒さ、可笑しさ、愛しさ、もどかしさを含み、ひとつの葛藤には、いろんな表情があることを見せてくれます。
そして同時にどれだけ考え続けても、回答を集積しても、それがまったく意味をなさない場合があることにも寄り添ってくれました。
この映画に登場する人々はみんな悩みを抱えている。器用に生きてる人なんてほんとうは誰もいない。そう、わたしたちと同じように。
なかなか解決しない問題に出くわすたび、息が詰まってしまったり、焦ってしまったりすることがわたしたちにもありますよね。
けれど、それこそある意味健全な姿なのではないかと思わせてくれるから、なんとも優しい映画だと感じました。
自分の中に侵入してきた悩みごとと無理やり折り合いを付けて、
平均台でバランスを取るように生きなくても良いと伝えてくれているようです。
恋愛を軸に、”受け入れることと手放すこと”の本質を描いている本作は、心の棚卸しを可能にしてくれます。
そして、もともと小説を書いていたと言うライターの茂巳による、ある’’オリジナルの愛のかたち”には、切なくなりながらもとてもハッとしました。
受け取る側も、愛情を見つける力を持っていないと伝わらない、愛自体の繊細さ。
そのために相手をよく見る姿勢を忘れてはいけないのだと、なかなか考えさせられました。
最後になりますが稲垣吾郎さんが、本当に良い。
別世界の住人ではなく、まるで、自分の住む街に存在しているような姿です。
映画の後、もし遭遇してしまったら私は間違いなく
「市川さん、市川茂巳さん!」と声をかけてしまう気がしました。
”演じる”を飛び超えて、まちがいなく彼は”存在している”と思わせてくれる説得力でした。
シンプルに、すごく好きな映画です。
稲垣吾郎 中村ゆり 玉城ティナ
若葉竜也 志田未来 倉悠貴 穂志もえか 佐々木詩音 / 斉藤陽一郎 松金よね子
監督・脚本:今泉力哉
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ) 主題歌:スカート「窓辺にて」(ポニーキャニオン / IRORIRecords)
製作:和田佳恵 飯島三智 太田和宏 プロデューサー:蓮見智威 三好保洋 共同プロデューサー:沢村敏
ラインプロデューサー:宮下昇 撮影:四宮秀俊 照明:秋山恵二郎 美術:中村哲太郎 録音:弥栄裕樹 整音:山本タカアキ
音響効果:井上奈津子 編集:相良直一郎 スタイリスト:馬場恭子 ヘアメイク:新井はるか 金田順子 助監督:八神隆治 制作担当:大川伸介
制作プロダクション:Compass さざなみ 製作幹事:テレビ東京 ロータス・ワイズ・パートナーズ 配給:東京テアトル
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