映像2022.12.07

「いつか映画監督になったら、僕の作品に出演して欲しい」尊敬する役所広司と作った国境・文化・境遇を越えた繋がりと出会いの物語

Vol.46
『ファミリア』監督
Izuru Narushima
成島 出
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©2022「ファミリア」製作委員会

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脚本家を経て映画監督としてデビュー、『八日目の蟬』で「第35回日本アカデミー賞」最優秀監督賞など10冠を獲得した成島出監督による最新映画『ファミリア』が2023年1月6日に公開されます。
作品の核となるのは、主演の役所広司さんが演じる陶器職人の誠治が、実の息子・学やふとしたきっかけで出会う在日ブラジル人の青年たちへ注ぐ愛。周囲の人々を守ろうと傷付きながらも奔走する誠治の惜しみない愛情は、やがて、タイトルにある「家族」という言葉に集約されていきます。成島監督が、本作に込めた思いとは。製作の舞台裏、さらに、映画人としてのキャリアやクリエイターへのメッセージを伺いました。

すべてが嘘ではなく事実のプロットに惹かれた

成島監督がメガホンを取った最新映画『ファミリア』では、在日ブラジル人への差別や半グレ、分断といったセンシティブなテーマに真正面からふれつつも、人と人との繋がりや家族愛を描いていらっしゃいますが。映画人として、この作品を「撮りたい」と思った理由を教えてください。

プロデューサーからいただいた最初のプロットの段階で、強い関心を持ちました。様々なテーマを描いていますが、エピソードの元になった話はすべて、脚本を務めたいながききよたかさんの生い立ちにもとづいています。
作品内に登場する団地は、自動車工場で働く在日ブラジル人の方々が多く住む愛知県豊田市の保見団地がモデルになっていますし、作品内で描かれるテロ事件は、日本人が犠牲になった2013年の「アルジェリア人質事件」が元になっています。いながきさんの友人が人質になったプラント会社にいました。映画自体はフィクションながら、描かれたエピソードが嘘ではなく身近な事実であるという点が、本作に関わりたいと思った動機でした。

登場人物たちを“父親”のように温かく見守る陶器職人の主人公・誠治を演じた役所広司さんを「私の大切な兄貴であり師匠」と呼ぶほど、尊敬されていると伺いました。

映画の世界へ入って間もない頃、下積みで助監督をしていた時代からお世話になってきたんです。言葉で何かを教わるのではなく、映画人として、俳優として、作品や共に作り上げる仲間に対する誠実な姿勢にたくさんの刺激を受けてきました。
本作では、電動ではなく足で蹴りながら人力で回す「蹴ろくろ」での陶器づくりに挑戦していただきました。実際に窯元へ足を運び、時間をかけて練習してくださって。役所さんが陶器を作るシーンは、手元だけを映してそれらしく見せるのではなく、ワンカットで一連の動作を撮影しています。完璧な役作りをしてくださったからこそ撮影できたシーンでしたし、その姿勢に感服しました。

誠治の幼なじみであり、彼が唯一心を許すことができる刑事の隆役は佐藤浩市さんです。

過去の監督作である『草原の椅子』でご一緒していまして、本作まで時間は空きましたが、交流はあったので久しぶりの感覚はなくスッとなじめました。今回、夢だった役所さんと佐藤さんの共演シーンを実現できたのは、監督冥利に尽きました。映画界でも尊敬する2人ですし、成島組で願いを叶えられたのはうれしかったです。

昔ながらの父親像や家族像を感じ取っていただきたい

誠治の息子・学役の吉沢亮さんとは、初めてご一緒されたそうですね。撮影現場を通した、印象はいかがでしたか?

好青年であるのはもちろん、芯のある方だなとも思いました。オファーした理由は、吉沢さんのやわらかさや優しさに期待したからです。学は海外で難民の女性と結婚する役柄で、国籍の異なる相手への同情ではなく、同じ地平に立ち相手の心を受け入れる包容力を持つ方にお願いしたかったのですが、思い描いたとおりのキャラクターになりました。

在日ブラジル人の青年・マルコス役のサガエルカスさんと、彼の恋人であるエリカ役のワケドファジレさんは、オーディションで抜てきされたそうですね。

当初予定していたオーディションでは、在日ブラジル人の方を彷彿とさせるのであれば、国籍を問わずに募集しようと考えていたのです。ところが実際には、南米で公用語にポルトガル語を使っているのはブラジルのみでしたので、在日ブラジル人の方に絞ってオーディションを行いました。応募者数は限られましたが、数カ月間、最終的に残った10人ほどの方々にオーディションを兼ねたワークショップへ参加していただき、キャスティングが決まりました。二人以外もみなオーディションです。全員、演技未経験ながら、頑張ってくれたと思います。

タイトルの『ファミリア』が示すとおり、登場人物たちの関係性がやがて「家族」へと集約される本作。鑑賞される方々には、作品から何を感じ取っていただきたいですか?

まずは、娯楽映画として楽しんで観ていただきたい。その上で、陶器職人の誠治、マルコスやエリカを中心とした人物同士の関係性に注目していただきたいです。テーマの一つである「分断」は、今まさに世界中で起きている出来事とも重なっていると思います。色々な価値観が変わりつつある現代だからこそ、人と人との繋がりを見つめ直す必要があるのではないかと考えています。その最小単位が「家族」だと思うのです。家族や大事な人を守りたいという気持ちが強い誠治は、作品内で起きる様々な事件に立ち向かいます。テーマこそ現代に即しているものの、彼の姿から、昔ながらの父親像や家族像を感じ取っていただければと思います。

原点の大学時代は「1年間に800本」もの映画を見た。映画に没頭できる時間が自身の幸せ

成島監督のキャリアについて、伺います。映画の世界へ憧れた原点は上京後、大学時代だったと伺いました。

私のように“8ミリ映画”で育った世代は、高校時代から映画好きになる人間が多かったのですが、出身が映画館の少ない田舎だったこともあり、魅力に気づくのが遅かったんですよね。上京して、初めて映画を見たときに衝撃を受けて、1年ほどで800本の映画を見るほど没頭しました。当時は、小津安二郎監督の『東京物語』やマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』と、作風の異なる映画を一気に見た日もありました。どの作品に影響を受けたというよりも、純粋に映画自体に魅了されたのがこの世界へ入るきっかけでした。無理だとは思いながら、学生時代から「将来は映画監督として作品を撮りたい」と考えていました。

その後、1986年に自主製作映画『みどり女』が「第9回ぴあフィルムフェスティバル」で入選。下積みの時代には、森﨑東監督や長谷川和彦監督のもとでシナリオを学び、相米慎二監督のもとで助監督を勤めていたそうですね。

自主製作映画を作っていた当時はまだ学生で、高田馬場駅前にある会社で学生ローンを借りていましたね。アルバイトをしても返しきれないほどでしたが、それでも映画づくりに没頭していました。その後、下積み時代も含めて、この世界で食べられるようになるまでは苦労が耐えなかったです。森﨑監督や長谷川監督、相米監督のもとで働いていた当時は睡眠時間が短く、仲間内で「奴隷」と言い合うほどで雀の涙ほどの給料でした。ただ、当時の環境で鍛えられたからこそ、今の自分があると思っています。脚本家デビューを果たした映画『大阪極道戦争しのいだれ』の当時もまだ、道路工事の警備員として誘導用の棒を振っていましたし、ようやく映画の世界でやっていけると思ったのは30歳の頃でした。

映画監督としてのデビュー作は、2004年公開の映画『油断大敵』。周囲の環境は変わりましたか。

撮影現場でのポジションが変わっただけで人間関係が、ガラッと変わったわけではありません。過去から築いてきた周囲との繋がりは変わらず、その延長線上で作品を手がけながら現在へ至っています。役所さんとの繋がりも助監督時代からずっと続いていますし、当時から「いつか映画監督になったら、僕の作品に出演していただきたいです」と約束していたことですから。変わらず付き合っているプロデューサーやカメラマンも同様です。どの仕事にも共通すると思いますが、やはり「繋がりと出会い」が大切だと思っています。

最後に、成島監督が映画を撮り続ける理由を教えてください。また、成功を夢見るクリエイターへのアドバイスをお願いします。

偉そうに言える立場ではありませんが、成功が必要だとは考えていません。成功をゴールにしてしまうと、そこへたどり着いた時点で目標がなくなってしまうからです。私は純粋に映画を撮るのが好きで、没頭している時間が幸せなんですよ。テレビドラマや舞台を手がけたこともなく、映画以外の仕事はできないと考えています。お金や名誉にとらわれることもなく、嫌な仕事は断り、付き合いたくない人とは付き合わない。好きなことに打ち込めるのが一番幸せですし、そのような環境にいられるだけで幸せと思えるかどうかが大事だと思います。例えるなら、好きな人と一緒にいられるのが幸せという感覚と似ているのではないかと。私は、幸せを感じられたのが映画の世界でした。成功とか名誉は目標ではなく、大好きだから努力できた。その結果としてついてくるものではないでしょうか。

取材日:2022年9月21日 ライター:カネコ シュウヘイ スチール:橋本 直也 ムービー:指田 泰地

『ファミリア』

©2022「ファミリア」製作委員会

2023 年1月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

役所広司
吉沢亮 / サガエルカス ワケドファジレ
中原丈雄 室井滋 アリまらい果 シマダアラン スミダグスタボ
松重豊 / MIYAVI
佐藤浩市

監督:成島出
製作委員会:木下グループ フェローズ ディグ&フェローズ
制作プロダクション:ディグ&フェローズ
配給:キノフィルムズ
©2022「ファミリア」製作委員会 映倫:PG12

公式HP:https://familiar-movie.jp/

公式twitter:@familia_movie

ストーリー

陶器職人の神谷誠治は妻を早くに亡くし、山里で独り暮らし。アルジェリアに赴任中の一人息子の学が、難民出身のナディアと結婚し、彼女を連れて一時帰国した。結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に反対する誠治。一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコスは半グレに追われたときに助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つ。そんなある日、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲い……。

プロフィール
『ファミリア』監督
成島 出
株式会社アンカット、株式会社 神宮前プロデュース。1961年4月16日生まれ。山梨県出身。上京後、頻繁に映画を鑑賞するようになり大学時代は「映画研究部」へ所属。1986年に自主製作映画『みどり女』が第9回ぴあフィルムフェスティバルで入選。その後、映画監督・脚本家の森﨑東氏や長谷川和彦氏に師事しシナリオを学び、映画監督の相米慎二氏のもとで助監督を務める。脚本家デビュー作は『大阪極道戦争しのいだれ』。2004年公開の映画『油断大敵』で監督デビューして以降は、数々の作品でメガホンを取り続ける。2011年公開の映画『八日目の蟬』で「第35回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞や最優秀監督賞など、10冠を達成。

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