映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第17回『エゴイスト』
『エゴイスト』
▶血管で演技する鈴木亮平!すごすぎる度:100
自分の”愛”に自信をもてずに生きてきた人にオススメ!
最初にこれは言わないといけないです、鈴木亮平がすごいです。
細胞と血管で演じるお芝居を私はみてしまったんです。
圧倒されて、言葉にならない。
こんなにたくさん映画を観ているのに、久しぶりに「すごい…」としか感想が出てこなかった。
「与えることで満たされていく。この愛は身勝手ですか?」これはこの映画のキャッチコピー。
身勝手でもなんでもいい。こんな大きな愛に触れたのは、純粋に久しぶりだった。圧巻…!
数値化するなんて、到底野暮だけど、100点満点の愛があるとしたらこの映画で描かれた愛は100万点のそれだ。
原作はエッセイスト高山真の自伝的小説で、男性同士のラブストーリーでありつつ、主人公は亡き母への思慕から、愛する彼と彼の母親までも愛するという家族愛の物語。
監督を務めるのは『トイレのピエタ』『ハナレイ・ベイ』などを手掛けた松永大司。
主人公の浩輔を演じるのは『孤狼の血 LEVEL2』の怪演で第45回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ多くの賞を受賞した鈴木亮平。
龍太役には『騙し絵の牙』、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」など話題作への出演が続く宮沢氷魚。
龍太の母親役には、作家・エッセイストとしても活躍する阿川佐和子。明るくて、芯のある母を好演する。
これも最高のキャスティングだった。
劇中では映画化を楽しみにしながらも惜しくも2020年に亡くなった高山さんの輪郭がより感じられるようにイデミスギノのケーキ(惜しまれつつも2022年に閉店したお菓子の名店)や、ちあきなおみの名曲『夜へ急ぐ人』など、監督の松永さんは高山さんが愛していたものをリアルに盛り込んだ脚本に仕上げていて、実際に存在していた人物の輪郭を感じられる、体温を感じる映画だった。
そして、映画全編にわたる、生っぽさがとにかくすごい。
たとえば初めて浩輔の家に龍太が訪れるシーンでのカメラワーク、カットは龍太の気持ちを写し出したかのような緊張感と高揚感を感じられる長回しのような映像。
初めて気になる人の家に行った際の、好きな人がどんな生活をしているかをあらわす家が気になってしょうがない、瞬きをできるだけせずにいろんな部屋を見ようとするようなショットなどにも惹かれた。
そんな恋する心に寄り添った演出から生まれる、生っぽさ。
またグッと演者たちに寄った映像がなんと多いことか。
アップのシーンが多く、自分と同じ空間に浩輔と龍太がいるような距離感でひきこまれていく。
映画という媒介をつかった合法的な覗き見をしている気分になった。
そんなカメラワークが紡ぎ出す、生っぽさ。
出会って、恋に落ちて、初めてキスをして、ひとつになる。そして、その後も愛を熟成させていく。
正直、どうしようもないくらい全シーンにときめいた。幸せな二人は、観るものまでも幸せにしてくれる。
この表現が正しいのかわからないけれど、とにかく2人が華やかでフォトジェニックなのだ。
演技の枠を飛び越え、完全に恋をしている者たちの瞳だったからこそ生まれる、生っぽさ。
物語に入り込むには、何もかも十分な作品だった。
針葉樹のようにまっすぐに、一瞬たりとも迷うことなく龍太を愛し続ける浩輔。
健気で儚げで、でも心に情熱を秘めて、浩輔からの愛情を受け取る龍太。
こんなに愛されることが、私はひたすらに羨ましかった。
ベッドシーンも話題になっているが”性愛”をきちんと描きながらも、テーマは”信愛”の話になっている。
最高の矛盾にも惹かれました。
「与えることで満たされていく。この愛は身勝手ですか?」
この映画のキャッチコピー。たとえ愛が何かわからなくても、その不確実さに戸惑うことがあったとしても、相手がどう自分の行動を受け取るかに答えがあると教えてくれた。
同時に、無償の愛というのが、どれほどまでに果てしなくて、それでいて同時に自己満足であること。
それは人間にとって絶望でもあり希望でもあり、赦しでもあり救いでもあると。
なんだかやさしい。どこまでもやさしい映画だ。鑑賞後に自分を包み込む柔らかな空気まで大好きだった。
エゴイスト。ほんのすこしだけマイナスイメージもあった言葉だった。
でも今では、この言葉に内包されるイメージが変化した自分がいます。
映画『エゴイスト』
2023年2月10日(金)全国公開
<出演>
鈴木亮平 宮沢氷魚
中村優子 和田庵 ドリアン・ロロブリジーダ
/ 柄本明 / 阿川佐和子
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
配給:東京テアトル
制作:ROBOT
R-15
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公式サイト:www.egoist-movie.com
Twitter/Instagram:@egoist_movie
© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会