アクション映画界を席巻した殺し屋が再び「計算ではなく感情で撮った感じが強いです。」
『ベイビーわるきゅーれ』(’21年)が半年以上にも及ぶ劇場ロングランヒット記録を樹立し、若くして一躍注目を集めた阪元 裕吾(さかもと ゆうご)監督。続編となる『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』は、前作同様、マンガから飛び出てきたような個性的なキャラクターたちが魅せる日常と本格アクションが繰り広げられる。
殺し屋コンビのちさと(髙石あかり)&まひろ(伊澤彩織)の前に、殺し屋協会アルバイトのゆうり(丞威)&まこと(濱田龍臣)兄弟が現われ、命を狙われるように。出会い方こそ違えば仲良くなれたかも……と思いながらもバトルを繰り広げていく。
阪元監督に、続編について、アクション映画について、クリエイターとして大事だと思うことなどを語っていただきました。
前作のキャラクターを活かして続きを撮ることができた
続編の構想はいつからあったのですか?
構想は前作を撮る前からあって、アニメ映画『ドラえもん』シリーズではないですが、ちさと&まひろの2人が様々な時代や場所に行ったりして事件に巻き込まれていく……みたいな感じの物語を考えていました。前作を撮っているときの構想は、ゲームの「ぼくのなつやすみ」シリーズのような牧歌的な雰囲気の中で繰り広げられる「殺し屋版 ぼくのなつやすみ」。映画『ソナチネ』(’93年)のように、田舎でバトルが行われると面白いなって。
ちさと&まひろの2人にとって心情的なものを描くドラマ性がある脚本も考えました。2人が対立したり絆が試されたり……。でもそういうのはいいかって、途中で思って。2人とも常識ではかれない、どこか飛んでいるキャラなのが面白いんで。色々な案があって、今回は前作の正統派進化形のような、キャラクターを活かして続きを撮るみたいなイメージで撮りました。
前作の反響がよかっただけに、プレッシャーのようなものは感じませんでしたか?
シリーズの大きなポイントはアクションで、それもラストのバトルが人気です。最後のアクションだけは比べて観る人もいるだろうと思い、アクション監督の園村健介さんと、まひろ役を演じたスタントパフォーマーの伊澤彩織さんと話し合いました。
やはり、前作と比べて迫力が下回っているというのが、一番ガッカリすると思うんで。すぐにアクションで定評のある丞威さんに敵役を演じてもらうという話になりましたが。どうしようと悩んだのはそれくらいですね。それ以外は見る方の好みで。アクション以外は前作の方が、スケールが大きい話だと思います。
以前、「“1(ワン)”はアニメでいうところの第1話みたいなものだ」とおっしゃっていたのを拝見したのですが、“2(ツー)”はどのような立ち位置だと考えたのですか?
“1”は、キャラクターの紹介をメインにしました。ちさと&まひろの葛藤を描き、乗り越える話にしています。そのような出来事が起こることでよりキャラクターについて分かってもらえると思って。
今作は、ジャンプコミックスでいうところの2、3巻目のような役割。すごく大きなエピソードがあるわけではない程よい規模感でのゲストキャラとの話にしようと考えました。“1”でキャラクターが分かってもらえたからこその“2”だったのかもしれないです。
捉えにくいキャラクターを悩みながら演じてもらったのがよかった
ちさと&まひろを筆頭にキャラクターが個性的なことも魅力の一つですが、どのようにして誕生したのですか?
殺し屋を描こうとなったとき、ちさとは“ターゲットだから殺すけど、恨みがあるから殺すなんてことはしない”というような、感情といった熱量のあるものから外れたところにいる人物を考えました。以前、ビートたけしさんが「漫才師はウケればウケるほど冷静になって冷めていく」とお話されていたのを覚えていて、まさにそういうのが殺し屋だなって思ってちさとのようなキャラクターにしました。普通の人が一番アツくなるタイミングで冷静でいる。それが暗殺者として大事。日常の中にある人間くささと冷徹さが絶妙なバランスで保たれるキャラクターになったと思います。
そうやって生まれたちさとですが、髙石あかりさんはすんなり役に入られていたのですか?
結構悩まれていました。現場でも、後半になるにつれて「私、悪い役に見えないですか?」と言っていて。今回、ちさと&まひろは敵対する殺し屋のゆうり&まこと兄弟より格上なんですよ。なので圧倒的なドシッと感が必要で。ちさとというキャラクターは非常に捉えにくくて難しい役で。一見ただ楽しいだけの人間にも見えるけれど、劇中で一番非情でなくてはいけない。
でも髙石さんが悩んでいたのは逆によかったと思います。あまり自信満々に演じるとそれが画面に出て、ナルシズムに見えてしまう。不安定ながらも感情の起伏があるのがちさとなんで、それが今回もよく出ていたと思います。
ちさと&まひろ以外にも、前作から登場していた田坂(水石亜飛夢)や須佐野(飛永翼)、前作の特典映像のスピンオフドラマで登場した宮内(中井友望)らについても深く描かれて、よりキャラクターの造形が色濃くなっていた気がします。
“1”では説明キャラやお笑いキャラだった彼らが、“2”ではやり過ぎない程度にドラマに付随させることができました。もちろん、ちさと&まひろの話なんですが、本筋に発破をかけるような存在として活かせたなと。これはキャラクターが浸透してきたからこそできたことだと思います。彼らのシーンは、撮っていてすごく楽しかったです。
セリフは笑えるかどうかを最優先にして、自分の中の“オモロイ”を集めた
何気ない会話が自然で魅力的ですが、セリフはどのように考えているのですか?
自分の考えていることというより、「こんなセリフを言う登場人物って、あまり映画で見ないよな」という言葉を考えて、脚本をつくっています。自分の中の“オモロイ”と思ったことを書いているというか。僕自身、キャラクターに自分がいつも思っていることを代弁させるのがあまり好きではないんですよ。本当に自分がなんとなく思いついたおもしろワードだけを入れている感じ。コントの脚本に近いのかもしれないです。笑えるかどうかを最優先にしていますから。
日常とアクションのバランスはどのように考えてつくっているんですか?
バランスはあまり気にしていないので、良くはないんじゃないかな。前作も中盤は延々と家で話しているだけだったりするし……。普通に考えたら2人の会話が長すぎるんです。前作はTwitterとかの“キリヌキ動画”でバズることを目指したんで、あのような形になっていて。1シーン1シーンの相互性や物語性より、各シーンがおもしろいことを大切にしました。だから、奇妙なシーンばかりで構成されていたんです。
“バズって観客が入る”ことを意図的に仕掛けたんですね。
だからバランスは意外と考えていなくて。でも今作は、“バズらせる”ことは考えずに、むしろ真面目にやったつもりで。蓋を開けてみるとそんなに真面目にはなっておらず(笑)……。でも、“1”より“2”の方が、計算ではなく感情で撮った感じが強いです。
今作で一番大事にしたのは、後半で死体が出てくるカット。あのカットで、いきなり日常から殺し屋の話に引き戻しています。そういう計算を入れつつ、絶妙なバランスでできている作品ではあります。
「カッコイイ殺陣が見られるから阪元の映画を観に行く!」という人を増やしたい
本作で欠くことはできないのがアクションですが、監督はアクションというジャンルに思い入れがあるんですよね。
そもそもアクション映画が好きというのはあります。なかでも、アーノルド・シュワルツェネッガーやジャッキー・チェンのように、どんなキャラでも俳優が前面に出てくる、「あの作品と同じやん!」みたいな映画が好きで(笑)。どんな作品に出ても、どんな役を演じても“シュワちゃん”であるのがスターな感じもするし、見ていて安心するんですよ。
今の日本だとどんなジャンルも演じ分けられるカメレオン的な俳優が多く、なかなかそういう方が誕生しなくて……。この俳優さんの殺陣(たて)が見られるなら映画館行く!というスターをつくりたいと思って映画を撮っています。
そういう意味では、『ベイビーわるきゅーれ』は伊澤さんの迫力満点の殺陣が見られるアクション映画というジャンルになりますね。
そうなんです。アクションというジャンル映画があまりつくられない日本で、自分ができることは、「阪元の映画を見に行ったら、とりあえずカッコイイ殺陣は見られる」と思ってくれる人を増やすことに意味があって。その思いだけで撮っています。特に、ラストのバトルは、超大作映画並みにかなり時間がかかっているんですよ。そのために、ちさと&まひろの家のシーンは1日で撮ったりして。アクション監督の園村さんとは、時間と経費の調整の話ばかりしていました。
ラストのバトルはもちろんですが、オープニングにゆうり&まこと兄弟のバトルがあるなど、前作よりもアクションシーンは多くなっていますね。
2倍になったはず。オープニングのバトルは、香港映画のように、キャラクターの紹介として見せ場をつくりたくて……。日本映画ではあまりない、いいシーンになっていると思います。アクション映画のスタートとしてぴったりの見せ場になっています。
自分の年表をつくり、それ通りにできたから上京した
そもそも映画少年だった監督ですが、どういう作品を観ていたのですか?
僕が映画を好きになった小学生のころは、シュワちゃんやジャッキーのような映画から、『バイオハザード』(’02年)とか、『スパイダーマン』シリーズ(’02年)とか、アメコミ色が少しずつ強くなってきた過渡期の時代です。なかでも『ダイ・ハード4.0』(’07年)は大好きでした。高校生の時に『ザ・レイド』(’12年)が公開され、肉体アクションみたいな作品が誕生して……。そういう映画は普通に観ていました。
でも、僕は先ほども言ったように、同じようなメンバーで同じことをする映画が好きだったんです。ちなみに、それは映画だけではなくマンガでも同じで。中でも「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が大好きで、もしかしたら自分に一番影響を与えた作品かもしれないです。あれだけ笑えて、情報量もあって密度が濃い。そしてどんな話をしても、最後は「両津~」と大原部長が怒って終わるというのも好きなんです。
子どもの頃から映画監督を目指していたのですか?
意識するようになったのは高校生の頃です。小学生の頃は小説やマンガを書いたりしていて、話を考えるのが好きな子どもでした。高校の時に、文化祭に向けてホラー映画を撮ったんです。友達が帰ると言って帰ったのに家のコタツから出てくるというホラー映画だったのですが、日常から徐々に空気が変わって不思議なことが起こるという空気感が面白いと思って。そういうアイデアを映画で形にできるのは面白いと思いました。
大学生のときに「カナザワ映画祭」の新人監督賞に輝くなど自主映画界を席巻されましたが、卒業したら商業映画の監督になるというのは決めていたのですか?
悩みに悩んで就活をした時期もあります。今のように監督として上京してきたのは、学生時代に賞を獲れたのが大きかったです。実は何の実績もないのに上京して夢を追うみたいなことだけはやらないと決めていたので。在学中の一番ヒマなときに賞が獲れないなら東京へ行っても無理だろうと思い、自分の中でこの賞をこのときに受賞するという年表をつくりました。それが意外と思い通りにいけたんで、東京に行ってもえぇやろうと今に至っているわけです。
かなり慎重派だったんですね。
夢を追うだけではどうにもならないんで。それでも、東京に来てから半年くらいは何もできなかったです。商業映画を少し撮ったりもしましたがそれで食える状況にはならず。深夜バイトをして、その足でロケハンに行ったりする期間を過ごしていました。
そんな中、世の中はコロナ禍になって……。それまで周りに合せて必死でしたが、いろんなものがストップした世の中で周りを見渡すとなんか自分の気持ちが変わり、頑張りすぎなくていいんじゃないかなって思えて。そうして生まれたのが『ベイビーわるきゅーれ』。無理して自分のやりたくないことはやらなくてもいいじゃんって。で、そう思ったのが意外と僕だけではなかった気がします。だからウケたんじゃないかなって思っています。
最後にクリエイターにとって大事なことは何だと思いますか?
2年ほど前、コロナ禍の緊急事態宣言のとき、仕事がなかったんで誰に言われることもなく7本くらいプロットを書いたんです。そのときの脚本を最近読み返してみたら、すごく面白かった。今の自分よりも面白いと感じるくらい、ワードとストーリーが強くて。そのときに思ったのが、やっぱり書きたいという気持ちだけで書いた作品は強いなと。自分の中から湧き出てくるものに反応して、それをカタチにすることが大事だと思います。僕も、いつかそのとき書いた作品を撮りたいです。
取材日:2023年2月13日 ライター:玉置 晴子
※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。
『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』
©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会
3月24日(金)より新宿ピカデリーほかにて公開
キャスト:
髙石あかり 伊澤彩織
水石亜飛夢 中井友望 飛永 翼(ラバーガール)
橋野純平 安倍 乙
新しい学校のリーダーズ
渡辺 哲
丞威 濱田龍臣
監督・脚本:阪元裕吾
アクション監督:園村健介
配給・宣伝:渋谷プロダクション
©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会
公式サイト:https://babywalkure.com/
公式ツイッター:https://twitter.com/babywalkure2021