映像2023.03.23

介護問題とぶつかり合う正義:映画『ロストケア』レビュー

東京
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日本文化×デザインあれこれ
いのうえ
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自分が介護を受ける立場になった時、または介護者になった時、どうして欲しいか。
幸せとは?人間らしい生き方とは?
高齢化社会と介護問題を軸にぶつかり合う正義VS正義の社会派エンターテイメント。

■あらすじ

早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。

真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?

被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。 (映画ロストケア公式サイトより引用)


斯波宗典(松山ケンイチ)

大友秀美(長澤まさみ)

■殺人か救済か 絆か呪縛か

検事の大友秀美と容疑者の斯波宗典。ぶつかり合う2人の正義に考えさせられる。
個人の殺人は悪で死刑は正義なのか?同じ命を扱っているのに。

ロストケア(喪失の介護)。辛い介護経験を経験した斯波は一貫して自身の行いは救いだと主張する。その口調から迷いのなさが伝わる。

検事の大友は苦しい心境が続く。法律のもと、斯波の罪を明らかにしなくてはいけない。真実を探れば探るほど、介護を取り巻く環境の悲惨さが浮き彫りになる。42人もの大量殺人、それなのになぜ心が揺れるのか。なぜ斯波の独白に心を打たれるのか。

介護問題は綺麗事ではない。
介護の現場を知る人なら尚更、正義や悪という言葉では片付けられない何かを感じる事だろう。観賞後、壮絶という言葉がしっくりくるように感じた。

■他人事ではない日本の問題

本作は日本の現実的な問題として重くのしかかる。
不足する介護士、介護疲れによる殺人、介護と貧困。

安全地帯にいる者の言葉が、社会の穴の底を這う者を苦しめる。
見て見ぬ振りをするもの、充分ではない制度。穴に落ちてしまった者たちはどうやって助かれば良いのか。

生き場のない者を送りだすロストケアは正義なのか悪なのか。

■幸せとは

私は人の数だけ幸せがあると考えている。長生きは無条件に幸せと言えるだろうか。斯波の主張するロストケアに賛同する人がいるかもしれない。
認知症や体の不自由に苦しみ、自身も周囲も疲弊する中で生きる事は本当に幸せなのだろうか。どんな状況であろうと生にしがみつくのが幸せなのだろうか。
少しでも楽にしてやりたいという斯波の気持ちは、彼の中の純粋な正義だったに違いない。

介護ノートや普段の働きぶりから彼が熱心な介護士であったことは証明されている。彼は介護問題の地を這った当事者として、そして父親の魂の懇願を聞いてあのような正義を見出した。名優、柄本明演じる父親の一挙一動に心をえぐられる。「どちらさまですか?」が、こんなに切なく響く言葉だったなんて。
法のもとでは凶悪犯罪なのは間違いないのだが、父子の壮絶な介護環境を想うと心が苦しくて仕方がない。


斯波正作(柄本明)

介護職に就いてからの斯波の部屋は不自然なほど物がない。まるで彼の心象風景のように。逮捕されるまでの間、ロストケアを繰り返す間、彼は何を想い生きていたのだろう。

本作で描がかれている問題は、他人事ではない。
自分の家族が要介護の状態になるかもしれない。自分自身が要介護になるかもしれない。記憶を失い、排泄物を垂れ流し、泣いたり喚いたりするかもしれない。どこかの国の不幸な事件ではないのだ。長寿国日本の現実的な問題として本作を受け止めてほしい。

映画『ロストケア』 3月24日(金)全国ロードショー

 

 
出演:松山ケンイチ 長澤まさみ
   鈴鹿央士 坂井真紀 戸田菜穂 峯村リエ
   加藤菜津 やす(ずん) 岩谷健司 井上肇
   綾戸智恵 梶原善 藤田弓子 柄本明
原作:葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊)
監督:前田哲
脚本:龍居由佳里 前田哲
主題歌:森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック)
音楽:原摩利彦
制作プロダクション:日活 ドラゴンフライ
配給:東京テアトル 日活 
©2023「ロストケア」製作委員会
公式サイト:lost-care.com

プロフィール
WEBクリエイター
いのうえ
WEBクリエイター(デザイン/コーディング/ディレクション) 官公庁系サイトディレクション、デザインの他、企業系大規模サイトリニューアル、ECサイト運営などに携わる。fellowsでのセミナー講師経験もあり。 ここでは個人的に情報収集・発信している日本文化とデザインについて紹介します。

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