映像2023.05.08

疲れたときのビタミン剤『それいけ!ゲートボールさくら組』

東京
映像何でも屋
秘密のチュートリアル!
野辺五月

「絶対楽しいやつだ!」

そう思わせるメンバーとあらすじが光るゲートボールさくら組。

シニア世代を主題にする映画は、しっとりするか笑えるかのどちらかですが、今作は「染みる」部分もありながら、圧倒的に「笑える」。
いい意味で、何も考えず、楽しくみられる映画なのだ。

そして、それを支えるテンポの良さと、小気味のいいセリフ。
一歩間違えるとコケるかもしれない「べったべた」「こってこて」のそれが、妙に心地よい。

 

『愛のコリーダ』『龍三と七人の子分たち』主演の名優・藤竜也をはじめ、石倉三郎、大門正明、森次晃嗣、小倉一郎、山口果林……という豪華な面々。そして、田中美里、本田望結他……安定感のあるキャスティングがなせる技なのかもしれない。
特別出演には、毒蝮三太夫、そして友情出演に今は亡き三遊亭円楽が名前を連ねる。ゲストながら大事な味。

 

こんなにすごいメンバーで何をやるかといえば「ゲートボール」である。

ざっくりとネタバレ抜きで、あらすじを纏めてみたい。
公式のストーリーから抜粋して、お届けすると……

【Story】
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主人公は、愛する妻が遺したレストランをカレー専門店にして続けている織田桃次郎(76)。

ある日、かつてラグビー部で、いつも自分たちを励まし続けてくれたマネージャー・木下サクラと再会。
彼女が経営するデイサービス“桜ハウス”が倒産の危機と知り、元ラグビー部の仲間を集結させて、何かできないかと模索。

銀行からは「加入者を少しでも増やさないと融資が止められる」といわれ、考えに考えた苦肉の策が……ゲートボール!

「近々ある大会で優勝し、知名度を上げて何とか施設を存続させたい!」

爺さんたちが大奮闘!
敵対するは、桜ハウスを買収したい大手ゼネコン傘下、ライバル施設“漆黒の杜(もり)”。
けれど乗り越えなければならない問題はそれぞれにあって……?!

連続のピンチの中、
固いチームワークで困難を乗り越え、「さくら組」は桜ハウスを救うことはできるのか?

**********************

どうだろう。
こんなに分かりやすく「はい、笑って下さい」という王道のストーリーは……。

なのに、奥が深い……。
見た後の気持ちがいい。

スカッとするし、なんだか元気になるのである。

「御託はいらない、兎に角劇場へ」と遠慮なく進められる映画を久々に見た。

特に、演技派の俳優陣が奏でる【ナチュラルな日常感】
「ああ、分かるな」「そういう家あるよね」「うちも……」と、どこかで共感させられる、さまざまな家族のカタチ。
いろんな年齢の取り方、生き方がきっちり描かれている。そこにお説教臭さも、変なお涙ちょうだいもない。
しれっと仲間が年をとっているさまや遠ざかっているさまはかかれているのに、自然で、嫌味がなくて、辛くない。「そういうものだよね」を乗り越えた楽しみがある。

そんなご機嫌なシニアのドタバタだけは、本人たちでなく、子供、孫、お仕事関係からご近所さんまで……ほどよい塩梅で繋がる【現代】。
理想の現代というべきか、現実はもう少し孤独もあるのかもしれないが、「仲間はいつまでたっても仲間」だと希望を見るし、「家族の在り方も色々でいいのだ」と後を押される。
現代らしい問題も内包しながら、楽しんでいきたいなと思わせる何かがこの映画にはある。

 

人間の距離の描き方、キャラクターの妙……いろいろな視点で楽しむゆとりが、観る者を笑いで癒す。
お話を遮らず、色を添える音楽、風景もよい。
ドタバタコメディはどうしても大きくなりがちな音楽だが、静かな日常ののんびりした空気感を優先して、ちゃんと抑えるべきところは抑えている。最後は最後でしっかり歌を利かせてくれるのも「青春時代の懐かしさ」のようなものは醸しながら、「いつだって青春時代だ」というメッセージがしっかり伝わってくる。

また、都合よく物語が進む一方で、テレビ中継や、街の報道のされ方など「ご都合主義だと気になりやすいところ」にはむしろ嘘がない。
テレビはお茶の間で集まってというより、お店の中や家事の合間など、とても今っぽい使われ方が効いているし、巻かれるお弁当屋さんのビラと同じくらいまだまだ近所のコミュニケーションツールになっているさまをのぞかせているし、特に「ローカルな番組」ならではの空気感がコント風に落ちを付けてくれる。
そういえば、そのローカル番組のナレーター含め、わき役もわき役だなというポジションに、一癖ある人物が多い。

  

ゲートボールの敵・ライバル以外の対戦相手も、ただただ普通のチームではなく、こういう人いるよな、こういう会社ってあるよな、という「個性は強烈なはずだけれど、どこかで観た人」が多くいた。
ちょっとの優しさと、あったらいいなは足されているのだけれど、それも含めて見守っていたくなる優しい世界だ。
見終えたら、青空のようにすっきりした気分になって、劇場を出ていく。
「それいけ」と呼びかけられているのはこちらのような気分になる作品。
劇場で是非楽しんで頂けるといいなと思う。
「分かってても笑っちゃう」「王道なのに、こんなにいいんだ」という、かえって新しい体験をさせてもらった気がする。

『それいけ!ゲートボールさくら組』

5月12日(金) “笑顔満開”ロードショー

 

藤竜也
石倉三郎 大門正明 森次晃嗣 小倉一郎 
田中美里 本田望結 木村理恵
赤木悠真 川俣しのぶ 中村綾 直江喜一
特別出演:毒蝮三太夫 
友情出演:三遊亭円楽 山口果林

監督・脚本・編集:野田孝則
主題歌:Rei「Smile!with 藤原さくら」(Reiny Records/Universal Music)
音楽:安部潤
特別協賛:ドクターリセラ株式会社
協力:公益財団法人日本ゲートボール連合 千葉県ゲートボール連盟 学校法人作新学院
企画・制作プロダクション:ファーイースト
配給:東京テアトル  
©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会

プロフィール
映像何でも屋
野辺五月
学生時代、研究の片手間、ひょんなことからシナリオライター(ゴースト)へ。 HP告知・雑誌掲載時の対応・外注管理などの制作進行?!も兼ね、ほそぼそと仕事をするうちに、潰れる現場。舞う仕事。消える責任者……諸々あって、気づけば、編プロ・広告会社・IT関連などを渡り歩くフリーランス(コピーライター/ディレクター)と化す。 2015年結婚式場の仕事をきっかけに、映像畑へ。プレミア・AE使い。基本はいつでもシナリオ構成! 2023年は現場主義へ立ち返り、演出・構成をメインに活動。 「作るために作る」ではなく「伝えるために作る」が目標。趣味は飲み歩きと帽子集め。

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