FFF-S BEYONDでイスラエル出身の学生監督が掴んだチャンス!「映画に国境はない」
クリエイターズステーションを運営するフェローズが主催する若手映画作家応援プロジェクト「FFF-S BEYOND」は、「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(FFF-S)」の1次審査にノミネートされた学生監督の中から短編映画の企画を募集し、最も優秀な作品に制作費や制作を支援する取り組みです。映画制作のアドバイスや、国内外の映画祭への出品支援、作品発表の場を提供するなど、有能な若手映画監督が、近い将来、多くのチャンスを掴むためのサポートをしています。
第二回作品として選ばれたのがイスラエル出⾝のウラソフ・セルゲイさんの短編映画『プレイステーションも持って行きなさい!』。
セルゲイさんに、監督としてFFF-Sへの応募について、映画制作へのこだわり、出身地であるイスラエルの映画事情などをお聞きしました。
フラットに作品を評価してくれたのがうれしかった
FFF-Sに応募したきっかけを教えてください。
友達の紹介で『そばちゃんの朝』に携わってくださった謝村さんとはじめて会ったときに、「FFF-S」映画祭があることを教えてもらいました。最初は映画とは違う形で何か一緒につくれたらと思っていたのですが、映画祭があるなら一緒に制作しよう!と決めました。応募締め切りまで1カ月しかなかったので、何をつくるかすぐにその場で話し合いました。
学生に向けた映画祭FFF-Sについて、最初に聞いたときはどう感じましたか?
ユニークだと思いました。そして同時にチャンスだなと。せっかく映画祭があるなら参加しないともったいないと思いました。
イスラエルにも映画祭はありますが、賞金が全然違います。イスラエルの学生への支援予算はかなりミニマムです。なので受賞して賞金がもらえたら何をつくろうかと想像したらワクワクしました。
セルゲイ監督はイスラエル出身で現在、日本大学芸術学部大学院に在学中とのことですが、留学生としてFFF-Sに参加して、異国ならではの文化の違いを感じたことはありますか?
応募するときは、外国人にチャンスがあるかどうかは正直わからなかったです。友達の何人かが、「日本の映画界はクローズドな世界で、外国人で活躍している監督はほとんどいない」と言っていたので、外国人が選ばれる可能性は少ないのかなと心のどこかで思っていました。それでもどんなことも動いてみないとわからないので、とりあえず参加したという感じです。
そうして応募した『そばちゃんの朝』が見事、「優秀賞 (ドラマ実写部門)」に選ばれました。
私が外国人であるとかそういう目線はなく、フラットに作品を評価してくれたことがすごくうれしかったです。あらためて映画に国境はないと感じました。『そばちゃんの朝』は日本人が出演し、日本で撮ったので“日本映画”というカテゴリーに入りますが、フランスのコメディ映画のようなニュアンスもあります。この映画からさまざまな国のエッセンスのようなものを感じてもらいたいと思います。
毎日書き留めたアイデアが脚本として形になった
映画祭の存在を知ってから1カ月程でつくったとのことですが、アイデアはすでにあったのでしょうか?
私は、頭に浮かんできたちょっとしたアイデアをいつもリストに書き留めています。ほとんどの場合がセンテンスだけなのですが、ときにはそのリストを見直し、センテンスをもっと発展させられないかとアイデアをプラスする作業をしていて。『そばちゃんの朝』は、そうやっていろんなアイデアが積み重なった作品でした。
「FFF-S BEYOND」の第2回作品である短編映画『プレイステーションも持って行きなさい!』のアイデアも同じようにリストに書き留めていたのですか?
『プレイステーション―』に関しては、かなりアイデアが積み重なって、本作の脚本に近い形で書き留めていました。「FFF-S BEYOND」のお話をいただいたとき、すぐに思い出し、この脚本で撮りたいと思いました。チャンスを掴むためにこれまでのアイデアの中から一番完成されたものを出した感じです。
脚本もご自身で担当されていますが、脚本は映画にとってどのような存在ですか?
一番大事な、作品の柱になる部分だと思います。脚本があって、そこにいろんなアイデアがプラスされていくので。これまで何本か映画をつくりましたが、ほとんどの作品の脚本を自分で書いています。以前、友達と協力して書こうと思ったら途中でうまくいかず断念したこともあって……。脚本はやはり軸となる部分なので妥協をしてはいけないと思います。
「映画はチーム」みんなが“仲良し”でいることが大事
「FFF-S BEYOND」では、プロが制作に参加するなど、学生自主映画とは勝手が違ったと思いますが、どうでしたか?
スタッフを決めるため、最初に、一緒に仕事したい人は誰かと聞かれ、いつか一緒に映画をつくれたらと思っていた方々の名前を挙げさせていただきました。私は、映画を観て、映像がステキだったカメラマンの名前をメモするんですよ。なので、一緒にお仕事をしたい方はいっぱいいて。その中から声をかけて集まったのが今回のスタッフのみなさんでした。みなさんプロなので本当にやりやすかったです。
これまで撮っていた映画では、スタッフは学生が中心で予算がないからみんなで協力し合いました。ただ、どうしてもプロになりきれず失敗することも多いです。
セルゲイさんとはじめてのスタッフも多かったと思いますが、どのようにコミュニケーションを取っていたのですか?
たとえば、カメラの森田祐代さんとははじめましてだったので、何度かカフェでお茶を飲みながら好きなことや映画についていろいろお話をしました。そのコミュニケーションが本当に気持ちのいい人で、作品を一緒につくっていけると思いました。
またグレーディングの田中基さんは、以前作品を観たときにいつか一緒に仕事をしたいと思った方で、今回、声をかけさせてもらいました。森田さんと同じように、お茶を飲みながらいろいろお話をさせていただきました。
スタッフを選ぶときに重視したことは何ですか?
一緒にいい雰囲気の現場をつくれるかどうかです。それを知るために、お仕事を始める前にお茶を飲みながらいろいろお話をさせてもらったんです。その人を知るには映画についてのんびり話すのが一番ですから。
これはスタッフだけではなく、俳優さんにも同じことが言えて。実は僕、俳優のオーディションはやらないんですよ。どれだけいい演技ができても、リラックスできない現場をつくる人とは一緒に作れないので。
みんなで“仲良し”になる。これが大事だと思っています。映画はチームですから。
作品をフラットに見つめる編集の存在は大事
今回、プロのスタッフとつくった映画でも、現場で活発に意見交換をされていたのですか?
いろんなアイデアをたくさんいただきました。僕は脚本も書く監督ですが、決して脚本どおりに映画を撮りたいとは思わないです。どちらかというと、脚本と撮影してできたものがまったく違うものになっているほうが安心するというか。先ほど映画はチームといいましたが、1人で考えるのではなく、みんなのアイデアを結集してひとつの作品をつくっていくほうが面白いです。今回はそれができたと思います。
編集をする監督も多いですが、セルゲイ監督は編集もプロにお任せしています。分業制にしている意図は何かあるのでしょうか。
自分で撮影したものを別の人に任せると違う作品になるようで好きではないという監督も多いですが、それは違うと思います。編集というのは、映像をひとつの作品として見ていて、シーンに対して思い入れがあるとダメなんですよ。監督や現場にいた人が編集に携わると、「このシーンを撮るためにどれだけ苦労した」とか、「このような映像を撮れたのは奇跡だ」みたいな想い出や感情がプラスされてしまう。ストーリーとしては制作者たちのそんな思いは必要ないんです。そういうときは冷静にカットアウトできる人が必要だと思うので、私は別の人に任せています。
今回、「FFF-S BEYOND」でプロのスタッフと作品をつくってみて、いかがでしたか?
いろんな方と出会えたのはすごく大きかったです。ただ、またこのメンバー全員で一緒にひとつの作品をつくるのは違うと思っていて。基本、常に新しい人を入れて何かをつくっていきたいと思っています。もちろん、今回出会ったみなさんは、いい雰囲気の現場をつくってくれてやりやすかったので、バラバラにどこかでやってみたいとは思いますが。僕はチームを固定するのがあまり好きではないんです。新しい人が入ることによりいろんなアイデアが広がっていくので。あらためてそのようなことを感じられたのはすごくよかったです。
言語の問題も強い意志があれば解決できる
監督はイスラエル出身ですが、イスラエルではどのような映画を観ていたのですか?
子どものころから映画が好きで、とくにアメリカ映画を見ていました。10代半ばになってくると、ヨーロッパの映画や日本映画を見るようになり……。ジャンルは問わず、大衆的なものから芸術性の高いものまで幅広く観るようになっていきました。
文化が異なる日本映画を観て面白かったですか?
もちろん文化が全く違うのでわかりにくい部分もありますが、どの作品も面白いと感じました。なかでも黒澤明監督や北野武監督の作品は素晴らしくて。独特の雰囲気があり、すごく好きになりました。
イスラエルの映画はどのような作品が多いのですか?
イスラエルは、ヨーロッパの映画に近いです。とくにフランス映画に似ている気がします。映画はよくつくられているのですが、アメリカや日本と違って、サスペンスやSF、刑事モノといったジャンル映画はほとんどつくられません。基本、人間ドラマや戦争の話がメイン。サスペンスやSFに関してはまったくといってもいいほどないです。なぜなら人口も約930万人と日本よりかなり少なく、そのうえ、アメリカからジャンル映画がたくさん入ってくるので、国内映画でわざわざジャンル映画をつくらなくてもいいからです。数年前、2人の映画監督がタッグを組んでサスペンス映画をつくり、海外の映画祭で話題になりました。「イスラエルのサスペンス映画の幕開けか」と映画ファンの中では盛り上がったのですが、本国では人気が出ず……。結局、その後もジャンル映画はつくられていないのです。
日本に留学しようと思った理由は何ですか?
日本映画に魅了されたからです。現代の映画ももちろんですが、70年代とか少し昔の映画も好きです。日本に来て思うのは、やはりイスラエルとはまったく違う文化であるということ。別の国というより別の惑星にいるような感覚に近いです。
日本の現場で困ったことはありますか?
言葉の壁を感じることもそんなにはないです。撮影に関しては世界中どこでもそんなに大きな違いはないんじゃないかな。そしてもし言葉の壁で理解できないことがあっても一生懸命話せば理解してもらえると思います。伝えたいという気持ちが大事だと思います。
海外で仕事をしたいと思っている人は思いきってやってみたほうがいいと思いますか?
本当にやりたいという気持ちがあるなら、努力すれば何でもできると思います。もちろん言語の問題などはあるとは思いますが、強い意志を持ってぶつかっていけば、いいと思います。
映画監督は1日でも休むと技術が落ちてしまう
セルゲイ監督は今後、どのような映画をつくっていきたいのですか?
SF映画です。宇宙の話ではなく、近未来の人間を描いた作品をつくりたいです。また、日本映画であれば時代劇を撮りたいです。とはいっても大きな合戦があるような話ではなく、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』(02年)のような、侍が主人公で小さなコミュニティの人間関係の話を描いてみたいです。
70年代の映画が好きとのことですが、任侠映画はいかがですか?
興味があって好きなのですが、私には撮ることはできないジャンルです。第二次世界大戦のホロコーストについて描いた『シンドラーのリスト』(93年)をユダヤ人であるスティーヴン・スピルバーグが監督をしたように、任侠映画は日本人にしか撮れない作品だと思います。そしてだから面白いんだと思います。
映画監督として大事にしていることを教えてください。
1つは脚本。どんなに素晴らしい俳優もよい物語がないと演技できないですから。もう1つは準備です。準備さえできれば撮影はスムーズにできます。そして準備のために必要なのはみんなとのコミュニケーション。コミュニケーションが取れていないといい作品はつくれないと思います。
最後にクリエイターとして大事だと思うことを教えてください。
止まらないことです。アイデアが浮かんでこなくても、何とかして出したり、とりあえず書いてみたりすることが大切かと思います。
イスラエルでは、「自転車は一度乗れたら、ブランクがあっても乗れる」とよく言われますが、映画はその逆。1日でも休むと技術は落ちてしまいます。どんなこともやり続けることが大事だと思います。
取材日:2023年4月24日 ライター:玉置晴子 ムービー 撮影:指田 泰地
「FFF-S BEYOND」
株式会社フェローズが2019年より毎年開催している学生のための短編映画祭「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(FFF-S)」にノミネート(一次審査通過)された学生監督から短編映画の企画を募集し、最も優秀な作品に制作費及び制作を支援する新たな取り組みです。
スペシャルサポーターとして堤幸彦監督にご参加いただいています。
映画制作のアドバイスや、国内外の映画祭への出品支援、作品発表の場を提供するなど、有能な若手映画監督が、近い将来、多くのチャンスを掴むためのサポートをしています。
「FFF-S BEYOND」第一回作品である『牡丹の花』(監督・脚本・編集:土居佑香)は、2022年、8つの国内映画祭に入選し、3つのグランプリを獲得いたしました。
『FFF-S BEYOND第ニ回作品』
短編映画『プレイステーションも持って行きなさい!』(23分)
短編映画『プレイステーションも持って行きなさい!』
出演:稲村 梓、金子 貴伸
監督・脚本:ウラソフ・セルゲイ
エグゼクティブプロデューサー 野儀 健太郎
プロデューサー 村田徹 広山 詞葉
撮影 森田 祐代
照明 小田巻 実
美術 Nana Blank
録音 内藤 和幸
編集 本田 広大
主題歌(作詞・作曲) SETA「すばらしい君だから」
編曲 佐橋 佳幸
整音・音響効果 劉 逸筠
グレーディング 田中 基
スタイリスト 加藤 しょう子
ヘアメイク 内田 琳音
助監督 J.G.
制作プロダクション 株式会社SORA
製作 株式会社フェローズ