映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第25回『まなみ100%』
『まなみ100%』
▶男性目線で初恋のリアルさが描かれる度:100
初恋映画や青春映画が好きな人にオススメ!
「初恋」という言葉を聞いたとき、誰の顔を思い出しますか。
この映画は、タイムマシンです。記憶の奥に眠るあの子のこと、その輪郭までもを、くっきりと思い出す時間となるかもしれません。
新海誠監督の作家性を世に知らしめるきっかけとなった『秒速5センチメートル』(2007年)、浜辺美波&北村匠海共演で原作が大ヒットしていた『君の膵臓をたべたい』(2017年)、韓国で410万人を動員した『建築学概論』(2012年)、台湾で社会現象となり日本でもリメイクされた『あの頃、君を追いかけた』、リリー・コリンズ主演のすれ違いの恋を描いたラブストーリー『あと1センチの恋』(2014年)。
万人が通る道であるちょっぴり切ない初恋を題材にした作品は、長年愛され続ける名作が多いもの。そんな初恋を描いた映画に、また新たな名作が誕生しました。
平凡さを嫌う変わり者の主人公は、同じ器械体操部員で平凡な女の子まなみちゃんに恋をする。映画『まなみ100%』は川北ゆめき監督の実体験を題材に、16歳から26歳の青春時代の10年間が綴られていく物語です。
脚本はベテランのいまおかしんじが担当し、『うみべの女の子』(2021年)の青木柚と『アルプススタンドのはしの方』(2020年)の中村守里がW主演を務めている。
この映画、心に沁みた。とても丁寧に演出された映画だったからだ。
まなみちゃんとの思い出がどのシーンもとても丁寧に愛情を込められて作られているのだ。
筆者は女性だが、完全な男性視点で初恋を追体験すると同時に、長年想ってきたまなみちゃんへの感情が伝わってきて、胸の内側がくすぐったくなる時間を過ごすことができた。純度の高い恋愛映画であることは間違いない。また、命の有限さにも気づく物語にもなっているのも秀逸だった。
初恋を違う言葉に言い換えるとすると、なんだろう。
甘酸っぱい。感情的。もどかしい。切ない。
いろんな言葉に変えられるけど、私的に特にしっくりくるのは”不器用”というフレーズだと考えている。
”ああすればよかった”を避けることが不可避なのが、初恋の正体でもある。
主人公がまなみちゃんとする会話は、はっきり言ってくだらなくて子供っぽい。
うまいことも言えないし、素直になることもできない。胸キュンセリフなんて言うわけもなく、ただただ、ふざけている。そんな様子が延々と描かれる。
でも、その圧倒的な不器用さの体現こそ、妙にリアルである。
そして、青木柚という役者がとにかくそれを体現するのに最高のキャスティングになっている。
また、この作品が面白いのは主人公が決して一途ではないところにある。
だから、まなみちゃん以外にも主人公が出逢っていく女の子たちがいて、その都度恋に落ちている。
そしてその事実とは裏腹に、いつまで経っても頭の片隅から消えないまなみちゃんの存在。
恋愛映画に多くあるのは1組の男女がお互いしか見ないという一途さを描くものが多いが、この映画は他の女子とのはざまで迷いながらもやっぱり初恋の子が頭から離れない感じがまたリアルである。
実際問題、そんな男子の方が多いのではないだろうか。
共演者には宮崎優、新谷姫加、菊地姫奈といった魅力的な女性陣が名を連ねているがこのキャスティングも、どんなに魅力的な子たちと付き合っても”まなみちゃんを忘れられない感”を強めているようにも捉えられる効果が感じられた。
弱冠28歳の監督から話を聞いたところ、22歳の時にもうこの作品を撮ろうと決めていたそう。映画監督が人生を振り返る映画のフォーマットはあるけれど28歳で自分の人生を振り返っているのが興味深い。
そのため”記憶の美化”に辿り着く前の状態の、まだみずみずしさを含んだ昨日の記憶のような形で映し出されているように思える。
また、30歳を手前に自分の人生を表現した監督が、これから年齢を重ね、どのように飛躍していくのかを見られるという楽しみが私たちにとって第二章のように生まれるのも面白い作りになっているかもしれない。
この作品は2022年2月に開始したクラウドファンティングでは最終的に約340万円が集まったことでも話題になったが、監督はこのクラファンのタイミングでLINEに登録されていた連絡先の全員に連絡したそうだ。その数なんと400人を越えると話していた。
「今後こういうお願いはしない。一生に一回なので協力してください。」と。
何事にも熱量が周りを動かすよなと、改めて思う。
そんな監督の青春の行く末を、ぜひ映画館で見届けてほしい。
『まなみ100%』
9月29日(金)より、新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
監督:川北ゆめき
脚本:いまおかしんじ
出演:青木柚、中村守理、伊藤万理華、宮崎優、新谷姫加、菊池姫奈
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(c)「まなみ100%」製作委員会