映像2023.08.31

何処をとっても美しい映像と、二人の親和性『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』

東京
映像ディレクター
秘密のチュートリアル!
野辺五月
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美しい映像が続く作品で、ポカリスエットのCMのような真っ向からの爽やかさにちょっと恥ずかしくなってしまいました。ほんのすこし共感性羞恥も湧きましたが、主人公・茜の「我慢していればいい、いい子まではいかなくても真面目に今の場所でやっていきたい」というフレッシュさと、W主人公・青磁の背景も込みの「マイペースな強さ」に共演者の化学反応を感じました。

相反するようで、自分のテリトリーと相手への思いやりをどこか併せ持っている二人の美しい恋物語がここにあります。
ちなみに、マスクの扱いはまだ難しい時期だと思うのですが、「理由」の描かれ方でこれはコロナの話ではないのだと分かったと同時に……学生でも家族の助けをせねばならないなど社会的な状況もうっすらと描かれていたりと、リアリティとファンタジーの難しいバランスが伺えました。

原作は「10代女子が選ぶ文芸小説No1」にも選ばれた小説で、若い層からの熱烈なファンコールが見え隠れします。
王道なストーリーですが、悲劇にも喜劇にも行きすぎない「等身大」が刺さる人も多いでしょう。
お話はこんな感じです。

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【あらすじ】

マスクが手放せず、周囲の空気ばかり読んでしまう「優等生」の茜。
自由奔放で絵を描くことを愛する、銀髪のクラスメイト・青磁。
何もかもが自分とは正反対の青磁のことが苦手な茜だったが、
彼が描く絵と、まっすぐな性格に惹かれ、茜の世界はカラフルに色づきはじめる。
次第に距離を縮めていくふたりの過去がやがて重なりあい、初めて誰にも言えなかった想いがあふれ出す――。

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ある意味で「分かる」と思う人は年齢問わず多いと思います。
一生懸命、周りが幸せだといいなと思って動く、から回る、我慢する……本音を言えと言われても、本音の一部に優しさがあります。
だが周りも同じであるのが、古くなりすぎない「よさ」だと思います。
誰かを標的にいじめが起きたりといった、そういう棘が主人公に刺さることはないのです。
どこか息苦しさは感じている二人ですが、あくまで親友や家族も優しいということが分かります。
脇を固める鶴田真由をはじめ、俳優・女優の温かさ、演技の厚みがお話にある種のリアルティと強さを与えています。
周囲の優しさがすれ違っていたり通じていなかったりするという「よくある、けれど重大な苦悩」。
若ければ若いだけ苦しむ、青春をめいっぱい詰め込んだお話になるのです。

 

映像×キャスト×美

その様子がずっと重くかかれるのではなく、綺麗に描かれているのも特徴かもしれません。
もちろん、綺麗な映像で推しの顔を眺めたいという俳優のファンや、恋愛ものが好きな学生には、じっくりと色々な意味で「青い」美を堪能できるのでお勧めできます。

残念ながら少しウィットに欠ける部分はありますが、コミカルなシーンがない分、かえって二人の関係性が強調され、静かに流れる景色を楽しめるのは、話題になった『美しい彼』や『明日、私は誰かのカノジョ』、そしてまた数々のアーティストのMVを手掛けてきた酒井麻衣監督の演出なのでしょう。
何処を切り取っても写真集のように、欠けのない瑞々しい絵。
スタートの睫毛のアップや、屋上で手を伸ばしあう二人のアングル……刹那さや解放感など見せ場のショットがキラキラと印象的。
きらめきをいっぱい詰め込んだ青春劇。
映画の画面で扱う「絵」という課題はとてもデリケートで難しいところもありますが、映画のカラーリングと絵のカラーリングを合わせているのか、色と雰囲気を大切にしている様子が感じられました。
ずっと綺麗なものを見ていたい……そんな気持ちにさせられる作品でした。

 

『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』9月1日(金)全国ロードショー

 
白岩瑠姫(JO1) 久間田琳加
箭内夢菜 吉田ウーロン太 今井隆文 / 上杉柊平 鶴田真由
監督:酒井麻衣
原作:汐見夏衛「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」(スターツ出版 刊)
脚本:イ・ナウォン 酒井麻衣
音楽:横山克 濱田菜月
主題歌:JO1「Gradation」(LAPONE Entertainment)

製作:『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』製作委員会
配給:アスミック・エース
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント アスミック・エース
公式サイト;https://yorukimi.asmik-ace.co.jp/

Ⓒ2023『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』製作委員会

プロフィール
映像ディレクター
野辺五月
学生時代、研究の片手間、ひょんなことからシナリオライター(ゴースト)へ。 HP告知・雑誌掲載時の対応・外注管理などの制作進行?!も兼ね、ほそぼそと仕事をするうちに、潰れる現場。舞う仕事。消える責任者…… 諸々あって、気づけば、編プロ・広告会社・IT関連などを渡り歩くフリーランス(コピーライター/ディレクター)と化す。 2015年結婚式場の仕事をきっかけに、映像畑へ。プレミア・AE使い。基本はいつでもシナリオ構成!2022年は現場主義へ立ち返り、演出・構成をメインに活動。 「作るために作る」ではなく「伝えるために作る」が目標。ようやく趣味の飲み歩きができるようになって嬉しい日々。

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