繰り返す出会いと別れ 映画『キリエのうた』レビュー
『スワロウテイル』(96)『リリイ・シュシュのすべて』(01)などを手がけた監督:岩井俊二×音楽:小林武史が織りなす、音楽世界。
本記事は二人の最新作『キリエのうた』のレビューをお届けする。
美しい風景
岩井監督は美しい風景を取り入れるのが得意な監督だと思う。
見渡す限りの白銀世界、生命力溢れるの緑の鮮やかさ・・・。
本作は美しい情景を通じて、季節の移り変わりや年月の経過を知ることができる。
一方で、自然の残酷さもありありと描写されており、この世界の美しさと儚さ、残酷さなどが境界線なく混ざり合っている。
人物描写についても同様で、一見儚げなキリエだが、歌い出すと心の奥底から湧き出るエネルギーを感じる。 風景や人物の対称性を巧みに取り入れながら、全体として美しくどこかノスタルジーな雰囲気のある作品である。
繰り返す出会いと別れ
人生に翻弄されながらも、繰り返す出会いと別れ。
心に傷を抱えた人々がお互いを思いやりながら、それぞれの人生を歩んでいく。
「必要な人とはいずれ巡り会う」という言葉をどこかで聞いた事があるが、それを運命と呼ぶなら、作中に描かれている人々は運命的な出会いを重ねている。
人物描写についても同様で、一見儚げなキリエだが、歌い出すと心の奥底から湧き出るエネルギーを感じる。
風景や人物の対称性を巧みに取り入れながら、全体として美しくどこかノスタルジーな雰囲気のある作品である。
謎の女性
アイナ・ジ・エンド演じるキリエはもちろん、広瀬すず演じるイッコも本作品で重要な役割を担っている。
自由奔放でどこかミステリアス、一見キリエと対照的な人物に見えるが人間的な根っこの部分で共通点があり、繋がっているように感じる。すいすいと世の中を泳ぐ器用さを持っているようで、実は心に大きな傷を抱えているような不安定さが彼女を一層魅力的に魅せている。キリエが活動を広げていく上で大きな助けとなっていた謎の多い女性。個性的なファッションも彼女らしさを表現する上で欠かせないアイテムなのかもしれない。
アーティストキリエ
普段は極端に内向的で大人しいキリエだが、歌に関しては全身全霊の表現者へと変貌する。その存在感は周囲を巻き込み、自ずと活動範囲が広がってゆく。
その一方で、彼女は有名になりたいお金持ちになりたいという欲は無く、純粋に歌が好きという事もしっかりと描かれている。
「歌いたいのか、有名になりたいのか」はアーティスト活動をする人、誰もが直面する問いだろう。キリエは心から歌が好きという事が彼女のおぼつかない言動からもしっかり伝わってくる。声がうまく出せなくても歌う事は辞めない。キリエは大人しいけど本当は芯の強い女性なのかもしれない。
そんなキリエの持つギャップをアイナ・ジ・エンドは見事に演じ分けている。
壮絶な生い立ちを持つキリエの、影を背負っている雰囲気から魂を震わす歌唱シーンは思わず釘付けになる。特にイッコと二人きりで浜辺で舞っているシーンは「表現者」という名が相応しいほどにキリエの世界観で包まれている。
何より歌が好きで、歌しかないキリエ。 唯一無二のキリエは、これからも歌と共に生きてゆくのだろう、そんな前向きな未来を予感させる爽やかなエンディングが心地よかった。
『キリエのうた』2023年10⽉13⽇(⾦)全国公開
原作・脚本・監督:岩井俊⼆
企画・プロデュース:紀伊宗之(『孤狼の⾎』シリーズ『シン・仮⾯ライダー』『リボルバー・リリー』他)
出演者︓アイナ・ジ・エンド 松村北⽃ ⿊⽊華 / 広瀬すず
制作︓ロックウェルアイズ
配給︓東映
公式サイト:https://kyrie-movie.com/
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