映像2023.11.01

「現場に“笑い”があふれ、映画が面白くなるのが一番」品川ヒロシ監督が大事にしているもの

Vol.57
『OUT』 監督
Hiroshi Shinagawa
品川 ヒロシ
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品川ヒロシ(しながわひろし)監督の初の長編映画で大ヒットを記録したヤンキー映画『ドロップ』(2009年)。最新作『OUT』は、伝説の不良・井口達也と新たな仲間と家族との絆を中心にその後日談を描く。

保護観察中で次にケンカをしたら一発アウトの井口達也(倉悠貴)は、千葉の暴走族「斬人(きりひと)」の副総長・安倍要(水上恒司)と出会い、不思議な絆で結ばれていく。

今年6月には、映画監督として米国で挑戦するために渡米した品川監督に、現場で大切にしていること、クリエイターとして大事にしていることなどを語っていただきました。

共通言語がある仲間で作品をつくっている現場

映画『ドロップ』の世界観を描くのは15年ぶりですが、いかがでしたか?

WOWOWでドラマ版「ドロップ」(23年)を撮っていたので懐かしいという気持ちはそれほど沸かなかったのですが、感慨深かったです。僕、40歳のときに「50歳になったらアメリカでインディーズのホラー映画を撮る」ことを目標にしていたんですよ。結局、コロナ禍で延期になったり、ストライキが起きたりして来年になってしまったのですが、その直前に日本で最後に撮影する作品が「ドロップ」と『OUT』だったのが、なんか不思議な気持ちで。10年越しの夢が叶う直前に自分のやってきたことの原点に戻るというのは、うれしかったですし、楽しかったです。

主人公の井口をはじめ、マンガの世界に浸れるページをめくる感覚を意識した演出など、『ドロップ』の世界が蘇りました。

前作のあの演出を見た方は、帰ってきたと思ってくれたみたいですね。それは素直にうれしいです。『ドロップ』のときは、長編映画を撮るのは初めてで、原作の内容をうまくカットできなくて、時間もなく、シーンのつながりをどうしたらいいのか困って。そんなときに生まれたのがあの演出です。苦肉の策(笑)。今であれば、また違った見せ方になっていたのかもしれないと考えたらおもしろいです。

現場で、15年前と比べて変わったと感じる瞬間はありましたか?

知り合いが増えたことかな。今回は知っている人が8割くらいという現場でした。『ドロップ』のときは、撮影監督や装飾部さん一人一人に「こういう風に撮りたいんです」と、細かく説明していたのですが、今回は、「こんな映画を撮りたい」と言えばもうみんな分かってくれる。ツーと言えばカーで共通言語ができているのはすごくありがたい。それは現場でも同じで、例えば「ナメのカットバック撮って」と言ったら、昔は「肩だけナメる? 頭だけ? それとも肩から頭まで?」みたいな会話をしていたのですが、今は、“このシーンではこういうカットが必要”という意思の疎通がすでにできているんですよ。だから撮影がめちゃくちゃ早くなった。その分、前よりもカット数が撮れるようになりました。

キャラクターは本人の面白さや表情なども取り入れる

演者に対しては、意思の疎通ができている品川組に参加してもらっているという感じなのでしょうか?

そうですね。昔みたいに一人一人と深くコミュニケーションを取るのは役者さんくらいかも。でも芸人やっているんでコミュニケーションの取り方で苦労したことはないですね。あとやはり周りがチームなので、僕が何かを言えばすぐに笑ってくれるんですよ。で、それを見た役者さんも自然に笑ってくれる。いつの間にか輪ができています。やはりみんなに楽しんでもらえる現場が一番です。

井口を演じた倉さんをはじめ、若い俳優の方がキャストに多いですが、キャラクターについてはどのようなお話をされたのですか?

キャラクターについてはそんなに話していないかな。原作もあるのでそこから広げて書いているし。もちろん、こういう伏線があるからこういう態度をとっている。こういう思いがあるからここの立ち位置はこう。みたいな話はしましたが、まぁ脚本どおりという感じです。

ちなみに僕、脚本を書くときに本人のキャラクターもトレースするんですよ。本読みとか空いている時間の雰囲気を見て、本人の持っている面白さとか表情を発見して付け加えていく。そうすると、よりキャラクターが本人に馴染んで自然になっていきます。もちろん本人に寄せすぎてもダメなので調整は必要ですが、カメラの前に立ったときは、キャラクターについてはそこまで話をしていないです。

それぞれのキャラクターにピッタリのアクションでしたが、アクションシーンでもおまかせなのですか?

アクションは相当厳しくやりました。キャラクターに寄せて、あなたは蹴り技、投げ技……など話して、アクション練習もしっかりやっていたので、みんな相当、まいっていましたね(笑)。実は僕の現場ってしんどいんですよ。撮影時間も長いし、アクションで体もボロボロになるし……。そしてそれはスタッフも同じ。僕もみんなに対してしんどいことをやらせているとわかっているからこそ、現場には笑いが必要だなって思っています。笑いがないと耐えられない。無邪気に面白いものが撮れるからいいじゃんというわけにはいかないです。

みんなが楽しくなって、いい映画が撮れたら最高

Ⓒ吉本興業

自分だけではなく“みんなも現場が楽しくないといけない”という考えは昔からあったのですか?

頭の片隅にはあったけど、今ほど考えていなかったです。昔は映像さえよければみんな喜んでやってくれるでしょうという気持ちの方が強くて。ところが、『ドロップ』の公開時期のインタビューで成宮寛貴くんと水嶋ヒロくんが、「脚本には河原でケンカをして勝つとか負けるとしか書いていないのに、まさか1日かけて撮影するとは思わなかった。でも監督が楽しそうだったから何も言えなくて……」と答えていて。みんな楽しいと思っていたけど、実は大変だったんだと知ったというか(笑)。

『漫才ギャング』(11年)のときに相方の庄司(智春)を現場に呼んで、泣くシーンの撮影が終わった石原さとみちゃんに絡むというメイキングを撮ったんですよ。本当におもしろいものを撮りたいという気持ちだけで。そしたら後から、さとみちゃんに「すごく困った」と言われて(笑)。“おもしろければなんでもいい”というのは映画の現場では違うなって。以降は、シリアスなシーンは静かに、楽しいシーンは楽しく、アクションシーンは声を出す、のようにシーンによってメリハリをつけて現場にいるようにしています。

現場に立ち続けることでわかったことも多いのですね。

本当に(笑)。わかったことは多いです。でも僕、表に出る方だと厳しい現場はわりと好きなんですよ。今の時代に合っていないのかもしれないですが、ピリついた現場に憧れがあるというか。死ぬ思いで1本の映画を撮っている感じがなんかいいんですよ。僕は、俳優のときは、「もっとこうしよう」とか監督に言われたいタイプ。追い込まれるのが楽しいというか、自分の知らない何かが出てくる感じもするし、後々、思い出に残ってみんなで笑える気もする。ただ、自分の現場だとピリピリした感じは僕が耐えられない。どうしても僕が疲れてしまいますから。現場が楽しく、映画が面白くなるのが一番です。

現場で気をつけていることはありますか?

やはり笑っているとパフォーマンスはあがると思います。例えば僕が怖くて「もっとできるだろう!」っていつも怒っていたら、どんなシーンでも僕に怒られてしまわないか、僕のことが怖いという感情が入ってしまう気がするんですよ。それって芝居の邪魔でもあるんで。アクションシーンでも、怒ったからといって跳び蹴りの高さがあがるわけではない。それなら、どうやったら高く見せられるのか、どうやったら高く飛べるのかを考えた方がいい。

僕が「低っ」って笑いながら言ったら、役者も「すみませんっ」って笑って答えてリラックスできたりするんですよ。それで1ミリでも2ミリでも高さが上がったら大成功で。そういう場面はよくつくるようにしています。

現場に笑いがあるって大事なんですね。

昔、何かで知ったのですが、口角を上げて小説を読むと内容がどうであれ面白く感じるなど、脳みそは口角が上がっていると自分が楽しいことをしていると勘違いしてしまうらしいんです。僕はそれを知ってから、単独ライブや新ネタの前など緊張するときは、鏡を見て笑顔をつくるようにしています。僕って笑顔を信じているのかな? でもそれによって、みんなが楽しくなって、いい映画が撮れたら最高ですから。とくにアクションシーンなんて笑いがないと、体がついていかないですよ。

アクションシーンが満載の本作ですが、「不良を描く作品は最後のつもりで撮った」とコメントを出されていました。

好きなジャンルだし楽しいので、最後かと言われたらわからないですが……。年齢もあるし、最後になるという思いで気持ちをぶち込みました。で、できあがった作品を観たら、やはり自分の作品は好きだなと思いました。全く飽きない(笑)。高級フレンチも食べるけど、自分のつくった玉子焼きもおいしいじゃないですか。その感じに近いんですよ。これはこれで好き。観てくださる方がどう感じるかわかりませんが、一緒につくった仲間たちが観て楽しいって言ってくれているので、それが一番うれしいです。

編集を含めて撮影だと思うように変わってきた

短編映画で監督としてのデビューしたのは31歳のときでした。昔から監督になりたいという気持ちはあったのですか?

映画が好きで、16歳くらいから映画監督になりたいという気持ちはありました。同時期にダウンタウンさんの漫才に触れてお笑い芸人にもなりたくなって。芸人もやりたい、監督にもなりたいと思っていたら、(ビート)たけしさんが監督としてどんどん成功していって……。

芸人で成功したら監督ができるという道があるんだと、これはいいと思ったんですよ。でも“なりたい”という気持ちはあるけど、それだけでしたね。何かを学んだり、構想を練ったりとかはしていなくて。まず自分が芸人として売れなきゃ映画もつくれないので、ネタを考えるのが一番でした。でもそのときから何かをつくって発表することはよくしていました。ネタはもちろんですが、ブログを毎日書いたり、小説を書かせてもらったりして。その辺りは、今でも活かされていると思います。

セリフのテンポ感や間などは芸人をやられている品川監督だからこその感覚があると思うのですが、俳優の方にはどのように伝えているのですか?

一つのセリフの強弱やスピードなどを細かく言うことはあります。それは同じ言葉でも突っ込みにもなるし、つぶやきにもなるので意外と大事。でも基本、編集でできるところは編集に頼っています。これは役者を信じていないということではなく、やはり現場で気持ちのいい言い方ってあるんですよ。それを無理矢理、「このスピードで、この間で」と言うのは無理があるので。

ちなみにこれは、セリフだけではなくドアが閉まる音や靴の音などすべてで言えることです。編集でコマを抜いてテンポを出して観やすくするのも必要ですから。そういう編集を含めて撮影だと考えています。

それは『ドロップ』を撮影していたときから感じていましたか?

あのときは、脚本を書いているときは脚本のこと、撮影のときは撮影、編集のときは編集……と。そのときやっていることしか考えられていなかったんですよ。だから、『ドロップ』は外観がほとんど映っていません。アクション以外はほぼワンシーン、ワンカット、セリフは長回しで撮ったので。助監督にも「時間の関係で必要となるから外観や手元を撮っておいた方がいい」と言われたのに、「編集に頼ってしまうので撮らないです」と一切撮らなかった。そうしたら編集がめちゃくちゃ大変で(笑)。なので、今は手元も外観も、ほかの監督より撮るようになったと思います。

それは作品を俯瞰してとらえられるようになったからですか?

それもあると思うけど、時代もあると思います。スマホで見る人が増えて必ずしも映画館がゴールではないというか。スマホだと、長回しのシーンは表情が見えにくいんですよ。なので、表情を見せる顔の寄りや手元が増えたりしているのかも。スピード感も変化していますが、昔より少し丁寧なつくりになっているのかもしれません。

“思ったら動く”をしないと本当にやりたいことにたどり着けない

クリエイターとして大事にしていることを教えてください。

“思ったら動く”ことです。アメリカに行ったとき、ストライキのために撮影がなくなって、急に海外ドラマでよく使われているステディカム(移動映像をなめらかに撮れるカメラ機材)のワークショップに行きたいと思い立ち、L.A.からメイン州(米国最北東部に位置する州)まで飛行機に乗って行ったんです。しかも、飛行機が欠航して1泊ほどかかったのですが、どうしても学びたいと思って。

でも僕、別にステディカムをメインに使っているわけではないんです。ただ、ステディカムオペレーターは1日のギャラがとても高いので、もし僕がステディカムを使えたらその分、映像にお金をかけられるなと思ったのがきっかけ。また、ステディカムの撮り方を覚えれば、アクションシーンのときにステディカムで撮る殺陣とのつながりを考えられるし。そうすることで世界が広がるんですよ。

ちなみに、僕がステディカムを勉強したことは、しつこいくらいカメラのYoheiさん(Yohei Tateishi)には伝えました(笑)。まぁ自慢もありますが、Yoheiさんの刺激になったらいいなって。やはり興味を持ったことはやらないとダメだと思います。

例えば、アメリカに尊敬するメイクさんがいてメイクさんになりたいと思ったとき、無理してでもそのメイクさんのところ、せめてアメリカには行ってみることが大事です。日本でメイクを習っていつかは……とやっていると、自分が思っている方向とは違うところに進んでしまっていることがありますから。

ほんの少しでも自分のやりたい方向に角度を合せていかないと、本当にやりたいことはできなくなってしまう。そのためには今の仕事を少しでも休んでみるのもいいと思います。食うために働くだとさびしいですから。

そのためには常にアンテナを張っていないとダメですね。

まぁ、僕はそれが趣味になっているんで。映画を観たり、ロケ現場に行ったり、アクション映画が好きだから格闘技を習おうとか、これはすべて趣味です。そして趣味が自分のやりたいことにつながっていく……。最高ですね。

取材日:2023年9月6日 ライター:玉置 晴子 撮影:島田 敏次 映像編集:指田 泰地

『OUT』


ⓒ2020「OUT」製作委員会

11月17日(金)全国公開

出演:倉 悠貴 醍醐虎汰朗 与田祐希(乃木坂46) ⽔上恒司
   與那城 奨(JO1) ⼤平祥⽣(JO1) ⾦城碧海(JO1)
   小柳 心 久遠 親 山崎竜太郎 宮澤 佑 長田拓郎 仲野 温

原作:井口達也/みずたまこと『OUT』(秋田書店「ヤングチャンピオン・コミックス」刊)
監督・脚本:品川ヒロシ
制作:吉本興業 制作協力:ザフール 配給:KADOKAWA
Ⓒ2023『OUT』製作委員会
Ⓒ井口達也・みずたまこと(秋田書店)2012

公式HP:https://movies.kadokawa.co.jp/out-movie/
公式Twitter:@out_moviejp

 

ストーリー
“狛江の狂犬”と恐れられた伝説の超不良・井口達也が、少年院から出所した。地元から遠く離れた叔父叔母の元、焼肉店・三塁で働きながらの生活を始めるが、保護観察中の達也は、次喧嘩をすれば一発アウトだ。そんな彼の前に現れたのは、暴走族「斬人(キリヒト)」副総長の安倍 要。この出会いが達也の壮絶な更生生活の始まりだった。暴走族の抗争、新しい仲間・家族との出会い、守るべきものができた達也の進む道は──。

プロフィール
『OUT』 監督
品川 ヒロシ
1972年、東京都生まれ。1995年、庄司智春とお笑いコンビ・品川庄司を結成。芸人としてテレビ、舞台など第一線で活躍するほか、俳優としても注目を集める。2003年、短編映画『two shot』で監督デビュー。2008年には、品川ヒロシ名義で発表された自著を原作とした『ドロップ』で監督・脚本を務め、観客動員数150万人を突破する大ヒットを記録する。その後も、監督・脚本作の『漫才ギャング』(11年)『サンブンノイチ』(14年)、『リスタート』(21年)などヒット作を発表。また「異世界居酒屋『のぶ』」(20年WOWOW)「オリジナルドラマ ドロップ」(23年WOWOW)などでドラマシリーズの監督・脚本を担当するほか、舞台「池袋ウエストゲートパークTHE STAGE」(21年)の演出を担当するなど活躍の場を広げている。

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