自分の“好き”を思い出す。FFF-S受賞の福岡佐和子監督が映画『スミコ22』で描いた、日常の尊さ
「自分の感覚が、いつの間にかひどく曖昧なものになっている」。映画『スミコ22』は、ぼやけてしまった自分の感覚を思い出すために、主人公が自分自身と向き合う物語です。「自分とたしかに過ごす毎日。」のキャッチコピーのとおり、自分の好き嫌いや得手不得手を無視せず、心の機微を繊細に感じ取る主人公の姿が丁寧に描かれています。
映画のもとになったのは、福岡佐和子監督の実際の日記。当時を振り返り「あの時期は気づいたら泣いていて、涙の理由も自分では分からなかった」と、福岡監督は話します。
「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(以下、FFF-S)」の受賞者でもある福岡監督。FFF-Sは、クリエイターズステーションを運営する株式会社フェローズ主催の、学生のための映画祭です。『スミコ22』に込めた思いや撮影中のエピソード、そして受賞経験のあるFFF-Sについて、お話をうかがいました。
『スミコ22』のベースは福岡監督の日記
『スミコ22』は、福岡佐和子さん・はまださつきさんの映像制作ユニット「しどろもどリ」の新作映画ですね。今回は福岡さんが監督を務め、はまださんは主人公の友人役で出演しています。しどろもどリでは、福岡さんが監督を担当することが多いんですか?
本日の取材には、はまださんにもご同席いただきました。おふたりは、ユニットを組むだけではなく、住まいも同じだそうですね。
『スミコ22』の脚本のベースは、福岡監督が書いていた実際の日記なんですよね。
映画では、自分の感覚が分からなくなった主人公が、自分自身の気持ちを再確認する姿が描かれています。福岡監督も、主人公と同じく自分の感覚がぼやけた時期があったんですか?
仕事の忙しさで、いっぱいいっぱいになってしまったんでしょうか?
会社にいる時は、私という“ひとりの人間”ではなく、“目的のために仕事をこなす一部”になっている感覚が強くて……。自分自身について考える余裕もありませんでした。
福岡監督が仕事で悩む様子を、一緒に暮らしていたはまださんは見ていましたか?
はまださんが、背中を押してもらった感じですか。当時のやり取りを教えていただけますか?
映画のベースになった8月から9月の日記は、会社を退職してすぐの時期。主人公のスミコと同じように、アルバイトをしながら、ゆっくりと自分と向き合いました。
自分の心と向き合うスミコの姿は、映画を見る人たちにもハッと気づきを与えるのではないかと思います。映画を完成させて、福岡監督ご自身の気持ちに変化はありましたか?
ワークショップは和室で。サイコロトークで交流
キャスティングは、オーディションではなくワークショップを通して決めたそうですね。
ワークショップの中で、記憶に残っている出来事はありますか?
『スミコ22』で主演を務めた堀 春菜(ほり はるな)さんも、ワークショップの参加者ですね。堀さんの第一印象は、いかがでしたか?
その後、撮影現場で何度も話をしたけど、第一印象と大きく変わりはないです。最初に感じた印象そのままの人だな、と今も思っています。
福岡監督から、主演の堀さんに演技指導はしましたか?
「現場に苦手意識があった」周囲に助けられた撮影期間
『スミコ22』は、クラウドファンディングも実施しています。どのような経緯で行うことになったんですか?
資金集めではなく、映画やユニットのファンを作ることがクラウドファンディングのメインの目的だったんですね。その後、監督として撮影を始めて、なにかご苦労はありましたか?
今まで取り組んでいた自主制作の映画と比較すると、『スミコ22』は関わってくれる人の数がすごく増えたんです。初めて関わる方たちにどうアプローチすればいいのか分からず、最初は本当に手探りの状態でした。
監督として、周囲とのコミュニケーションが必要になる場面は多いですよね。「手探りだった」とのことですが、当時はどのように撮影を進めていったのでしょうか?
当時を振り返ると、余計な心配をしていた気がします。分からないことが多いせいで、形のない漠然とした不安がありました。撮影がスタートしたら、周りは信頼できる人たちばかり。安心して仕事を任せられる嬉しさを感じました。
「安心して仕事を任せる」というのは、具体的にどのような方法で?
FFF-S受賞者でもある福岡監督「自分のやりたいことをやって」
福岡さんは、FFF-Sにも応募していますね。『スーツと私服と昨日のカレー』で、第4回FFF-Sの優秀賞を獲得しています。受賞後、なにか変化はありましたか?
FFF-S受賞者の福岡さんが商業映画の監督として活躍している姿は、映像作品と向き合う学生さんたちの励みになると思います。学生さんに向けて、なにかアドバイスをいただけますか?
私たちも「これがやりたい!」という気持ちだけで動いてきました。『スミコ22』の脚本も、自分からプロデューサーの髭野さんに連絡をして読んでもらったんです。もともと、別の映画祭をきっかけに面識はあったんですけど……。それでも「脚本を読んでくれませんか?」と連絡する時は、やっぱり緊張しました。
製作会社の方に、自分からアプローチをしたんですね。すごい行動力です。
最後に、『スミコ22』をご覧いただく方に、福岡監督からメッセージをお願いします。
取材日:2024年5月9日 ライター:くまの なな ムービー撮影・編集:宮澤 剛史
『スミコ22』
ⓒ「スミコ22」
6月29日(土)より新宿K’s cinemaにて公開
キャスト:
堀春菜 はまださつき 松尾渉平 樹 安楽涼 梶川七海
イトウハルヒ 川本三吉 遠藤雄斗 瀬戸璃子 中川友香
安川まり 原恭士郎 黒住尚生 東宮綾音 木村知貴
工藤祐次郎
監督・脚本・編集:福岡佐和子
助監督:はまださつき
制作:原恭士郎
プロデューサー:髭野純
撮影・グレーディング:中村元彦
録音・整音:堀内萌絵子
録音助手:稲生遼
制作応援:藤咲千明
スタイリスト:大場千夏
スチール:新藤早代
宣伝デザイン:東かほり
音楽:ゴリラ祭ーズ
製作・配給:イハフィルムズ
企画・制作:しどろもどリ
公式HP:https://sumiko22.amebaownd.com/
X:https://x.com/SUMIKO_22_
Instagram:https://www.instagram.com/sumiko_22_/
ストーリー
友人とエビフライパーティーをしている静岡スミコはふと思う。自分の感覚がいつの間にかひどく曖昧なものになっている。何が猛烈に好きで何が耐え難く嫌いか、何を面白く思っていて何を喋りたいのか、そのどれをもちっとも感じられないまま人生を過ごしてしまっていると。
大学を卒業して入社した会社を4ヶ月でやめたスミコ。新生活の中で、自分がたしかに思っていることを たしかに思っているな と思いながらすごそうとしている。
日本大学 芸術学部映画学科 卒業
第4回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 優秀賞
しどろもどリHP:https://shidoromodori.amebaownd.com/
しどろもどリTwitter:https://twitter.com/shidoromodori