映像2024.06.19

自分の“好き”を思い出す。FFF-S受賞の福岡佐和子監督が映画『スミコ22』で描いた、日常の尊さ

Vol.64
『スミコ22』監督
Sawako Fukuoka
福岡 佐和子
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「自分の感覚が、いつの間にかひどく曖昧なものになっている」。映画『スミコ22』は、ぼやけてしまった自分の感覚を思い出すために、主人公が自分自身と向き合う物語です。「自分とたしかに過ごす毎日。」のキャッチコピーのとおり、自分の好き嫌いや得手不得手を無視せず、心の機微を繊細に感じ取る主人公の姿が丁寧に描かれています。

映画のもとになったのは、福岡佐和子監督の実際の日記。当時を振り返り「あの時期は気づいたら泣いていて、涙の理由も自分では分からなかった」と、福岡監督は話します。

「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(以下、FFF-S)」の受賞者でもある福岡監督。FFF-Sは、クリエイターズステーションを運営する株式会社フェローズ主催の、学生のための映画祭です。『スミコ22』に込めた思いや撮影中のエピソード、そして受賞経験のあるFFF-Sについて、お話をうかがいました。

『スミコ22』のベースは福岡監督の日記

『スミコ22』は、福岡佐和子さん・はまださつきさんの映像制作ユニット「しどろもどリ」の新作映画ですね。今回は福岡さんが監督を務め、はまださんは主人公の友人役で出演しています。しどろもどリでは、福岡さんが監督を担当することが多いんですか?

福岡監督:いえ、どちらかが監督・どちらかがキャストと決まっているわけではないんです。今回の映画『スミコ22』では私が監督を務めましたが、作品によっては、さつきちゃんが監督をする場合もあります。

本日の取材には、はまださんにもご同席いただきました。おふたりは、ユニットを組むだけではなく、住まいも同じだそうですね。

はまださん:はい。『スミコ22』の主人公が住む部屋は、私と佐和子ちゃんの部屋をモデルにしてインテリアなどのイメージを固めました。

『スミコ22』の脚本のベースは、福岡監督が書いていた実際の日記なんですよね。

福岡監督:2022年8月後半から、9月の私の誕生日までの15日間の日記が、脚本のベースになっています。ただ、あくまでベースです。主人公のスミコは、私とは違う22歳の女の子。撮影中も、自分を過度に反映せず、自分とは違う人格をもつ子として考えていました。

映画では、自分の感覚が分からなくなった主人公が、自分自身の気持ちを再確認する姿が描かれています。福岡監督も、主人公と同じく自分の感覚がぼやけた時期があったんですか?

福岡監督:そうですね。大学卒業後に会社員として働いていたんですが、就職してしばらくして、悲しい気持ちから抜け出せなくなってしまって。家でも、時には職場でも、涙が止まらなくなることがあったんです。自分でも、泣いている理由が分かりませんでした。

仕事の忙しさで、いっぱいいっぱいになってしまったんでしょうか?

福岡監督:テレビの映像編集者だったので、たしかに多忙ではありました。ただ、単純な忙しさだけではなく、気に入っていたはずの自分から離れてしまったことが理由のひとつかもしれません。

会社にいる時は、私という“ひとりの人間”ではなく、“目的のために仕事をこなす一部”になっている感覚が強くて……。自分自身について考える余裕もありませんでした。

福岡監督が仕事で悩む様子を、一緒に暮らしていたはまださんは見ていましたか?

はまださん:家でも、佐和子ちゃんはよく泣いていました。朝早くに家を出て、帰りは遅い。友達としても、とても心配でした。
福岡監督:泣いている理由を聞かれても、自分でも分からないから言葉にできないんです。原因不明のモヤモヤが消えないことが、すごく苦しかったです。会社を辞める最後の後押しは、さつきちゃんにしてもらいました。

はまださんが、背中を押してもらった感じですか。当時のやり取りを教えていただけますか?

福岡監督:さつきちゃんに仕事がつらいことを話すと、とにかく明るく「辞めちゃえ!」とバッサリ言われました。(笑)自分だけで考えていたらすぐには決断できず、ズルズルと続けていたと思うので、さつきちゃんの前向きな潔さはありがたかったですね。

映画のベースになった8月から9月の日記は、会社を退職してすぐの時期。主人公のスミコと同じように、アルバイトをしながら、ゆっくりと自分と向き合いました。

自分の心と向き合うスミコの姿は、映画を見る人たちにもハッと気づきを与えるのではないかと思います。映画を完成させて、福岡監督ご自身の気持ちに変化はありましたか?

福岡監督:今回の脚本を書いて、なんとなくこれからも自分は大丈夫かもしれない、と思えました。自分と会話して、付き合っていこうとしていることに気づけたから。この映画を将来見返すたびに、自分に心をくれるような気がします。

ワークショップは和室で。サイコロトークで交流

「しどろもどリ」のはまださつきさん(左)と福岡佐和子さん(右)

キャスティングは、オーディションではなくワークショップを通して決めたそうですね。

福岡監督:はい。本作プロデューサーの髭野純さんが一緒に開いてくださりました。『スミコ22』以外でも、なにかの機会でご一緒できる方と出会えたらと思ったんです。実際にお話ししたり、その人がもつ雰囲気を感じる中で、さつきちゃんとも相談しながらキャストを決めていきました。

ワークショップの中で、記憶に残っている出来事はありますか?

はまださん:思い出に残っているのは、サイコロにトークテーマを書いてコロコロ転がして、出た話題に沿って話をしたことです。佐和子ちゃんや私も、ワークショップに参加してくれた方たちと一緒に和室で輪になって座り、皆さんといろいろお話ししました。
福岡監督:ワークショップで出会った皆さん、本当に素敵な方ばかりでした。自分が思ったことを正直に話してくれている感じがして、嬉しかったのを覚えています。

『スミコ22』で主演を務めた堀 春菜(ほり はるな)さんも、ワークショップの参加者ですね。堀さんの第一印象は、いかがでしたか?

福岡監督:堀さんは、声がすごく素敵なんです。聞いていて安心する声。会話の内容も裏表がないというか、そのままの自分で話してくれている感覚がありました。
その後、撮影現場で何度も話をしたけど、第一印象と大きく変わりはないです。最初に感じた印象そのままの人だな、と今も思っています。

福岡監督から、主演の堀さんに演技指導はしましたか?

福岡監督:「この日記を書いた時は、こういう気持ちでした」とは伝えましたが、細かな演技指導まではしませんでした。最初に台本を読んでもらった時から、堀さんの演技に違和感がなかったから。お互いの認識がズレることなく、撮影を進めることができました。
はまださん:撮影中、私たちが暮らす家に堀さんが泊まりに来てくれたこともありました。
福岡監督:寝ている時に、私が堀さんを蹴っちゃって……。申し訳なかったです。

「現場に苦手意識があった」周囲に助けられた撮影期間

撮影現場で

『スミコ22』は、クラウドファンディングも実施しています。どのような経緯で行うことになったんですか?

福岡監督:クラウドファンディングは、プロデューサーの髭野さんからのアドバイスで挑戦することになりました。『スミコ22』は小規模の劇場公開なので、まずは映画の認知度を少しでも上げること。そして、映画や私たちの映像制作ユニット「しどろもどリ」の仲間を増やすこと。その2つを目的に、クラウドファンディングを実施しました。

資金集めではなく、映画やユニットのファンを作ることがクラウドファンディングのメインの目的だったんですね。その後、監督として撮影を始めて、なにかご苦労はありましたか?

福岡監督:もともと大学の映画学科でシナリオを書く勉強だけをしてきたので、現場に対して苦手意識が結構ありました。実際に現場に入ると楽しいんですけどね。

今まで取り組んでいた自主制作の映画と比較すると、『スミコ22』は関わってくれる人の数がすごく増えたんです。初めて関わる方たちにどうアプローチすればいいのか分からず、最初は本当に手探りの状態でした。

監督として、周囲とのコミュニケーションが必要になる場面は多いですよね。「手探りだった」とのことですが、当時はどのように撮影を進めていったのでしょうか?

福岡監督:ただただ、周囲の方に助けられました。撮影に参加してくれた方たちが、全員きっちりとプロの仕事をしてくれたんです。撮影が進むにつれて「この人たちを信頼していいんだ」と安心できて、自然と肩の力が抜けました。

当時を振り返ると、余計な心配をしていた気がします。分からないことが多いせいで、形のない漠然とした不安がありました。撮影がスタートしたら、周りは信頼できる人たちばかり。安心して仕事を任せられる嬉しさを感じました。

「安心して仕事を任せる」というのは、具体的にどのような方法で?

福岡監督:たとえば、衣装。今までは自分で衣装を用意していたけど、『スミコ22』では衣装さんが参加してくれたんです。自分だけで考えると、どうしてもテイストやブランドが偏るんですよね。衣装さんを信じて「この役の性格はこうだから、そういう子が着る服にしたいんです」とイメージを伝えただけで、役にぴったりの服を探し出してくれました。

FFF-S受賞者でもある福岡監督「自分のやりたいことをやって」

福岡さんは、FFF-Sにも応募していますね。『スーツと私服と昨日のカレー』で、第4回FFF-Sの優秀賞を獲得しています。受賞後、なにか変化はありましたか?

福岡監督:この映画は、自分たちが楽しむために脚本を書いて、楽しく撮る……というスタンスで完成させたものです。それを評価していただけたのは、やっぱり自信になりましたね。「自分がやりたいことを、やりたいままにやるっていいな」と心から思えました。

FFF-S受賞者の福岡さんが商業映画の監督として活躍している姿は、映像作品と向き合う学生さんたちの励みになると思います。学生さんに向けて、なにかアドバイスをいただけますか?

福岡監督:映画祭やコンテストなどは、好きなことをわーっとやった結果を見てもらえる場だと思っています。やりたいことをやってほしいし、好きなことを好きでいてほしい。

私たちも「これがやりたい!」という気持ちだけで動いてきました。『スミコ22』の脚本も、自分からプロデューサーの髭野さんに連絡をして読んでもらったんです。もともと、別の映画祭をきっかけに面識はあったんですけど……。それでも「脚本を読んでくれませんか?」と連絡する時は、やっぱり緊張しました。

製作会社の方に、自分からアプローチをしたんですね。すごい行動力です。

福岡監督:映画化についての相談ではなく、単純に脚本を読んでもらいたかったんです。感想をいただけるだけでもすごく嬉しいし、ありがたいことなので。結果的に映画化に協力いただけることになり、本当に感謝しています。

最後に、『スミコ22』をご覧いただく方に、福岡監督からメッセージをお願いします。

福岡監督:忙しくなると、私もいまだに自分が考えていることがよく分からなくなります。日常の中で自分の感情をキャッチしながら生きていくのは、結構難しいから。できない時もあるけど、できたら嬉しい。一緒に頑張りましょう、と伝えたいです。

取材日:2024年5月9日 ライター:くまの なな ムービー撮影・編集:宮澤 剛史

『スミコ22』

ⓒ「スミコ22」

6月29日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

キャスト:
堀春菜 はまださつき 松尾渉平 樹 安楽涼 梶川七海
イトウハルヒ  川本三吉 遠藤雄斗 瀬戸璃子 中川友香
安川まり 原恭士郎 黒住尚生 東宮綾音 木村知貴
工藤祐次郎

監督・脚本・編集:福岡佐和子
助監督:はまださつき
制作:原恭士郎
プロデューサー:髭野純
撮影・グレーディング:中村元彦
録音・整音:堀内萌絵子
録音助手:稲生遼
制作応援:藤咲千明
スタイリスト:大場千夏
スチール:新藤早代
宣伝デザイン:東かほり
音楽:ゴリラ祭ーズ
製作・配給:イハフィルムズ
企画・制作:しどろもどリ

公式HP:https://sumiko22.amebaownd.com/
X:https://x.com/SUMIKO_22_
Instagram:https://www.instagram.com/sumiko_22_/

ストーリー

友人とエビフライパーティーをしている静岡スミコはふと思う。自分の感覚がいつの間にかひどく曖昧なものになっている。何が猛烈に好きで何が耐え難く嫌いか、何を面白く思っていて何を喋りたいのか、そのどれをもちっとも感じられないまま人生を過ごしてしまっていると。
大学を卒業して入社した会社を4ヶ月でやめたスミコ。新生活の中で、自分がたしかに思っていることを たしかに思っているな と思いながらすごそうとしている。

第7回フェローズフィルムフェスティバル 学生部門(FFF-S)

株式会社フェローズが主催する学生のための「短編映画祭」では、国内の学生を対象に4分以内のショートフィルムを募集しています。
応募期間:2024年7月1日(月)~9月30日(月)

詳細はこちら→https://www.fellow-s.co.jp/fff-s/

プロフィール
『スミコ22』監督
福岡 佐和子
1999年9月生まれ。千葉県出身。
日本大学 芸術学部映画学科 卒業
第4回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 優秀賞
しどろもどリHP:https://shidoromodori.amebaownd.com/
しどろもどリTwitter:https://twitter.com/shidoromodori

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