『侍タイムスリッパー』と『将軍SHOGUN』
今日は時代劇の話です。ちょっと前の世代では、「おじいちゃんおばあちゃんが時代劇を見ていて、夕方~夜の早い時間帯にはチャンバラが流れている」という光景はありふれたものだったと思います。かくいう私もその最後の世代に位置すると思うのですが……
時は流れ、年末の一回すら民放が時代劇を維持できなくなり、NHKと映画に其れが託され……
少しずつ時代劇が廃れていきました。
そんな中、時代劇復興とも言える出来事がいくつか起きました。
一つは『るろうに剣心』実写化の成功です。
監督は大河ドラマ『龍馬伝』から出てきて、チームは基本その時のメンバーで構成されています。時代劇は太秦(東映太秦映画村)の協力なしに作れません。(例外もあるけれどほぼほぼ太秦)同時に、岩手に『陰陽師』(今年上映の映画ではなく、一つ前の方のです)の際に作られた撮影ロケ地があります。
もう一つ、映画としては『のぼうの城』を上げます。なぜエポックメイキングなのかというと、これはオリジナルだからです。厳密にいえば違いますが、オリジナルです。
どういうことかというと、のぼうの城はそもそも城戸賞という若手脚本家を発掘するための賞をもらっています。入選該当者なしが9回連続で続く、プロデビュー後に出しても通らないなど……なかなか難易度の高い賞で、新人脚本家の登竜門といわれる一方で、「映画界の芥川賞」とも呼ばれています。そして、脚本家を目指す方やデビューした方には知られていることなのですが、この賞だけが、基本的に「時代劇」をよしとしているのです。※他は実写化した際の予算的ハードルが高いために基本的に却下されています※
ところが、それでも予算が高すぎる……
時代劇はそれくらい敬遠されており、のぼうの城も賞を取ったところで実写化は無理だといわれていました。そこで、作者の和田竜さんは、ベストセラーを狙って小説にし、また見事に小説があたって、「実写化をゆるされた」というエピソードがあります。
『るろうに剣心』は漫画原作で、ファンが世界中におり、実写化が見事に成功してワーナーのもと世界へ届けられる流れでしたが、のぼうは遠回りで、元々映画を目指していた作品です。結果もちろん人気を博し、この年の日本アカデミーでも多数の優秀賞を受賞するなどの評価を受けています。
さて……話がずれましたが、そんな風に時代劇が退廃と復興を繰り返してきている中で、国内資産としてものすごい職人と、ものすごい技と伝統があるがなかなか評価にも予算にも繋がらないということで……悲しんでいる人は多くいました。そのうちの一人が、真田広之さんです。
俳優の彼はトム・クルーズのラストサムライからこの方海外で脚光を浴びる時代劇・サムライへの誤解に心を痛めながら、また自分自身も誤解をうけとめつつ仕事をする中で、いつか本格派を作るという志のもと動いていました。
そうして出来たのが今年エミー賞を総なめにした『将軍 SHOUGUN』です。
日本人が思う本物の時代劇……それに必要なスタッフを、本当に使って作った時代劇。キャストも無理に海外に拘っていません。必要な技術を必要なだけ使っています。そうなるようにする土台を作ってきた努力と実力はとんでもないとおもいます。
一方で……インディーズでコツコツと作り続ける中で、どうしてもやりたい時代劇をこちらも、ちゃんとした形で、本物にお願いして撮影した監督がいます。それが安田淳一監督です。
作品の名前は『侍タイムスリッパ―』。初手はインディーズ映画ということで、池袋シネマロサ1館でほそぼそ8月17日から公開されていましたが、ギャガが配給について9/13(金)〜全国100館以上拡大しています。
第二の『カメラを止めるな』といわれていますが、この映画の凄いところは、インディーズであることではなく、内容です。監督は自主映画三本目。2本「拳銃と目玉焼」(2014年)、「ごはん」(17年)を劇場公開し、より多くの観客に届けようとしたのがこの作品ですが、制作費には苦労するおり、東映撮影所のプロデューサーに呼びだされたそうです。時代劇のスタッフが集まり基本的には自主製作では無理だ。人生を棒に振るから時代劇はやめろと言う面々が、「脚本が面白いから」と言う理由で、何とかしようと集結したというエピソードは今は少し有名になりつつありますが、撮影所を真夏の通常時代劇では使えぬ暑い時期だけ開放し、撮影所で活躍する殺陣師の集まり「東映剣会」が参加するという異例の時代に……。主演、助演含めて、「脚本が面白いから」という理由で、見事に口説き落として始まった撮影……。時代劇を残したい、時代劇は楽しいんだと、心から叫ぶような名作であり、ちゃんと娯楽映画に仕上がっています。
拡大が決まった数日後、将軍がエミー賞総なめ……とノリにのっている時代劇。
今後に期待したいところです。
どうにか、伸びてほしいという願いでいますが、兎にも角にも楽しいので、まだの方は是非。
どちらの時代劇も、「本物」があり、「拘り」があり、美しいうえで、楽しい。
古いものだからのこさなくちゃね、という話ではなく、ただただ「エンタメとして最高」なので、残そうと言いたくなる出来栄えです。
これまで切り捨てられてきた時代劇、脚光は浴びていますが、此処でちゃんと「継承」をしないと、それこそ美術や斬られ役、床山(かつらの専門職)、衣装さんが残りません。大河ドラマで辛うじて生き残っていても、他がないと保てないものも多くあります。
商業的な部分でいえば、同じるろうに剣心の監督作品 木村拓哉主演の『レジェンド&バタフライ 』も製作費20億→最終興行41.1億円、その前でも例えば制作費15億と噂される2016年公開堤幸彦監督・中村勘九郎主演『真田十勇士』6.08億円、2017年公開三池崇史監・木村拓哉主演『無限の住人』(原作漫画)9.65億円、製作費10億円以上の『たたら侍』は最終興行成績発表なし、2021年公開の原田眞人監督・岡田准一主演『燃えよ剣』が製作費約9億円・興行収益11.8億円となかなか厳しい様子です。
今は二次利用や、配信での収入もあるので、何とも言えない状況ではありますが、ヒットを短期感でみるのではなく、色々な形で見ていく必要もあります。同時に、時代劇はコストがかかり過ぎると切っていったときに、何が残るのか?という問題もあります。
今回の将軍SHOUGUNの件が見せたのは、海外には日本では当たり前だったもの(なもの、ではなく、もはや「だった」になりつつあるのが注意したいところ)にどれだけ需要があるのかということ。
欧米や海外に合わせる必要はなく、普遍的な作品や芸術は残っていくので、需要含めて、本当の意味でのグローバルを考えるときかもしれません。
海外の予算使ってやればいけるよ、というだけではなく、ちゃんと国内でも、安田監督のようなインディーズでも本当にいいモノを作る人たちにちゃんとお金をかけられるか、支援できるか……許可を出す側の見る目が問われる時代になっていると思います。
個人的には、異世界転生がバリバリに流行っていて、ドラマ化され世界へどんどん配信されている中国や韓国の動きを見ると、元々得意な脚本や素材は持っている日本こそ、もっと奇天烈な時代物(その中で技術はちゃんと継承されるもの)がふえてもいいのでは?と期待しています。
■作品リンク
・『侍タイムスリッパー』
・『SHOGUN 将軍』