映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第40回『大きな家』
『大きな家』
▶感動するだけじゃなく、社会的意義のある作品を探している人へ
新しい体感を得るドキュメンタリー度100
(公式サイトより)
東京の とある児童養護施設。ここでは、死別・病気・虐待・経済的問題など、さまざまな事情で親と離れて暮らす子どもたちと職員が日々を過ごしています。
家族とも他人とも言い切れない、 そんなつながりの中で育つ子どもたちの本音と、 彼らを支える眼差しに密着したこの映画。
生きることへの不安。うまく築けない人間関係。 変えられないものと、ともに生きていくということ。ここに映っているのは、特別なものではなく、葛藤しながらもたしかに大人になっていく姿と、それを包んでいる、いつか忘れてしまうような日常の景色です。
この映画を観終わったあとは、 彼らだけでなく自分が歩んできた道のりをきっと肯定したくなる。
そして、あなたの”ふつう”が少しだけ広がるかもしれません。
それぞれの子どもの物語を 7 歳、11 歳、12歳、14 歳…と年齢順に見せ、ひとりひとりに焦点を当て、その成長を追いながら、
今どんなことを考えているのか。何が好きなのか。どんな夢があるのか。何に悩んでいるのか。丁寧にあたたかな眼差しで子どもたちに密着していく。
監督は『14歳の栞』(2021)『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)で注目を浴びた竹林亮。『MONDAYS』では、日本映画批評家大賞で新人監督賞・編集賞を受賞したのも記憶に新しいが、『14 歳の栞』のときと同様に骨太なドキュメンタリー性も持ちながらも、竹林監督ならではの構成・編集・そしてなによりも”寄り添い聴く力”を活かし、さまざまな理由で親と離れて生活する子どもが児童養護施設という空間で、血の繋がりのない他の子どもや職員と過ごす、ありのままの日常をうつしだした群像ドキュメンタリーになっています。
竹林監督の『14 歳の栞』は公開から数年経ったいまでも春になると劇場での上映が続いておりますが、配信は一切なし、劇場のみで上映することで被写体のプライバシーを守るという姿勢をとっています。
登場人物の写真撮影などを絶対にすることができない映画館でしか、観ることのできない映画です。
これは「多くの人にみせる」ことよりも「映画のなかの人を守ること」を大切にしているからこそ、選びとられた姿勢ですよね。
そして『14歳の栞』で出演者を守るこの姿勢に感銘を受けた齊藤工が、今作の企画プロデュースを担当し、こうコメントしています。
「私は、この作品を作るためにずっと映画に関わってきたのかもしれない。そんな、自分の理由になるくらいの作品ができました。」と。
映画をみた。スクリーンの中に登場した子どもたちの数だけ、真実があった。
激しく心が揺さぶられ、涙が止まらなかった。
でも、どうして自分がこんなに泣いているのか説明ができなかった。
でも今ようやくわかる気がする、
嘘がなく、迷いながらも一生懸命に進もうとしている姿は希望そのものだと思った。
皆で声を揃えた「いただきます」、分け合うケーキ、百名山、雪遊び、口喧嘩、初めて結ぶ制服のネクタイ、じゃれあった通学路、将来の夢について、「今日からお世話になります」のご挨拶、そして、「今までありがとう」のお別れのことば…。
大きな家で、それぞれが大きく成長する。嬉しいことも悲しいこともモヤモヤすることもいろんな瞬間が捉えられていく。
スクリーンで個性あふれる子どもたちが語る、自分のこと。施設での暮らしのこと。
葛藤している子も、立ち止まっている子も、皆、はっきりと質問に受け答えして、自分のことを話す。しっかりと今の自分を見つめている子たちばかりで、今はたくさん悩んでいたとしても、この先きっと大丈夫だと思わせてくれる何かがあった。皆が、とっても眩しかった。
日本には社会的養護が必要とされる子どもが約 4 万 2000 人いて、その半数以上が児童養護施設で暮らしているという。
決して少ないとは言えない数なのに、私は何も知らなかった。
いや、多分知ろうとしなかった。
白状すると、自分には何ができるのかわからないし、ちゃんと知ってしまったら、きっと苦しい気持ちになると思っていた。
幼稚で傲慢なフィルターを持つ自分に、情けなくなった。
避ける、ではないけれど、やはり”見ないように”していたんだと気付かされた。
子どもたちは皆、さまざまな事情で大きな家で暮らすことになり、大変なことも沢山あるかもしれない。
でも、皆の話をもっともっと聞いていたいと思えるくらい、悩みながらもたくましく生きていた。
悩んで生きているのは私たちみんな一緒なんだよね、と思った。だからこそ、人間はもう少しお互いに手を取りあって生きていかないといけないし、一緒に皆で前を向いて生きようねという心持ちになった。
この映画と出会わなければこの先もラベリングしていることにさえ気づかない人生を生きていたかもしれない。社会的にも意義のある映画になっている。
そして、”映画の本編には写っていないもの”について触れたい。
この映画の最大の魅力は子どもたちの嘘のない言葉だが、撮影チームが子どもたちとここまでの関係性を構築するのにどれだけの時間がかかったのか、についても考えたい。
SNSの影響や様々な面において、現代では言葉がどんどん軽くなって、刃のような言葉を投げかけたり、相手のことを想像せずに簡単に人を傷つける質問をする人が増えた。
おそらくインターネットの海を泳いだことのある人は皆、そのことに気づいているだろう。
誰かに言葉をかけるという行為は、本当はもうすこし緊張感を必要とすべきだし、関係性や時間をかけてたどり着かなければならないものが沢山あるはず。
でもこの映画からは、監督と子どもたちのやりとり、質問に対する回答を聞いていると、きっとしかるべき段階を経て撮影されたインタビューなのだろうと、誠実さを感じられた。
「竹林監督も齊藤さんやプロデューサーたちと、本格的な撮影期間に入る前に、カメラを持たず に 1-2 ヶ月に 1 度、定期的に施設に訪れ、施設の方や子どもたちと交流を重ねていきました。
本格的な撮影期間に入った際にも、事前の交流と同様に、監督と最小限の4人の撮影チームで 1 ヶ月に数回の頻度で半年間に渡って訪問し、子どもたちとの関係値を深めていき、撮影隊が当たり前にその場所 にいる環境を構築してから、その後、約1年半の長期の撮影に入りました」
とプロデューサーがお話されていますが、その下準備があるからこそ、ここまでの映像が撮れたのだろうと、”人”を大切にしている姿勢に頭が下がります。
映画の向こう側で制作陣と子どもたちの間に起きていたドラマを想像しても、胸が熱くなる。
私も、あなたも、スクリーンの君にも、皆の未来に幸あれ!そういう晴れやかな気持ちになる映画でした。
『大きな家』
12月6日(金)東京 ホワイトシネクイント・大阪TOHOシネマズ梅田・
名古屋センチュリーシネマ先行公開、他12月20日(金)全国順次公開
監督・編集:竹林亮
企画・プロデュース:齊藤工
プロデューサー:福田文香 山本妙 永井千晴 竹林亮
音楽:大木嵩雄 撮影:幸前達之 録音:大高真吾 音響効果:西川良
編集:小林譲 佐川正弘 毛利陽平 カラリスト:平田藍
制作統括:福田文香
宣伝プロデューサー:永井千晴 堀井美月
宣伝:冨永敬 夏生さえり 石倉一誠 大島育宙 岡崎アミ
イラスト:エイドリアン・ホーガン
スチール撮影:阿部裕介 題字:大原大次郎
パブリシティ:小野典子 坂本舞 山田七海
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