浅倉秋成による同名の大ヒットミステリー小説を映画化した『六人の嘘つきな大学生』。 人気エンターテインメント企業の新卒採用で最終選考に残った6人の大学生は、一つのチームを作りあげ、1カ月後のグループディスカッションに臨むことを課せられる。しかし急な課題の変更で、6人は一つの席を奪い合うライバルに。そんな中、怪しい封筒が発見され、6人の嘘と罪が暴かれていく……。 就職活動を舞台に6人の登場人物の裏の顔が巧みに暴かれていく密室サスペンス要素と、自らの人生に向かっていく青春ミステリーの要素が絡み合っていく本作。6人の大学生を浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠が演じる。 映画『キサラギ』(07年)でも密室サスペンスを描いた佐藤祐市監督に、密室劇のおもしろさやこだわり、クリエイターとして大事にしていることを伺った。
密室劇は画変わりがしないだけに、人の力が試される
『六人の嘘つきな大学生』は浅倉秋成さんの密室サスペンスが原作ですが、監督と言えば密室劇の『キサラギ』を思い出す人も多いと思います。
元々は、4、5年くらい前にお話をいただいたのが始まりで。原作を読んだら密室劇だったので「ぜひやらせてください」となりました。密室劇は大好物なんで(笑)。『キサラギ』のおかげか、密室劇が得意というイメージがありますが、それはひとえに脚本家・古沢良太のすごさがあると思っています。でも非常に光栄です。密室劇=佐藤祐市と言ってもらえるようになっていきたいです。
密室サスペンスのおもしろさはどこにあると思いますか?
これは答えになるかわかりませんが、私は限界のある空間で役者さんが一生懸命芝居をする話が好きで。画変わりがしないからこそ、芝居のテンションを保ったり、緊張感をキープしなければならず、それは役者さんにとって結構負荷がかかることだと思います。たとえば、きれいな夕焼けの中だと、何も言わずにそこに佇んでいるだけで何かを表現しているように見えて、涙を流してしまうことってあるじゃないですか。でも密室劇にはそれはない。バックグラウンドに力強いものがないからこそ人の力が非常に試され、そこにトライするのが非常におもしろいと私は思っています。
そのためにキャスティングはすごく大事になっていきますね。
もちろんです。今回もいろいろ考えたりしましたが、結果的に一緒に作品を作れた役者さんとは、出会うべくして会っていると思っています。作品に興味を示してくれたというのはもちろん、スケジュールがちょうど合ったりなど、さまざまなタイミングが関わって作品は作られていきます。すべて一期一会なんですよ。だから今回のキャスティングで作品を完成できたことに関してはありがたいという気持ちしかありません。
キャストたち自らコミュニケーションを取った信頼感のある現場
浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠の6人の演技も素晴らしかったですが、監督は現場でどのような話をされたのですか?
取り繕わず、私は感じたことや思っていることを話したつもりです。私、嘘をつくのが下手なので嘘はつかずに、こう思うけどどう思います?と正直に言いました。役者さんから案をいただいた場合は、よければみんなに協力してもらってやってみたり。そうすると、ほかの人の動きも少し変えた方がいいなどいろいろ出てきて…。今回はみんなでディスカッションしながら作っていけたと思っています。
キャストのみなさんは現場ではどのような雰囲気だったのですか?
すごく仲良かったと思います。撮影の合間も6人でずっと話をしていて。6人がコミュニケーションを取ってくれたことで、それぞれの仲が構築され、信頼感がある中で芝居をしていた気がします。そういう意味で、本当にみなさんはプロの仕事をしてくれたという印象です。そしてカメラの前ではそれぞれが自分の芝居を相手にきちんと提示していて、素晴らしかったです。
すごくバランスがいいように映りました。
おもしろいことに、この6人はリーダーがいないんですよ。普通、チームになって芝居をするとき、大抵の場合は、リーダーになって引っ張っていく人が生まれてくるんです。でもこの6人は誰かが引っ張るとかはなく。自然発生的に集まって、ときにはフッと1人がいなくなったり、自由にくっついたり離れたりしながら過ごしていました。そんな姿を遠くから見て、すごく不思議でおもしろい関係性だなと思っていました。
実際に6人のお芝居を見ていかがでしたか?
自分のやるキャラクターに誠実だと感じました。浜辺さんは若いのに色んな現場を経験しているから、なんとも言えない落ち着きがあるんですよ。それがすごく安心できました。赤楚くんは常に笑顔で役そのもの。元々持っている性格の良さなのかわかりませんが、キャラクターと同化していました。佐野くんはトガっているけど見せすぎないプロフェッショナルな部分があり、山下さんは少し乱暴な言い方をするときの声のトーンやテンションが独特ですごい素敵でした。倉くんは芝居を楽しんでいて、楽しいときこそ伸びるし吸収するときなので今後が楽しみです。西垣くんは、撮影当時は「もうちょっと頑張らないと…」という意識があったように見えましたが、今年に入ってドラマに出ている姿を見たら、映画の撮影時よりも芝居がうまくなっていて。一生懸命だし、これからなんだろうなと感じました。本当にこの6人、バランスが良かったです。
舞台となる会議室は、アイデアを持ち寄り細部にまでこだわった
密室劇となると会話が大事になってきますが、矢島弘一さんが書かれた脚本に対してどのように感じましたか?
矢島さんは舞台の戯曲をたくさん書いていらっしゃるので、芝居を見る目も確かですし、セリフだけでなく芝居で表現できるところもきちんとわかっているのがありがたかったです。今回、原作の良さをどうしたら映像に落とし込めるのかがすごく難しく、映画と原作の終盤は異なる展開になっています。ただ文字と映像はそれぞれ向いている表現方法が違うので、今回は映像ならではの表現になっていると思います。これは矢島さんのアイデアなのですが、舞台の脚本を書いているからこそ生まれてくる手法だと感じました。撮っていておもしろかったです。
今回、六角形の会議室が舞台となりますが、このセットにはこだわりがありましたか?
本作の中で一番の特長となるのが会議室のセット。美術部さんと撮影部のみなさんでどういう会議室にするか、どのくらいの大きさにするかを何度も話し合いました。何もないスタジオに行って、大きさをイメージして床にビニールテープを貼って、あーだこーだと議論を繰り返したり。なかでも隣の人との距離感に悩みました。内緒話ができそうでできない、なおかつ隣の人に手が届くという絶妙な距離感をメジャーで測って、何度も納得がいくまで話し合って……。そうやって作った会議室ですが、出来上がった映像を見たらいい距離感だったと思いました。発言している人がメインで映るシーンは、奥の方にぼやけながらほかの人が見えている演出もできます。 そしてもう一つのこだわりが、会議室の中にあった半透明のガラスのボード。普通のホワイトボードにすれば?という意見も合ったのですが、ガラスにしたことで部屋の奥行きや撮影方法にもアクセントがつきました。みんなのアイデアが詰まった部屋になっています。
ミステリーだけど人間ドラマになっている本作。どういう方に見てもらいたいですか?
就活を失敗しても、人生どうってこともないと大人になったら気づきますが、あの戦いの中にいる人たちにとっては一大事。そんなリアルな就活生たちにどのように映るのかは少し気になります。とはいえ、エンターテインメントとして作っているので、肩肘張らずに多くの方に見ていただきたいです。人の良さや悪さ、強さや弱さ、優しさみたいなことが詰まっていますので楽しんでいただきたいです。
テレビと映画は見る環境が異なるので描けることが変わる
監督はテレビの演出家としてキャリアをスタートしていますが、昔から映像監督になりたかったのですか?
元々はミュージシャンになりたかったんですよ。ただ、私より全然上手い人が食えていない現実を知って難しいなと。そこでほかに何をしたいかと考えたときに浮かんできたのが、昔、放送に興味があったということ。私が子どものころのテレビは今よりも裏側が視聴者に見えておらず、あり得ないことを信じてしまう人も多かったような気がします。とくに中学生のころの私は音楽番組を見ていて、「スターのお友達がスタジオに駆けつけてくれました」みたいな言葉を素直に信じて感動さえ覚えていました。ただあるとき、番組にはすべて台本があると気づいて…。それからは受け取る側より発信する側になりたいと考えていたことを思い出し、音楽と映像が融合している仕事を探し始めました。そこからテレビドラマのADになり、監督のそばでカメラを見たり、役者さんの芝居を近い距離で見るようになって、監督になりたいと思うようになりました。
テレビドラマの演出家から映画監督になった際、壁のようなものを感じましたか?
私が映画を初めて撮ったのは2005年。2000年ごろからテレビ局が中心になって映画を作るようになり、そこにはテレビドラマの演出家が抜擢されるという流れが出てきました。私もその流れで映画監督に携わるようになりました。正直、技術的な面では、このころからハイビジョンカメラが主流になってきて映画を撮るハードルが低くなっていたのと、映画の現場は撮影監督や音響さんがいるのでそこまでテレビと映画の差を感じることはありませんでした。ただ、私たちが意識しないといけないのは視聴する環境。生活の中にあるテレビと、わざわざ足を運ぶ映画は、作り方が結構違います。テレビは誘惑や邪魔が多い中で見るので、飽きさせないようにするために刺激を強めにしたり、わかりやすさが必要になります。それに対して映画は能動的に作品の世界にリーチしにきているから、映像で心情を表したり、より複雑なことを描くことができる。そして受け取り方は、見る人に任せられるところが映画の良さ。どう感じるかは見る人次第。その自由さが映画の魅力です。
クリエイターにとって大事なことはなんだと思いますか?
いろいろありますが、楽しもうとする心です。楽しいと思わなかったら何もできないですから。そしてなかでも大事にしているのは人とつながること。俳優やプロデューサー、ロケ先で出会った人などさまざまですが、多くの人と出会って刺激をもらって次の仕事に活かしていく。こんなに楽しいことはないと思います。そのためにも嘘をつかないようにしています。嘘は自分を苦しめてしまうしいいことは何一つありませんから。
取材日:2024年10月21日 ライター:玉置晴子 動画編集:布川幹也
『六人の噓つきな大学生』
2024年11月22日(金) 全国東宝系にて公開
原作:浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」(角川文庫刊)
監督:佐藤祐市
脚本:矢島弘一
出演:浜辺美波 赤楚衛二 佐野勇斗 山下美月 倉悠貴 西垣匠
あらすじ:
誰もが憧れるエンタテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用。
最終選考まで勝ち残った6人の就活生に課せられたのは“6人でチームを作り上げ、
1か月後のグループディスカッションに臨むこと”だった。
全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考を迎えた6人だったが…急な課題の変更が通達される。
「勝ち残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」
会議室という密室で、共に戦う仲間から1つの席を奪い合うライバルになった6人に追い打ちをかけるかのように6通の怪しい封筒が発見される。その中の1通を開けると…
公式サイト:https://6uso-movie.toho.co.jp/
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