痛快文学下剋上エンターテイメント!映画『私にふさわしいホテル』レビュー
「池袋ウエストゲートパーク」、「SPEC」、「TRICK」シリーズなどを手がける堤幸彦監督が、柚木麻子の小説『私にふさわしいホテル』を映画化!
主演は『あまちゃん』、『さかなの子』などで話題を集めたのんが、不遇の小説家・中島加代子を演じる。文学界の裏側と不屈の精神で這い上がる主人公を描いた下剋上エンターテイメント!
本記事は2024年12月27日(金)公開予定の映画『私にふさわしいホテル』の見どころを紹介する。
文豪に愛されたホテルで、その面影を感じながら執筆に没頭したい
この気持ち、多くのクリエイターは共感するのではないだろうか。数々の名作が生み出された場所で、ご利益にあずかりたい。自分もいつか、彼らと名を並べる小説家になりたい。
主人公、中島加代子は自腹で憧れのホテルに宿泊し、執筆活動を行っている。
冒頭からクリエイティブな心を掴まれるのが本作品。
加代子は新人賞を受賞したにも関わらず、単行本の出版も叶わない不遇の小説家である。それでも夢に向かって一直線な主人公が心地よい。天真爛漫。そんな言葉が似合う主人公を、のんが好演する。
編集者と小説家の関係
加代子は不遇な現状を打破するために、筆名を相田大樹から有森樹季に変更する。
すると、同じ「有森」という名前の若き天才が現れる。
荒削りな部分もあれど確かな才能を持った高校生作家・有森光来。
まだ駆け出しの作家に編集者はどんな言葉を掛ければ良いのだろうか。どんなサポートをすれば良いのだろうか。クリエイティブな人たちは感受性豊かな人が多い。身近な人の言葉が、次作への意欲になったり、反対に筆を折ってしまう事すらある。編集者と小説家の距離感、関係性についても興味深く描かれている。
有森光来と有森樹季、二人は対照的なキャラクターである。そんな二人と接する編集者・遠藤道雄。「二人三脚」という言葉が登場するが、小説家にとって編集者がなくてはならない存在であることもしっかりと描かれている。
中島加代子と東十条宗典
対称性と言えば、加代子とその天敵とも言える東十条宗典との関係性も面白い。
加代子は「奢ってください」というセリフやおごられるシーンが登場する。一方で東十条は高級クラブの常連客。同じ小説家でも上位層と下位層ではこんなに違うのかという差である。夢のある世界とも言えるが、厳しい世界とも言える。
そして権力者に嫌われるとどうなるか。文才があるだけでは上には登れない厳しさがコメディタッチといえども作品全体を通して描かれている。
昭和時代のカルチャー
舞台は1984年。昭和の時代である。のん演じる加代子のレトロかわいいファッションがスクリーンを一層華やかに彩る。シーンが変わるたびに違うファッションで私たちを楽しませてくれ、レトロカルチャーやファッションが好きな人も楽しめるのは間違いない。そのどれもが可愛く、どこか懐かしい。
また、編集部の分煙が進んでいないオフィスなど昭和の再現も細やかである。
私にふさわしいホテル=山の上ホテルのアンティークな内装も魅力的。
折れない創作意欲
権力者に好かれなかった加代子。しかし、あの手この手で這いあがろうとする姿が実に痛快。創作者に必要なのは、才能よりもこの強さなのかもしれないとすら思えてくる。
ハチャメチャなようで、実に熱い小説への情熱がひしひしと伝わってくる。
決して折れない創作意欲が私たちに心地よい爽快感を与えてくれる作品である。
『私にふさわしいホテル』で2024年の締めくくりを駆け抜けてはいかがだろうか。
映画『私にふさわしいホテル』
2024 年 12 月 27 日(金)全国ロードショー
■出演:のん
田中圭 滝藤賢一
田中みな実 服部樹咲
髙石あかり / 橋本愛
橘ケンチ(EXILE) 光石研 若村麻由美
■監督:堤幸彦
■原作:柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫刊)
■脚本:川尻恵太
■音楽:野崎良太
■主題歌:奇妙礼太郎「夢暴ダンス」(ビクターエンタテインメント)
■製作幹事・制作プロダクション:murmur(ロゴ)
■配給: 日活/KDDI
■企画協力:新潮社
■特別協力:山の上ホテル
(C)2012 柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会