『岸辺露伴』シリーズの渡辺一貴監督「主人公の言葉は本心なのか、芝居なのか…。阿部寛さんと徹底的に話し合った」新作『ショウタイムセブン』の裏側
韓国で大ヒットを記録したソリッドスリラー『テロ,ライブ』(2013年)を、オリジナル展開を盛り込みサスペンス・エンターテインメントにリメイクした『ショウタイムセブン』。主演の元人気キャスター・折本を阿部寛が演じる。「岸辺露伴は動かない」シリーズをサスペンスフルで高クオリティに作り上げたことでも知られる渡辺一貴監督が監督・脚本を手掛けた。
活躍の場を追われたキャスター・折本の元に、連続爆破テロ事件の犯人から1本の電話が入る。犯人を名乗る男に交渉役を指名された折本は古巣のニュース番組「ショウタイム7」のキャスターとして一触即発のリアルタイム交渉を行い、全国民を巻き込んでいく。 最後まで読めない心理戦が繰り広げられる本作。渡辺一貴監督に、どのようにして緊迫感を演出したのか、クリエイターとして大事にしていることなどを伺った。
舞台のように長回しで撮影するため、リハーサルを念入りに
韓国映画『テロ,ライブ』のリメイクですが、どのように作ったのですか?
原作サイドから、ある程度自由にアレンジしていいという言葉をいただいたので、まずは今の日本を舞台にする場合、どんなテーマが一番リアリティがあるのか、構想を練っていきました。また、ラジオスタジオという1つのセットだけで物語が進んでいく構成が非常に印象的だったのでそのコンセプトを活かしつつ、犯人との一対一の駆け引きや心理戦に更にフォーカスを当て、いかにダイナミックなエンターテインメントにできるのかを考えながらストーリーラインを作りました。
最初は1カット長回しも考えたとのことですが。
前々から一幕ものの舞台のような映画ができたら面白いと思っていたので、それに近いチャレンジができるかもしれないと感じました。そもそも劇中の報道番組「ショウタイム7」は、2時間のスタジオ生放送という設定なので、そのまま一気に撮ってしまえばナマの迫力と緊張感が出て面白いだろうと。実際は全体を1ブロック10~15分くらいに分けて、そのブロックごとに撮影しています。決めたところまでは些細なNGや想定外のハプニングがあっても止めずに撮影して。カットをかける予定のセリフが終わっても、そのまま何分も撮影を続けてしまうことも多かったです。失敗できない舞台のような生々しい緊張感がこの作品には大切だったような気がします。
そのように撮影するために今回はリハーサルを念入りに行ったとのことですが。
舞台稽古をする感覚で何度もリハーサルを行いました。リハーサルを繰り返すごとに、出演者やスタッフとのコミュニケーションが密になっていきます。こう動いてみたらどうなるのか、ここはもう少し近づいて会話した方がいいかも…などとディスカッションしながら、皆で方向性を決めていきました。もちろんリハーサルで全部をガチガチに決めるわけではありません。実際にカメラの前に立つと演じる側も撮る側も感覚が変わってくるので。本番でテイクを重ねるごとに新しく生まれてくるものを拾い上げて、リハーサルで作ったベースにどんどん上乗せしていきながら撮影を進めました。
人物造形を何度も話し合い、納得した主人公を作りあげる
折本演じる阿部寛さんとはどのような話をされたのですか?
折本はキャスターとしてカメラに向かって番組を進行していきますが、その裏では色々なことを考えて、計算し、臨機応変に対応しています。そして心の底で何を考えているのかは窺い知れない…。折本が話している言葉は本心なのか、それとも芝居なのか、見ている方にはどっちに映ってもいいのですが、演じる阿部さんと私は理解していないといけないので、そのあたりは徹底的にすりあわせて共通認識を持つようにしました。セリフやト書きに書かれていない心理状態を議論する時間はとても刺激的でした。
実際に阿部さんの演技をご覧になっていかがでしたか?
さすがでした。折本の言葉は全て噓かもしれない。一方で本音を言っているようにも見える。この説得力は阿部さんでないと表現できません。何度も打ち合わせを重ねてかなりの時間を一緒に過ごしたことで、お互いの思っているところが一致できたと思います。本番前に少し話をする程度で撮っていたら、今の折本は生まれていなかったのではないでしょうか。見ている方には、折本がいつ本音で語っているのか、演技で話しているのはどこなのか、想像しながら見てもらえると嬉しいです。
キャラクターはもちろんですが、セットも含めてかなりリアルだと感じました。
私はテレビ局出身なので、実際にテレビの世界を扱うのであれば嘘のない描写にしたいと思い、細部に至るまでリアリティを追求しました。通常のテレビのニュース番組と全く一緒で、テレビ用のスタジオにセットを組んでいます。その気になれば本当に報道番組を収録できるクオリティです。またスタジオにあるテレビ台本や進行表、ポスターなどの小道具もディティールまで丁寧に作成しました。
本物が持つ臨場感はセットから漂っていたんですね。
今回、スタジオカメラマンやAD、スイッチャーなど要所で登場するテレビスタッフには本職の方に参加してもらっています。本職でないとできない専門的で複雑な動きがあるので。スタッフを演じる役者さんにも本職の方から動きを細かく指導して頂き、入念に練習してもらいました。そのお陰で、実際に「ショウタイム7」のセットに立って演者の皆さんの動きを見ていると、本当にニュース番組の中にいるような錯覚に陥ってしまうほどでした。
作品を面白くするかが大事。ドラマ・映画などジャンルにはこだわらない
監督のお気に入りシーンを教えてください。
みなさんの演技が素晴らしいのはもちろんですが、折本が全てを告白した後、折本と長年タッグを組んできた、井川遥さん演じる伊東記者が空を仰ぐカットを撮影している瞬間はグッときました。なんとも言えない切ない表情ですが、そこに折本と伊東のこれまでが凝縮されているような気がして…。映画には描かれていない2人の関係性が感じられるんです。あの表情を撮ったとき、「(この映画は)できたな」と思いました。全体の流れとは関係ないのですが、そういった一つ一つの表情に出演者のみなさんのワンカットにかける思いが凝縮されている気がします。すごく印象的なシーンです。
本作では脚本も担当されていますよね。
最初から「やります!」と手を挙げたというのではなく、プロデューサーのみなさんと話し合ったことをまとめてプロットを書き進めていくうちに、「このままシナリオにしてしまったほうが早いな」となり、そのまま書き続けてしまった、というのが経緯です。プロデューサーを含め、スタッフのみなさんが取材をしたり、アイデアを出し合ったりした結果がこの台本には凝縮されています。
元々はNHKでテレビドラマを作られていましたが、ドラマと映画の違いを感じましたか?
そんなに異なるとは思っていません。一つ一つの作品をいかに面白くするかという考えは同じなので。特に今は、機材も基本的に同じですし、スタッフも変わらない。スクリーンで見る方も、自宅のテレビで見る方も、スマホで見る方もいる。同じコンテンツでも視聴方法は様々なので、出力先のことはあまり気にせず撮っています。
「消化の悪い」作品を作り続けたい
監督はNHKに入局する前から映画やドラマに興味があったのですか?
子どもの頃から映画やテレビドラマを観るのが好きでした。ただ職業として意識したのは大学の就職活動を始めた頃。フィクションを作る仕事をしたいという気持ちが強くなってきて、アート映画のような匂いのするドラマを当時作っていたNHKに興味を持ちました。今でこそ大河ドラマや朝ドラ(連続テレビ小説)も好きですが、当時は単発ドラマを撮りたいという気持ちの方が強かったです。
ただ入局後、しばらくは地方局に赴任しますよね。
そうです。私は岡山局に配属になりました。基本的に、地方局ではドキュメンタリー系の仕事が中心となるのですが、取材を通して人と向き合うのは、作品や役者さんと向き合うのと同じスタンスだと感じています。取材対象の方の本心を引き出すのと、役者さんのお芝居を引き出すのは本質的に変わらない。地方局でドキュメンタリーを撮った経験は、今の仕事にもかなり活かされていると感じています。
現在はNHKのドラマだけではなく劇場公開映画なども手掛けていますが、心境の変化はありますか?
もちろんNHKならではの、社会性の強いテーマに取り組むのもやりがいがありますし、今回のようにエンターテインメント色が強く、NHKではできないテーマの作品も刺激的です。できる限りいろいろなことを吸収しながら、まだまだ多様な作品を作っていきたいと思います。
今後、撮りたいテーマなどありますか?
今回の『ショウタイムセブン』もそうですが、「消化の悪いもの」を作っていきたいです。今の世の中、わかりやすい、見やすいものが求められますが、その逆ですね(笑)。若い頃、見終わった後に「どういう意味だったんだろう?」と疑問が残った映画がたくさんあります。結局その疑問は解けないままなのですが、そういう作品こそ今の自分の血と肉になっていると感じます。映画の中にある「何?」を考えるのはすごく楽しいですし、それを考えている時間はすごく豊かだと思います。なので、消化されにくいものというか、少しでも見た方の心に引っかかるような作品を作ることができれば、そして2時間という作品の枠ではない時間もずっと生き続けるものを作っていけるといいなと思います。
監督がクリエイターとして大事にしていることを教えてください。
ギリギリまで自分を疑うことでしょうか。「よーいスタート!」の「よーい」の瞬間まで、自分がやっていることが正しいかどうか疑い続けないと良い作品は生まれない気がします。特に上手くいっているときこそ落とし穴があります。絶対に大丈夫と思い込んで、そのときは気づかないけど、本番が終わった後でもっといい方法があったと気づいたりする。そうやって後悔する前に、今やっていることが正しいのかをきちんと考え続けていきたいです。
疑い続けるためにはどうしていくのがいいのですか?
自分の中にあるモヤモヤに真剣に向き合うことだと思います。忙しい現場だと、モヤモヤを見ないふりをしたり、あと30秒考えたらその正体が掴めるのに向き合わずに進んでしまうことがあるのですが、必ず後悔します。モヤモヤを感じたら、本番の前でも一度ストップして考えることが大事です。本番直前に撮影を止めるのは勇気がいることですが、作品が良くなるためならスタッフも出演者の皆さんも納得してくれます。進んでいるものを止められるのは監督しかいないので、その責任の重さを感じつつ、自分の気持ちに忠実に撮影に臨んでいきたいです。
取材日:2025年1月22日 ライター:玉置晴子 動画撮影・編集:浦田優衣
『ショウタイムセブン』
2025年2月7日(金) 全国公開

©2025『ショウタイムセブン』製作委員会
監督/脚本:渡辺一貴
出演:阿部寛
竜星涼 生見愛瑠
前原瑞樹 平原テツ 内山昂輝 安藤玉恵 平田満
井川遥 吉田鋼太郎
主題歌:Perfume 「Human Factory – 電造人間 -」(UNIVERSAL MUSIC)
配給: 松竹 アスミック・エース
原作:The film “The Terror, Live” written and directed by Kim Byung-woo, and produced and distributed by Lotte CultureWorks Co., Ltd. and Cine2000
公式HP:https://showtime7.asmik-ace.co.jp/
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