映像2025.02.20

映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第44回『かなさんどー』

vol.44
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美
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『かなさんどー』

▶小旅行に出ている気分を味わいたい人におすすめ

知らない場所、新たな景色を見せてくれる度100

<INTRODUCTION>
家族の絆や祖先とのつながりをユーモアを交えて描く照屋監督ならではのアプローチが口コミで話題を呼び、モスクワ国際映画祭など各国の映画祭に出品され、日本映画監督協会新人賞を受賞した前作『洗骨』 (19) から6年。
お笑いコンビ「ガレッジセール」で”ゴリ”として活躍する傍ら映画作りに真摯に向き合う照屋監督のもとに、沖縄出身で連続テレビ小説「ちむどんどん」 (22、NHK)、大河ドラマ「光る君へ」 (24、NHK) 他、ミュージカルなど若手女優として幅広く飛躍し続ける松田るか、劇団四季出身でドラマ、映画、舞台など多方面で活躍する堀内敬子、さらに『SHOGUN 将軍』 (24/Disney +他)などハリウッドでも活躍する浅野忠信ら実力派俳優陣が集結。
沖縄県・伊江島を舞台に、独自の死生観と笑いを交えて描く“家族の愛と許しの物語”。
照屋監督の新境地に して、新たな傑作が誕生した。

<STORY>
妻・町子 (堀内敬子) を失った父・悟 (浅野忠信) は、年齢を重ねるとともに認知症を患っていた。 娘の美花 (松田るか)は、母が亡くなる間際に助けを求めてかけた電話を取らなかった父親を許せずにいる。そんな父・ 悟の命が危ないと知らせを受け、苦渋のなか故郷・沖縄県伊江島へ帰ることに。 父との関係を一向に修復しようとしない美花だが、島の自然に囲まれ両親と過ごしたかけがえのない時間を思い返すなか、生前に母が記していた大切な日記を見つける。 そこで知ったのは母の真の想い、そして父と母だけが知る <愛おしい秘密 > …。

泣けるなぁ・・・これは良い映画でした。
「かなさんどー」とは沖縄の方言で「愛おしい」「愛してる」という意味を持つそうです。
このタイトル通り、最愛の人をストレートに想う気持ちで溢れた映画になっています。

映画サイトではたびたび「伏線がすごい映画」などというキャッチフレーズで注目をひく映画が紹介されることがありますが、この映画もまた巧みなストーリー展開により、冒頭に張り巡らされた伏線が回収されていくのが気持ちいい、それでいて泣ける映画。
しかも、こんなに優しくて笑える「伏線」というのもなかなかないです。
胸が苦しいけれど、ときおり温かな笑いもある。美しい空と海の青を背景にペーソス(哀愁)を残す優しいこの物語にぐっときてしまいました。

この映画は大切な人との別れまでの時間をどのように過ごすかを描いた”別れの映画”です。
娘が認知症の父をどのように看取るか。
重めの題材に思えるかもしれませんが、この『かなさんどー』は重くないのです。
照屋年之監督(ガレッジセール・ゴリ)の作品なだけあって、心温まり、コミカルでユーモアのある会話に何度も笑ってしまった。コントを見ているように弾む会話、でもちゃんと別れを告げる相手への想いも詰まっている。
「笑っていたらいつの間にか泣いちゃった」のような、まさにこの感覚!

そして、照屋監督の沖縄への愛が沁みるんですよね。
2019年の鮮烈な印象を残した長編監督デビュー作『洗骨』で粟国島を知り、死者の骨を洗い再び弔うという”洗骨の文化”をはじめて知り、今も残されるこれまで知る機会のなかった風習を知りました。
また今回は、映画の舞台となっている100万輪のテッポウユリが咲き誇る、沖縄県北部に位置する伊江島という美しい場所と、そこで暮らす人々の暮らしを知りました。
この映画の重要なシーンでテッポウユリの広大な 花畑が登場しますが、ユリの花畑といえば、2023年公開の大ヒットした『あの花が咲く丘で君とまた出会えたら』の百合畑も記憶に新しく心が動かされ百合畑の美しさに惹かれていたのですが、
『かなさんどー』でみられる夜の闇で真っ白の百合が満開になっている様子は、まるで花々が夜を照らし出しているような、唯一無二の幻想的な美しさでした。
人生で訪れてみたい場所が1つ増えました。
このようなバケット・リストに追加したいことを教えてくれる映画が私は大好きです。

照屋監督のブレない沖縄への愛のまなざし。
みんなが大好きな沖縄をただ舞台にするわけじゃなく、キラキラしたリゾート映画のように撮るのでもなく。
沖縄の方言、沖縄民謡、景色、時間がゆっくり流れているような様子・・・。
多彩な魅力を通し”沖縄の人々の暮らしに根付いている瞬間”を捉えつつ、「命について」を描くことで故郷への愛をみるものに語りかけてくれる時間でした。

琉球音階の情感豊かなメロディにひたって、歌詞に込められた意味に触れていると”歌”も大切な”登場人物のひとり”とも言える作品に仕上がっていると改めて感じます。
映画が終わる頃には青い海が目の前に広がり、まるで旅をしたかのような気分になれるんですよね。

そして、キャストたちのアンサンブルも素晴らしい。
沖縄出身の俳優・松田るかさんの強いまなざしは、ぶれない意思を感じるし、同時に冒頭に述べた伏線を回収できるほど蠱惑的!
そして”娘”という存在でも父と母への異なる接し方、性格の異なるキャラクターを丁寧に演じ分け好演しています。

また認知症を患い余命いくばくかの父を演じる浅野忠信さんに関しては、言葉も発さず認知症を患った現在の姿と、若き日の表情豊かだった幸せにあふれる瞬間の明暗を、説得力を持って演じていて・・・!やはり、さすがだとしか言いようがない存在感ですが改めて素晴らしかったです。

そして、母親役を演じる堀内敬子さんはもともと劇団四季の出身で『美女と野獣』のベル役や『ウエストサイド物語』といった作品でヒロイン役を演じていただけあってその歌唱力は素晴らしく、美しく切なく最愛の人への想いを歌い上げる姿は魂が浄化されるような気分にさせてくれます。

お父さんの会社に勤めていた後輩を演じたKジャージさんの優しい語り口や、独特の間合いも”沖縄が舞台の作品を見ている”と思わせてくれるテンポで作品にリアリティをもたらしてくれていました。

今年1月に公開して大ヒット上映中の『366日』、そして2月には『かなさんどー』、さらに3月『STEP OUT にーにーのニライカナイ』。
今年は沖縄を舞台にした心温まる映画が続いています。

ああ、沖縄に行きたくなってきた。
すぐに訪れることは難しいけれど、映画館で沖縄のあたたかな風を感じられる3ヶ月になりそうです。

『かなさんどー』
沖縄先行公開中/2月21日(金)全国公開

●キャスト:
松田るか、堀内敬子、浅野忠信
Kジャージ、上田真弓、松田しょう、新本奨、比嘉憲吾、真栄平仁、喜舎場泉、うどんちゃん、ナツコ、岩田勇人、さきはまっくす、しおやんダイバー、仲本新、A16、宮城恵子、城間盛亜、内間美紀、金城博之、前川守賢、島袋千恵美

●監督・脚本:照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)
 
●製作総指揮:福田 淳 ●製作:福永真里、藤原寛 
●プロデューサー:石田玲奈、鳥越一枝 
●協力プロデューサー:金森 保 ●撮影:大城 学 ●照明:鳥越博文 ●録音:横澤匡広 ●美術:吉嶺直樹 ●装飾:梅原文 ●ヘアメイク:荒井ゆう子 ●衣装:むらたゆみ ●助監督:石田玲奈 ●フードスタイリスト:中村真琴 ●編集:初鹿紗梨 ●音響効果:佐藤祐美 ●DIT&データ管理:小野寛明 ●題字:おやまゆき ●音楽:新垣 雄 ●歌唱指導:古謝美佐子 ●主題歌:『かなさんどー』作詞・作曲:前川守賢 ●協賛:くらしの友、沖縄セルラー電話、沖縄タイムス

●配給:パルコ ●宣伝:FINOR ●制作協力:キリシマ一九四五 
●制作プロダクション:鳥越事務所 ●制作:スピーディ ●製作:「かなさんどー」製作委員会 2024年/日本/日本語/86分/G 

©︎「かなさんどー」製作委員会

[公式サイト]kanasando.jp/   [X・Instagram]@kanasando_movie

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