映像2025.03.14

堤幸彦と仲間由紀恵が約10年ぶりに再タッグ「観光映画にせず、沖縄で住む人々の姿を映そうと思った」

Vol.73
映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』 監督
Yukihiko Tsutsumi
堤 幸彦

堤幸彦監督が平一紘監督を共同監督に迎えた沖縄県を舞台にしたヒューマンドラマ『STEP OUT にーにーのニライカナイ』。

仲間由紀恵演じる母親の深い愛と夢と出合い悩みながらも成長していく少年の姿が描かれる本作。「TRICK」シリーズ(01~14年)や舞台「テンペスト」(11年)といった作品で監督を務めた堤幸彦監督と、主演を務めた仲間由紀恵が約10年ぶりにタッグを組んだことも話題を呼んでいる。

堤監督に、沖縄を舞台にした理由や沖縄出身の平監督の魅力、年を重ねて変化してきた監督としての仕事観などを語ってもらった。

今の沖縄の現実と夢に対する強い思いを映したかった

『STEP OUT にーにーのニライカナイ』はどのようにして生まれていったのですか?

まず、沖縄ありきで企画をもらい、シナリオハンティングをしてから内容を決めるという条件でお受けしました。舞台となる沖縄市コザの街を歩いていたらダンススタジオで風のように踊る子どもたちを見かけ「この子たちだ!」と思い、すぐに描きたいことは決まりました。沖縄を描く上で、どうしても歴史的背景を意識せざるを得ないですが、今回はそういった側面だけを抽出するのではなく、全国どこでも見られる純粋な子どもたちの情熱をテーマにし、今の沖縄を描くことにしました。

本作ではリアルな沖縄が描かれていますね。

「夢を実現するということはどういうことなのか」という問いを基に、子どもの夢を通じて沖縄の日常を描いています。映画の冒頭に飛行機の爆音を入れたのは、沖縄の現状をありのまま描きたいからで。話し声さえ聞こえない爆音が当たり前になっているこの地で、それでも元気で生きているお母さんと子どもたちの当たり前の毎日を見て、何かを感じ取ってもらえればうれしいです。きれいな風景だけを映した観光映画にはしたくないという思いが強かったので、今の沖縄と夢に対する思いの強さが伝わればと思います。

監督はこれまでも沖縄を舞台にした作品を撮られていますよね。

本作でも主演していただいた仲間由紀恵さんとの舞台「テンペスト」(11年)や、1995年に緒形拳さん主演で『さよならニッポン GOODBYE JAPAN』という宮古島の北側にある架空の島が日本から独立するという荒唐無稽な映画を撮ったことがあります。『さよならニッポン―』は公開から数年経ってニューヨークで公開され、ありがたいことに面白いと言ってもらえた政治性があるファンタジームービーなのですが、緒形さんからは「第2弾はやらないの?」なんてありがたいお言葉を何度かいただいていました。緒形さんは亡くなられてしまいましたが、いつか続編を作ってみたいですね。僕にとって沖縄は常に大きなテーマとして心にあるので。そして今作の撮影を経て、さらにきちんと沖縄を撮れる人になりたいという気持ちが強くなりました。

仲間由紀恵さんをはじめとする沖縄出身の俳優によってリアリティーをキープ

本作は仲間由紀恵さんをはじめ沖縄出身の俳優さんが多く出演されていますよね。そのあたりも意識されましたか?

今回はできる限り沖縄に関わりのある方々に出てもらいたいと最初から考えていました。監督と脚本が東京出身なので本物の持つ力に頼りたいという思いもあって…。沖縄に縁のある方々が放つ言葉や雰囲気、動きなどに助けていただきました。描きたいことがよりリアルに伝わったと思います。

仲間さんとは「TRICK」シリーズや映画『天空の蜂』でもタッグを組まれていましたが、久しぶりにお会いしていかがでしたか?

どのような役をやっても親しみやすい、演技をしていない雰囲気を醸し出せる希有な俳優だと思っていましたが、約10年ぶりにお会いしてもその印象は変わらず。国民的大女優という看板を背負っていながら、地に足のついた人生観を持っているのか、背伸びしない等身大の親しみやすさを今回も感じました。

仲間さんが演じてくれた朱音はコザに住むシングルマザーだったので、自ら髪をまだらに染めたり、沖縄の女性らしい衣装を選んでくれたりと、リアルな沖縄の母ちゃんを作ってくれたのも本当に頼もしかったです。ご自身もお子さんを育てていらっしゃるので、朱音という役をしっかりと背負ってくれたのだと思います。沖縄で生きる女性をきちんと演じられる境地に達しているのは本当にすごいなと思いました。

仲間さんが演じた朱音の息子・踊を演じたSoulさんはオーディションで選ばれたとのことですが、オーディションではどのような点を重視したのですか?

演技やダンスの技術は二の次に、たとえばとてもかわいい子を見たときにどのような表情をするのか、夢のためにどのように汗をかくのか…といった、その世代の子たちが持つ独特の生々しさをどのように表現するのかということを大事にしました。

実は僕、彼と同じくらいの年齢のころ、映画『小さな恋のメロディ』(71年)のトレイシー・ハイドさんを見たくて何度も映画館に通った思い出があるんですよ。そのときの自分や、映画の中でトレイシー・ハイドさんを見て恋い焦がれる主人公たちと同じ、言語化できないドキドキする気持ちをSoul君に表現してもらいたくて。あと、夢を持ち始める年齢でもあるので、自分に適しているかもわからないしお母さんが許してくれるかわからないけれど「やりたい!」思う気持ちも大切に表現してもらいたいと思いました。

母親に気持ちを上手に伝えられない姿はもちろんのこと、少しずつダンスが上達していく姿も演技経験があまりない新人とは思えなかったです。

Soul君は主役みたいなことをするのは初めてだったのですが、本当に見事でした。そして一番難しかったのは下手に踊るダンス。スキルを10段階で表し、今日は1、明日は2.5のダンス、ラストは10のダンスみたいな感じで数字化し、それに対応したダンスを踊ってもらいました。その微妙な差も見事で。今回の撮影で、音感がいい子どもたちはすべからく演技ができることを証明できたような気がします。演技は言語と動きとリズムが一つにまとまらないといけないのですが、ダンスをやっていると勘が働くというか…。本当に素晴らしかったです。

沖縄で活躍する平監督だからこそ、引き出せた言葉がある

本作は沖縄出身の平一紘監督と共同監督をされています。このような形にした理由はあるのでしょうか?

言葉の問題から始まり、沖縄の人々の生き様の細かい部分は東京住まいの私にはわからないことが多いので、共同監督をお願いしました。少年少女がメインで出演するシーンを含めた全体の約4分の1は平さんが担当しています。しかし事前によく話し合っているので、2人の監督が撮ったとは思えないほど統一感が出ていると思います。そしてキャスティングにもかなり力を貸していただき、津波竜斗くんや内田樹くんといった沖縄キャストは平さんがいなかったら出会えなかったと思います。本当にありがたかったです。Soulくんをはじめとした子どもたちは平さんがいたことで肩の力を抜いて芝居ができていたように思えます。平さんの力はとても大きかったです。

監督から見て平監督はどのような人物ですか?

たぐいまれな独自性を持った監督です。1970年代と現在の沖縄市コザを描いた青春SF映画『ミラクルシティコザ』(22年)や、敗戦を知らずに沖縄の伊江島で生き延びた日本兵を描いた『木の上の軍隊』(25年7月公開予定)といった作品では沖縄のアイデンティティを描き世界でも注目を集めているのですが、私なんかと一緒にいるときはよいお兄さんとして現場で楽しく作品を撮っていく人物で。よく僕みたいなロートルと付き合ってくれるなと感心します(笑)。

ご自身が30代のころ、年齢の離れた監督と一緒に撮るのはどのような気持ちでしたか?

いい気持ちはしなかったですよ(笑)。連続ドラマとかで年齢が離れた方との座組はありましたが、僕は極めて生意気だったので、どうしても自分の個性を出したくなって無茶苦茶をしてよく怒られました。平さんのような協調性はなかったです。

沖縄出身の平監督と一緒に撮ることで作品としての深みも出たと感じましたか?

沖縄といっても今回の舞台となった沖縄市コザや、仲間さんの出身地の浦添市ではまったく違うらしく。そういう細かい地域性みたいなものはそこに住んでいる人しかわからないので、平さんが監督として関わってくれたからこそ生まれたリアリティーがあると思います。

中でも印象的だったのが、踊の友達たちが泣きながら「俺らはここから出られないけれど、踊は俺たちの夢だ」と語るシーン。僕が本作りしていたらこれほどにサラッと書けないし、もし書いたとしてもこの言葉の意味を深く捉えてかなり暗いシーンにしていたと思います。それを平さんはあっけらかんと表現していたんですよ。地元の監督ならではの感覚だと思いました。

若い人と一緒に仕事をして踏み台になれれば本望

2024年には『夏目アラタの結婚』を含め3本の作品が公開されるなど、近年かなり精力的に活動されていますが、忙しい中どのように頭の切り替えをしているのですか?

意外と自然にできています。30代のころに映画の構成を考えたり、バラエティー番組を担当したり、アーティストのミュージックビデオを撮ったりと、毎日のように違うジャンルのものに携わっていたので切り替えはかなり得意です。今も作品が並行して走っているので、色んなアイデアが思い浮かんだらすぐにメモを取ったりスタッフと話し合ったりしています。そんな忙しい時間が本当に楽しいし、安心できるんですよ。

いつリラックスしているんですか?

唯一、気を抜いているのはお風呂に入っているときです。今、村上春樹先生の本をデビュー作から買って読み直しているのですが本当に面白くて。もちろん全部読んでいたのですが、こんな小説だったっけ?と思える瞬間ばかりで、年を経たことによって感じ方が全然違うことを再確認しています。そして言い回しの妙とかテーマ、作品の中に扱われている音楽の多彩なインデックスに舌を巻くというか。

実は昨年まで、60年代とか70年代に思いを馳せる懐古主義はかっこ悪いと思っていたのですが、今では小説は村上春樹先生を超えるものはないし、音楽は山下達郎さんがいいんじゃないかと思っています。いろいろあったけどたどり着いたのがここ。人生ってやはり青春時代に好きだったものに巡り巡って到達するのかもしれないと思いました。とはいえ、色んなクリエイターの作品を観るなどアップデートすべきことはこれまで同様に触れて吸収しています。

今作では平監督に刺激を受けたとおっしゃっていましたが、いくつになっても学ぶことは多いと思いますか?

顔にこそ出しませんが感動することばかりです。若い方の表現方法を見ていると、僕らの世代にはなかったような捉え方をしていたりするのでとても勉強になるんですよ。若手とのプロジェクトをいくつかやっていますが、ぜひこれからも若い方とご一緒していきたいです。そしてぜひ僕を踏み台にしてほしいです。僕なんかを利用してくれる人がいるのなら、全世代の踏み台になろうと思っています。

いつ頃からこのような心境になったのですか?

今までは悔しくてこんなことは言えなかったので、年を重ねたからなんでしょうね。ただ、そうはいっても僕は僕でやるよ!というライバル意識はもちろん持っています。だって観る方にとっては何歳の監督が撮ったなんて関係ないですから。新しいことを取り入れつつ、自分らしさを忘れずに作品を撮り続けたいです。

取材日:2025年2月20日 ライター:玉置晴子 動画撮影:浦田優衣 動画編集:指田泰地

 『STEP OUT にーにーのニライカナイ』
2025年3月7日(金)沖縄県先行公開、3月14日(金)新宿ピカデリー他にて全国公開

〇あらすじ
シングルマザーの照屋朱音(仲間由紀恵)は、息子の踊(Soul)と舞(又吉伶音)の2人を育てるためホテルの清掃とスナックの仕事を掛け持ちして必死に働いていた。ある日、リサ(伊波れいり)のダンスを見た踊はダンススクールに入会することに。最初はまったく踊れなかった踊は、リサとの出会いで次第に才能を開花させていく。

出演:仲間由紀恵
Soul 又吉伶音 伊波れいり
松田るか 津波竜斗 内田樹
盧礼欧 玉城敦子 城間やよい
津嘉山正種 橘ケンチ(EXILE)
監督:堤幸彦
共同監督:平一紘
脚本:谷口純一郎
ダンス振付:YUKI(Sound Cream Steppers)
配給:ギャガ
配給協力:大手広告
製作委員会:フェローズ VAP YOUR FACE CLINIC
大手広告大阪本社 BS-TBS 沖縄テレビ放送
制作プロダクション:PROJECT9
制作協力:オフィスクレッシェンド
公式ホームページ:https://gaga.ne.jp/stepout/
©「STEP OUT」製作委員会

プロフィール
映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』 監督
堤 幸彦
1955年生まれ、愛知県出身。バラエティー番組のアシスタントディレクターとしてテレビ業界と関わりはじめ、1988年にオムニバス映画『バカヤロー!私、怒ってます』(森田芳光総指揮)内の『英語がなんだ』で劇場監督デビュー、1991年『!(ai-ou)』で長編映画デビューを果たした。1995年にスタートした「金田一少年事件簿」シリーズが大ヒットし、以降、「ケイゾク」(99年)、「池袋ウエストゲートパーク」(00年)、「TRICK」シリーズ(00~03年)など話題ドラマを次々と生み出す。『ファーストラヴ』(21年)『夏目アラタの結婚』(24年)『私にふさわしいホテル』(24年)といった映画を多数監督。近年は舞台の演出にも力を入れる。2025年は『page30』『THE KILLER GOLDFISH』が公開を控える。

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