配給と『赤い糸 輪廻のひみつ』の話
今回はAdobeMaxから出たアップデート情報をもとに、AIについて引き続きお送りしたかったのですが、今しか出せないタイムリーな話題を先に一つ挟ませてください。
今回のテーマは、復活する映画『赤い糸 輪廻のひみつ』(原題『月老』)についてです。
昨年の5,6月に下北沢のトリウッドで観たのですが、(その手前にシネマート新宿で上映していたのですが)その後、音沙汰がなく……
配信も、メディアの発売もない状態。
――というのは、予想の範囲内でした。
といいますのも、この映画、配給の経緯がとても珍しいものなのです。
映画の配給についての基本的な部分も含めて、今回はこの映画をメインに知ってる範囲内でお話できればと思います。
映画というコンテンツには、権利がいくつか付随しています。
大きく言えば上映権、放送権(配信権)、それからメディアとしての販売権です。
大抵は、セットで扱われるのですが、作品によっては違う場合もあります。
映画の配給会社の主な仕事は「映画を完成させてから映画館で上映されるまでの流通ルートを管理する業務」です。
具体的には映画の著作物を複製して映画館に貸し出し、宣伝を行うことで、製作者と映画興行をつなぐ役割……特にメインになるのが、先程の「上映権」を獲得してくる「買い付け」業務です。
今回紹介する映画『赤い糸 輪廻のひみつ』は台湾映画社、台湾映画同好会の二人が買い付け・配給を行っています。2人です……ええ、2人なんです。
大手の買い付けとちがって、劇場に営業をかけて、上映してもらう、という流れになるので、当然配給は不利な状況。ミニシアター系をゆっくりまわってくれており、私も幸い数回見ることができましたが、この見れば見るほど楽しいするめ的な映画の上映先は本当に限られており、「見たいけれど近場でやっていない」という方も多くおられると思います。
日本の場合大手の配給会社は制作からの流れを汲んで映画館まで経営している東宝さんや松竹さんにくっ付いています。(誤解を恐れずにいうのであれば)また配給宣伝のみを担当している会社でも、長らく映画館経営会社との付き合いがあり、「枠」をある程度用意してもらえる前提もあります。
独自配給の場合は、逆に映画館さんが自ら手配にもふみきっているケースがあり……まず上映先の確保というのが大変なのです。もちろん、映画館に頼らない形で、公民館などで上映するケースもありますが、一般的、見やすいグループ系の大手映画館にかけるのは、本当に戦いだということを知っておくと面白いと思います。
例えば『侍タイムスリッパ―』は、独立系でインディーズをかけることを真剣に行っているシネマロサをきっかけに、配給ギャガさんがついて、そこから大きく上映されるようになった流れがありますが、あれは映画館と直通に監督が繋がる稀有なコミュニティ形成が、前段としてあったからこそ起きている流れです。同じく独立系の中ではそこそこ大きなテアトルさんなども自分のところで、かけることができます。
ところが、今回はたった二人……法人化して元別の曲者配給会社にいた方がベースで動いてはいるので、ある程度の伝手はあるでしょうが、なかなか大変だったと思います。
そんな中、独立系のシネマートさんやトリウッドなど小さな単館での上映を経て、(もう少し細かくいいますと、トリウッド上映のときから、ゴジラの山崎監督が同作品の監督ギデンズコーを推薦していたりと業界内の再ヒットへの下地はできあがっていたのですが……惜しいところで、公開終了したりして……)もう残す予定は、新潟のみという状況になり、地方巡業もこのあとどう続くか?というギリギリのところ……で、事件が起きたのです。
潮目が変わったのが年末手前。
幾人かの評論家や著名人によって、2024年のベストに選ばれて、話題になりました。
更に、ドリパスという映画のリクエストと再上映を担う企画サイトで順位があがり、3位以内を叩きだしたことで、再上映の流れが広がります。
すると、年明けに、その流れを後押しするように、同じ中華系の『トワイライトウォーリアーズ』の大ヒットがあり……この勢いにのらんばかりに、『赤い糸』の方も映画の口コミがじわじわと再度ひろがりはじめたのです。(正確には『赤い糸~』は台湾で『トワイライト~』は香港ですが)
そこにきての、都内の上映の声。
声をあげたのは、新文芸坐……まさかの発起人はライターのくれい響さんだったようです。くれいさんがなんと自主的な営業で、口説きおとして、いくつかの映画館での再上映がきまったとこのこと。京都、長野での上映が決まっています。
そうして、その新文芸坐ですが、2日間(22日23日)の再上映はすぐに全席完売となりました。くわえて、ドリパスの情報も解禁され、4月19日の秋葉原UDXでの上映が確定となりました。
単館ではありますが、大きな一歩であり、この熱にはもう一つ事情があります。
というのも、冒頭の話を思い出してください。
上映権、放映・配信権・そしてDVDなどを販売する権利……
この作品はバラバラ。今回配給を手掛けた2人がもっているのは「上映権」のみなのです。残る権利は某D社がもっているとのことで……かつ、著作権か何かの事情なのか、はたまたアジア支部の決定か……配信・販売ともに未定です。
作品は山ほど抱えている会社なので、リクエストで動くこともあるかもしれませんが、さっぱり読めません。
それにくわえて、上映権というのは、期限があります。今回は2年間の契約……今年の11月までしか日本での上映権は今のところ存在しないのです。
つまり11月までに映画館でかからなければ、その後見られるかもわからない、ということです。
ベスト映画に掲げる方がいてみてみたいという人も増えているし、口コミも伸びている一方で、もう見られないかもしれないレア度……
それもあって、今回の再上映への流れが高まったと言える感じです。
なお4月の上映は24日19時からの販売ですが、その他に今回新文芸坐の23日の回で明かされたことに、再上映が5月に3日間ほど追加決定しました。(それで、こちらを先にお知らせしなければと記事にした次第です)
※トークショーの様子※
さて配給会社の話にもどりますが、配給が上映する場所を決めたとなってもやる仕事はまだまだあります。
配給会社の仕事その2 宣伝ですね。配給は宣伝会社も兼ねることが多く、パンフレットや、ポスター、劇場用のアレコレも手掛けるケースが多くあります。
そして、パッケージやコピーはとても重要なのです。
特に、この作品、詳細を話すとネタバレになるのはもちろんですが、「ポスターの段階でなかなか厳しい選択を強いられた」とトリウッド上映時にトークショーでもご当人たちもおっしゃっていたのですが、ジャンルレスで、いろいろな味と楽しさを詰め込んだバラエティパックのような内容です。
ゾンビ・ゴースト・アクション、恋愛・青春、人間ドラマ、犬……SFでもファンタジーでもあり日常でもあり……たまに下ネタもあるし、総じて王道の少年漫画味にあふれています。
その結果、最初のポスターは、どっちつかずというか、どれでもない感じのものになっていました。
そこで、途中で、リデザインされました。正確には、どのデザインがいいですか?とそれぞれのジャンルごとのデザインが4種類 公式のXやInstagramで公開されたのです。
私も実は、このリデザインのことを、リツイートでしって、シネマートから一足遅れてトリウッドの上映にかけつけました。宣伝の仕事には割と普段から関わっていますが、その大切さを客側として思い知ったわけです。
というわけで、小さな配給会社による、限定的な配給……
上映される『赤い糸 輪廻のひみつ』
まだという方は是非みて欲しいなと思います。
この作品を作ったギデンズコーという監督が有名で、それこそゴジラの山崎監督も愛した彼の前作に『あの頃君を追いかけた』というタイトルのものがあります。
これは、アジアでも大ヒットして、香港でも記録をつくり、たしか去年タイでも映画版が制作すると発表されていました。少年漫画味と90年代のノスタルジー、さまざまな要素てんこもりの作品で、此方も素晴らしいのですが、『赤い糸』はいい意味でもっと好き放題作られている印象があります。
もう見られないかもしれない作品ですので、是非機会が作れる方は是非。
そして、配給と上映、映画製作の流れに対してもちょっとだけ興味をもってもらえると、より劇場向けにたくさんの作品がかかるようになるのではと思い、今回はまとめてみました。
ところでこれは、上でも出た『トワイライトウォーリアーズ』のコラボ飯。
こちらも上映はまだまだ伸びそうで……きくところによれば、もう少し要素を足したバージョンも用意されていそう?!まだの方はこちらもぜひ。アジア映画はまだまだ熱いのです。
