ミッション14 「バンクシーを探せ!(ニューヨーク篇)」

ミッション14
電通第5CRプランニング局 クリエーティヴ・ディレクター / コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

羽田発ニューヨーク行きのNH12便の機内でいまこれを書いている。なんて風に書き出してみたいと僕ら世代の男(この表現は今の時代だとアレコレ言われそう)なら一度は思ったことがあるはずです。しかもいい声のナレーションでそれを口に出してみたい。あのジェットストリームの城達也さんのようにと僕ら世代の男なら一度や二度は思ったことがあるはずです。キザな台詞を言う人がすっかりいなくなりました。おっと冒頭から暴投してスミマセン(ダジャレを言う人も減りましたね 笑)。

 前回のクリエイティブ探検隊⑬のラストにその場の勢いでニューヨーク行きを約束してしまいましたが、とんとん拍子で連続休暇が取れホテルも飛行隊も混んでない時期(一か月後がGWおかげ)でほんとにいきなり行ってきました。行先はニューヨークではなくロンドン(バンクシーの地元)かもと一瞬悩みましたが、個人的にニューヨークは初めてなので興味本位もあって決めました。行く前日に買いあさったガイド本と地図とバンクシーの作品集を機内持ち込みの鞄に突っ込んで到着までの約13時間読みまくりました。で、思ったこと。ロンドンだったかもなぁ(苦笑)。2013年の10月を中心にバンクシーはニューヨークで30点以上の作品(落書き)を残していますがそのほぼ全てが消されたり壊されたり持ち去られたりしているとのこと。まるで土地鑑のない場所で果たしてちゃんとひとつでもいいから本物のバンクシーを見つけられるだろうかと急に不安です。ま、そのときはそのときでヤンキース戦でも見て帰ろうっと。僕は海外では妙に根拠のない自信があって何とかなるさといつも思ってしまうクセがあります。このクセはなぜか日本では発揮されません。5泊7日!たったわずかなその間にバンクシーを見つけて帰ることができるのでしょうか。

<初日>

朝10時、JFK空港にいざ到着。ホテルはマンハッタンのほぼ中心です。着替えの入った荷物を預け、まずは街に慣れるために滞在期間中乗り放題のメトロカードを購入($32)。迷いながらマンハッタンの色んな駅で降りてみて街を歩きます。地下鉄の路線は東京よりも多くて何度も乗り間違えましたが覚えてしまえばシンプルです。自分の場所がつかめればあとはアップタウンかダウンタウンかのどちらかです。どの駅で降りてもどこかで見た感じ(たぶんテレビや映画)だなというのがニューヨークの第一印象。それよりもデカい人が多いことに圧倒されました。一日歩いて日が暮れました。バンクシーはともかく街の中のアートや落書きは渋谷や新宿とさほど差はない(※写真a※写真b※写真c)というのが初日の正直な感想です。マクドナルドでチーズバーガーとチキンナゲットをテイクアウトしてコンビニでビールと水を仕入れて気が付いたらホテルの部屋で翌朝でした。爆睡でした。

写真a
写真b
写真C

<二日目>

さすがに闇雲に歩いただけでは短時間でバンクシーには巡りあえないと思い、餅は餅屋にならって地元の専門家に聞くことにしました。ニューヨークには規模の大きな美術館がいくつもあります。その中で何となくの直感で行ったロウアー・イースト・サイドにあるニューミュージアム(※写真d)。キュレーターの男性にネットで見つけた画像や日本で買った「BANKSY IN NEW YORK(パルコ出版)」等を見てもらったところ案の定どれももうニューヨークでは見ることはできないとの答え。ただ唯一きれいに残っているものがアッパー・ウエスト・サイドにあるということで場所を教えてもらいました。あ~~、来てよかったです。さらに彼はバンクシーもいいだろうけど路上アートが好きならブルックリンのブッシュウィックに行くのがいいとそちらへの行き方と地下鉄の駅も教えてくれました。ありがたいです。このあとニューヨーク近代美術館(※写真e)、グッゲンハイム美術館(※写真f)、ホイットニー美術館(※写真g)と回りましたがニューミュージアム以上の収穫はありませんでした。しかしどの美術館も素晴らしくてもったいなくてついつい長っ尻な上に趣味のクリアファイルを見つけてはテンションが上がりこの日はここまで。気が付けばまたしてもホテルの部屋でビール片手に落ちていました(※写真h)。

写真d
写真e

 

写真f
写真g
写真h

<三日目>

時差ボケもあるかもですが、どこの国でも早く目が覚めます。特にこの日はついに本物のバンクシーを見られる興奮なのか朝4時からワクワクしてしまいテレビを付けるとなぜだかNHKが映って我に返りました。どうでもいいドラマなど見ているうちに太陽も昇ってきました。行く場所は79丁目駅のそば。アッパー・ウエスト・サイドの79番ストリート。そのどこかにバンクシーの「ハンマーボーイ」という作品(落書き)があるはずです。ホテルのフロントで詳しい地図(※写真i)を入手して(といっても英語だけなのでよくわからん)79丁目駅に向かいますが、どう乗り継いでもうまく行かず通りの逆側の72丁目駅で下車。そこから徒歩約15分、アメリカ自然史博物館の脇を抜けるとそこが79番ストリート。意外というか想像以上に道幅が広いです(※写真j)。文字通りキョロキョロしながらズンズン歩きますがそれらしいものはまだありません。おかしいな~、と汗を拭いながら通りの向こうに目をやるとアレ?アレじゃないの?アレだよね!(※写真k)とひとり言を言わずにはいられません!!もっと人が沢山たかっているのを想像していたのですが、みんな前を素通りです(※写真l)。急いで道を渡って確かめました。間違いありません。映画や本で見たものと同じ「ハンマーボーイ」です。描かれた(発見された)のは2013年10月20日。それからビルのオーナーが頑丈なガラスで保護をしてほぼそのままの状態で残したそうで今ではすっかりこの街の景色の一部(※写真m)。僕が写真を撮っていたら地元の人が声をかけてくれてフレンドになりました(※写真n)。初見の第一感は「なんかわからんけど、これいいなぁ」。そしてもうひとつ思ったことは、この前日本で見た(千葉や新橋)ものはどれも違うなでした。日の出駅そばの防潮扉のものは取りはずされて見ていませんが他(クリエイティブ探検隊⑬)https://www.creators-station.jp/report/explorer/41408については印象がまるで違うと思いました。それがわかっただけでも来た甲斐がありました。しかし本物を見てしまうとなんだか気が抜けてしまいこの日は夕方からヤンキースタジアムでビールと共に過ごして(※写真o)もう他は何もしませんでした。

写真i
写真j
写真k
写真i
写真m
写真n
写真o

<四日目>

さてこの日もバンクシーを探そうかとも思いましたが見つかる可能性が低いのと一昨日にニューミュージアムで言われたブルックリンの街のことが気になりそこに行ってみることにしました。ホテルのそばから地下鉄を乗り継ぎマンハッタンを出てブルックリン橋を渡り着いたのがジェファーソン駅(写真p)。地下から階段を上がり明るいところに出た途端に驚きました。いきなり街じゅうが落書きです。平成最後の流行語大賞ハンパナイってというのはこのことだと言っても過言でないくらいの落書きなのです。規模でいうと銀座1~8丁目全部が落書きされている感じと言っても伝わらないかな。いや~、バンクシーよりもこっちのほうがはるかに強い衝撃です。中には残念なものもありますが、総じてクオリティが高いのです。落書きを誉めるのは憚られますが、ここまでくると次元が違います。パッと見ても数百いや千点以上は描かれています。アトランダムにスマホでパシャパシャ100点撮ってみましたが、楽しいものが多いです(※写真1~100)。惚れ惚れするレベルのものも多数あります。東京の街でも高田馬場(※写真q)や両国(※写真r)などにも街中でのアートは見受けられますが自由度がまるで異なります。この中にはきっと第2第3どころか第10くらいまでのバンクシーがいそうです。スゲー、驚嘆とはこのことです。街の所々でこの落書きを見るツアーが行われていて絵の解説をしている人(※写真s)がいたり、落書きを背景にプロのカメラマンが撮影をしている光景(※写真t、※写真u)もありました。もうここはアートの街として出来上がっているのでした。結局この日はずっとここを歩いていました。街の人たちはみな優しくてときおり僕に「お前の帽子いいよ」とか「アディダスのジャケット珍しいな」とか声をかけてくれます(※写真v)。まるでティム・バートンの映画の中にいるみたいで時間の感覚がわからなくなっていつの間にか夜でした。

 

写真p
写真q
写真r
写真s
写真t
写真u
写真v

<最終日>

今回の旅はもしかすると昨日のジェファーソンの街に行くためのものだったのかもしれません。偶然という名の凄まじいチカラに導かれたような経験でした。なのでこの日はもうフワッとした心持ちで流行スポットのハイラインやチェルシーやソーホーを歩きましたがそれほど刺激を受けることなく、カレーとステーキ(生まれて初めていきなりステーキで食べました)を楽しんで過ごしました。唯一ちょっと引っかかった落書きがチェルシーにありました(※写真w)。なんとなくバンクシー風。ニューヨークで見ているからかもしれませんが、新橋や千葉のものよりはよく似ているなと思いました。場所はハドソン川のそばでハイラインの最南端から徒歩5分くらい。きっとまだあると思うのでニューヨークに行かれる方でバンクシーに興味があるならぜひどうぞ。

写真w

<帰国後>

と、帰国した翌週にここまで書き終えたところでニュースが入ってきました。4月25日から2週間、都庁の中で港区日の出駅そばの防潮扉に描かれてあったバンクシーらしき作品(落書き)の一般公開をするというのです。これは行かないわけにはいかないので、気乗りはしませんが初日に行ってみました。報道陣が小池都知事を囲んでいるのを遠目で見て(※写真x)彼らが去るのを待ちました。作品は手前にロープが張られて厳重にガラスで守られさらに横には警備員が付いています。 前には説明のボードが置かれそこには現時点では真贋は不明なことや公共物への落書きは容認できるものではないという妙な言い訳みたいな一文もありました。この作品(落書き)のタイトルは「バンクシー作品らしきネズミの絵」(※写真y)。きっとお役所のどなたかが知恵を絞って付けられたのだと思います。ごくろうさまです。翌日朝のニュース番組ではバンクシーの専門家(?)の方がおそらく本物と言われていました。その根拠は作品集にあるネズミを反転させるとピッタリ符号するからだというものでした。これについてはステンシルなので手のきれいなデザイナー達ならかなり高い精度で同様のものが作れる気もしますが、きっと本物なのでしょう。しかしこのネズミはあの埋立地のあの低い場所でこそ意味があるはず。バンクシーが作品に何かメッセージを含ませているのならここでの公開はどうでもいいことのはず。もしそれも含めて想定内であれば限りなくしたたかな男(あえて性別は男と記します)なのだと思った今回の探検隊でした。何なのでしょうか。最後に少し気持ちがしんみりしてしまったのは。

写真y

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