ミッション16「暑い」を言い換えろ!そしてこの夏のキャッチフレーズを作れ!!

ミッション16
電通第5CRプランニング局 クリエーティヴ・ディレクター / コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

おいしいものを食べて素直に「おいしい」や「うまい」と食リポ(レポ?)するとダメ出しを受けるタレントさん達。同病相憐れむ。コピーライターの僕達にはそのときのタレントさん達の気持ちがよくわかります。「おいしいをおいしいという言葉じゃなくてもっとおいしそうな言い方はできないの?」とクライアントさんは平気で言います。もちろんそれをズバリ答えられればコピーライター冥利に尽きますが、内心は大喜利じゃないんだしマジ無理だしおいしいはおいしいだよと思ってることがほとんどです(ゴメンナサイ)。僕の師匠の仲畑(貴志)さんはその昔ビールのコピーで「うまくて、おいしい」と書かれました。流石です。

さて、前置きはこのくらいで本題に入ります。

<はじめに>

今年の夏の暑さは異常でした。これにはほとんどの人が頷くはずです。街ではまるでスマホの代わりのように片手に小型扇風機を持ち歩く人の姿をよく見ました。昭和の頃ならコントの世界でしか見ない光景。つまりほんとにこの国の夏は明らかに暑くなっているのです。とここまで書いて、あれ?去年もそんなこと言ったよなと思い見直すと言っていました。ちょうど一年前、当クリエイターズステーションの別コラム「とりとめないわ㊱」の冒頭。

この夏、命にかかわる危険な暑さという言葉を初めて聞きました。そして何度も聞きました。確か梅雨時には命にかかわる危険な大雨という言葉もよく聞いたと思います。近い将来、日本は四季の国から雨季と乾季のある国に変わるかもしれません。ともかく異常に暑い夏でした。

と、書いていましたね。雨季と乾季はおおげさですが、今年の肌感覚だと春夏秋冬というよりは春夏もっと夏秋冬の五季くらいでしょうか。夏が長くて春と秋は短いです。そうなると夏の次のもっと夏を表すには「暑い」ではない「もっと暑い」言葉が確かにあってもよさそうです。それはどんな言葉でしょうか。

<「暑い」の元祖>

基本の基(き)。そもそも「暑い」はどういう謂れなのかを調べに図書館へ(※写真①)。

写真①

何はともかく広辞苑で調べると暑い(熱い)とは、①気温・体温、物の温度などが著しく高いこと。そしてすぐにその出典があげられていました。伊勢物語「時は六月のつごもり、いと暑きころほひに」とあります。伊勢物語ですか、はぁ?高校の頃、古典か日本史で習ったような気もするけれど1ミリも覚えてないなぁ。ま、ここは図書館。調べてみると伊勢物語は平安初期に書かれた歌物語で作者は不詳。全125段からなり、前出の文は第45段「行く蛍」の項に記されています。この頃の六月のつごもりつまり六月末は今の暦だと八月始めのことだそうです。また広辞苑では他にも東海道中膝栗毛の中の引用や芭蕉の「暑き日を海に入れたり最上川」という句も紹介されています。岩波の国語辞典や流行りの新明解国語辞典(三省堂)も調べましたがこれ以上詳しくはありませんでした。1200年前以上から日本人は「暑い暑い」と言っていたのです。そういえばその昔(1990年)、糸井重里さんのコピーで「暑い暑いと文句言えるシアワセよ。」という西武百貨店の広告がありました。このコピー、大好きでした。

〈まずは100本〉

今回の指令はある意味僕の本業に近いので、仕事のときの要領でやってみます。となると あれこれ考えず、つべこべ言わずに100本書くのが僕のルーティンワーク。では、書きます。この夏のコピー。

(1)毎日汗ばむオレでした。
(2)よろめくオレ。
(3)裸には限度がある。
(4)日傘を閉じるな。
(5)ひなたはダメだ。
(6)日向ぼっこで死ぬぞ。
(7)地熱が冷めない夜の散歩。
(8)風が死んでいる。
(9)海はぬるいな大きいな。
(10)油蝉が泣き叫ぶ。
(11)頭の中がミンミンゼミだ。
(12)太陽がきびしい。
(13)夜がねっとりしてました。
(14)扇風機が効かなくて。
(15)もう来た夏。
(16)日差しが重たい。
(17)生臭い季節。
(18)セミたち、やかましいぞ!
(19)朝から晩までクラクラだ。
(20)南国温度。
(21)濃く焼ける。
(22)情け容赦ない太陽。
(23)きっと太陽は君を許す。
(24)短髪を決心した。
(25)照り焼きなわたし。
(26)帽子がないと生きていけない。
(27)べっとりとカラダがいつも湿ってる。
(28)エリマキトカゲの汗。
(29)ひたすら無口になる季節。
(30)今日3本目のアイス。
(31)夏が本気だ。
(32)夏モロ出し。
(33)毛穴からあふれ出る汗。
(34)今日もうんざり生きている。
(35)水風呂が呼んでいる。
(36)フニャフニャでゴメン。
(37)干物になった私。
(38)それもまた夏のせいにしよう。
(39)全身メッシュでいこう。
(40)すぐ渇く俺。
(41)胸騒ぎのギラギラ。
(42)フライパンボンネット。
(43)信号待ちで低温やけどだ。
(44)夏が俺を殴ってきた。
(45)バスタオル一枚の君が好き。
(46)カセットテープなら伸びていた。
(47)朝顔がもうダメとつぶやいた。
(48)ケンカの原因になりそうな気温。
(49)ただ夏のせいで怒ってる。
(50)平気じゃない夏。
(51)サングラスを突き刺した太陽。
(52)太陽が怒ってる。
(53)太陽のせいにしてあげる。
(54)風がドライヤー。
(55)今年の夏は消去できない。
(56)約束は秋になってにしよう。
(57)ブラジャーを外すのもうざい夏。
(58)焼死しそうだね。
(59)いくとこまでいったこの夏。
(60)落ちるとこまで落ちたこの夏。
(61)秋はうしろでずーっと待ってました。
(62)狂ったピカソのような夏。
(63)狂ったゲーテのような夏。
(64)狂ったランボオのような夏。
(65)狂ったメロスのような夏。
(66)松岡修造みたいな夏でしたね。
(67)夏のがぶり寄り。
(68)ヘンタイみたいな夏でした。
(69)ほんとに危ない夏でした。
(70)コラーッ、太陽!
(71)太陽のバカヤロー
(72)太陽のバカ!
(73)太陽のバカバカ。
(74)狂った果実が実ってる。
(75)この夏が来る前に新しい下着を買った。
(76)秋が来る前にまた下着を買おう。
(77)なかなか逃げない夏でした。
(78)限界がない季節。
(79)夏に笑われた。
(80)夏がダメな私でした。
(81)ママには内緒の夏でした。
(82)兄には秘密の夏でした。
(83)キツツキがキス好きと聞こえた。
(84)理性を奪う夏でした。
(85)ずいぶん女になったこの夏。
(86)夏には全くかなわない。
(87)この夏には完敗だ。
(88)この夏だけには戻りたくない。
(89)宿題なんかどうでもいいと夏が言う。
(90)すべては脱いでからだ!
(91)夏は追うな、やけどする。
(92)R18な季節。
(93)夏より燃えるキミになれ。
(94)この夏は脱ぎやすかった。
(95)こたつはじっと動きませんでした。
(96)殺されるなら夏がいい。
(97)影が地面にへばり付いている。
(98)できればなかったことにしよう。
(99)冗談みたいな夏でした。
(100)濃い夏でした。

〈「暑い」場所へ〉

以上なんとか100本書きましたが、どれが良いのか悩みます。そこで今の日本で一番暑いといわれる2トップのあそことあそこに行って、どのコトバがしっくりくるのか確かめることにしました。その2か所とはもちろん熊谷と館林です。名前を聞くだけですでに暑いです。熊谷は埼玉県、館林は群馬県、いずれも初めて行きます。地図帳で見るとどちらの街も広い関東平野にあって風通しがよさそうですが、いわゆるフェーン現象とさらには大都市の人工的な熱がたまるヒートアイランド現象のダブルパンチが襲う場所なのだそうです。

〈熊谷での検証〉

最初に訪ねたのは熊谷市。熊谷駅前にはいきなり物凄い勢いで出るミストがあって市民は何も気にせずそれにあたっています(※写真②)。濡れることには抵抗ないのでしょうか。それ以上に暑さにやられてしまったのか。行った日も35℃以上の暑い日でした。熊谷駅に隣接するビルの屋上には大きく「暑いぞ熊谷!」と誰に向けてなのかわからない強いメッセージが書かれています(※写真③)。街の所々にテレビでよく見る温度計もあり(※写真④)この日もNHKが道行く人に街(の暑さ)についてのインタビューを行っていました。実は僕も聞かれたのですが、急に恥ずかしくなって遠慮しました。駅周辺を2時間歩いてバテました。熊谷市のゆるキャラも暑そうです(※写真⑤)。そろそろ帰ろうかとコンビニでアイスを買って一服。ふと横にあるビルの屋外広告に目がとまりました。何てことない看板なのに気分が涼しくなったのです(※写真⑥)。40周年の方ではないです、その隣!しろくまデンタルクリニックの「しろくま」という4文字が実にうれしかったのです。せっかく(?)なので行ってみました。なかなかかわいい歯医者さんでした(※写真⑦)。

写真②

写真③

写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

〈館林での検証〉

次に訪ねた館林市。その日は曇りでそこまで酷暑ではありませんでした。熊谷と比べるとこじんまりした街。しかし駅前には熊谷同様のミストや休憩スペースなどの暑さ対策の施設が並んでいます(※写真⑧)。もちろん温度計もあってそこには今の時代ならではの注意書きがされていました(※写真⑨)。たぶんインスタ映えのためにムチャな写真を撮る人がいるのでしょう。しかし駅前は熊谷ほど見るものはなくどうしようかとキョロキョロしていたらビルの窓のポスターが気になりました(※写真⑩)。あれ?シロクマっぽくない?そこですぐ横にあった観光案内所で聞いたらなんと館林美術館にはとても有名なシロクマのアートが展示されているのだそうです。乗った船です。行くしかないです。行きました。いましたシロクマ!かわいいです(※写真⑪ 展示室内撮影禁止のため外から撮りました。許して!)。このシロクマの作者はフランスの彫刻家フランソワ・ポンポン。あのロダンの弟子です。それにしてもポンポンって!かわいいいい!!僕はいっぺんでポンポンの虜になりました。たまりません、ポンポンだもの。 ミュージアムショップにあったこのシロクマの小さなオブジェはもちろん購入して帰途につきました。もはや暑さのことはすっかり忘れていました。

写真⑧

写真⑨

写真⑩

写真⑪

〈これに決定!〉

暑い暑い二つの街へ行って、理屈ではなく、カラダで選んだ今年の夏のコピーは72本目に書いた「太陽のバカ!」です。これに決定です。ふ~、けっこうしんどい探検でした。暑かった~~。
But、館林から戻ってフランソワ・ポンポンのおみやげをベッドの上で眺めながら(※写真⑫)こんなコピーを書きました。
「あー、シロクマになりたいぜ!」
あれあれ?さっきのよりこっちの方がいいですね。ありがとうポンポン!!

写真⑫

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