ゲーム2024.09.06

ゲームにかかわるすべての人へ『CEDEC2024』の様子を、3つの工程に分けてレポート

東京
クリエイターズステーション編集部
FM Nakanishi
FM中西

※メインビジュアルは「CEDEC事務局」公式Xより引用

2024年8月21日~23日にかけて、コンピュータエンターテインメント開発者を対象とした、ゲームに関する技術や知識を共有する国内最大級のカンファレンス「CEDEC2024」が、パシフィコ横浜ノースおよびオンラインにて開催された。(主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)

総セッション数は200以上、大手ゲーム会社からデザイン・システム系の会社まで、ゲーム開発に関する注目度の高い技術やノウハウが共有される本イベント。7つの分野で3日間に行われた本イベントの中でも、今回は①ゲーム開発②ゲーム開発後③ゲーム終了後という3つの過程に分け、各注目セッションの概要をレポートしていこう。

①ゲーム開発:膨大な作業量を、適切な情報共有で解決(任天堂株式会社)

1つ目に紹介するセッションは、任天堂株式会社が登壇した「『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のスクラビルドができるまで ~準備のために準備する~」

同作の開発を務めた藤林秀麿氏と廣瀬賢一氏が、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、TotK)の要素の一つ、スクラビルドシステムの開発プロセスとその背後にある準備の重要性について詳しく語った。

「スクラビルドシステム」は、武器や装備に素材を組み合わせることで性能を強化し、プレイヤーの創造力を最大限に引き出すシステム。TotKのディレクターを務める藤林氏はこのアイデアについて、前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の開発中、「遠くにあるスイッチを押すために、武器の槍をつなげて届かせたら面白そう」と思ったことがきっかけだったと語った。

(左上から)剣を持った状態で岩の横に立ち、「スクラビルド」を発動!剣に岩がそのままくっつく仕様になっている

スクラビルドは異なる素材を組み合わせて新たな武器やアイテムを作り出す仕組みだが、これを実現するには合計で12万通り以上の組み合わせが発生することが判明する。この膨大な作業に対し、廣瀬氏が率いるゲーム開発インフラチームは「画像掲示板」というツールを開発した。これによりスクラビルドの見た目や名前をゲーム内で確認することなく、Webブラウザ上で効率的にチェックできる仕組みを整え、チーム全体の作業負担を大幅に軽減することに成功した。

中でも注目されたのは、開発過程で導入された「ルピー(※)掲示板」の役割である。

※ルピー:『ゼルダの伝説』シリーズにおける通貨の呼称。現実世界での¥や$など。

ルピー掲示板は、開発チーム内での意見交換や情報共有を目的としてカスタマイズされた社内共有ツール。開発者がリアルタイムで開発内容に関するフィードバックを行い、各投稿に「よかった/気になった」といった印象や具体的な内容を記入できるコメント欄が設けられている。さらに、「そうだね!」ボタンを押すことで、他のメンバーの同意を表明でき、これが「ルピー」というゲーム内の通貨に基づいて可視化されることになった。

掲示板の運用には、「意見ではなく情報を書く」「認識が変わったら追記」「議論はやらないこととする」という3つのルールを設けることで建設的なやり取りを実現させ、共通の目標に向かって一致団結するためのツールとして機能した。結果的に、開発サイクルを円滑に進めることにつながったと語られた。

セッションでは、「スクラビルドの成功は、徹底した準備とチームの協力があってこそ成し遂げられたものだ」と語られ、ゲーム開発における計画的な準備とチームワークの重要性を改めて訴えた。

TotKは“面白いことが起きる仕組みを作る” という開発テーマの下、推理して実行して結果を楽しむというプロセスが大事にされている。ゲームをしていて、「あの木を丸太にできるかな?」「あの川の水を氷にできたら渡れるのになあ…」「石と剣をくっつけたら、ハンマーみたいになるのでは!?」という“こうなるんじゃない?”がそのまま踏襲された「スクラビルド」。システムは単純だが膨大な作業量を、徹底的な情報共有と分析のうえ実現させた任天堂開発チームの取り組みを垣間見れるセッションとなった。

②ゲーム開発後:作って終わりではない。より魅力的なゲームにするには?(AIQVEONE株式会社)

2つ目に紹介するセッションは、AIQVE ONE株式会社による「過去300件以上の評価実績を通じて分かった、ゲームの魅力的品質向上のためのユーザーレビューの重要性とポイントを解説」だ。

ゲームは開発して終わりではなく、その魅力と品質を向上させるための検証が行われ、AIQVEONEはこれを「ユーザーレビュー」を積極的に活用することで実施している。セッションを担当した杉山博康氏は7年間にわたって約320件のレビュー業務に携わってきており、その経験を基にしたユーザーレビューの重要性と効果的な使い方についての説明がされた。

ゲーム開発の工程は通常、企画→ファーストプレイアブル→α版→β版→最終版を経て、最終版がチェックされたのちにリリースされる。各開発工程では「デバッグ」というゲーム内のバグを検証する作業が行われるが、これらはゲーム内の明らかな挙動の異変やグラフィックのずれ、操作において進めなくなってしまうといった「ゲームに無くて当たり前」の内容を検証することが多い。いわば、マイナスを限りなくゼロに近づけるための作業である。

対してユーザーレビューでは、通常のバグだけでなく、「そのゲームが魅力的なのか?」という基準の下、開発陣だけでなく実際のユーザーに対し、ゲームテストを実施してもらう。ゲームは娯楽作品なので、魅力的品質を担保するうえでユーザーの声は非常に重要となる。

杉山氏はゲームにおいて「バグがゼロだけど面白くないゲーム」と「バグが多少あるけど面白いゲーム」があった場合、ユーザーはどちらを選ぶか?という問いに対し、「バグが多少あるけど面白いゲーム」をユーザーは選ぶと断言する。デバッグや品質保証(QA)は「あたりまえの品質」を保証するもの。バグを少なくし、最低限のクオリティを確保するためだけでは、ユーザーの満足感を十分に引き出すことができないと強調したうえで、ユーザーにとっての「魅力的品質」を実現するためには、「ユーザーレビューの活用」が必要だと語った。

また“面白いゲーム”と一口に言っても、ユーザーに「面白さが伝わっている」ことこそが重要であると述べる。最近ではメディアミックスの流行りもありアニメ原作などのIP(知的財産)を利用したゲームが多いが、ファンが求める要素がゲームに反映されていないと、結果的に原作ファンの期待も裏切ることになってしまう。そうしたズレを避けるためにも、ユーザーレビューを活用してファンのニーズを早期に把握することが重要だと説明した。

またユーザーレビューを実施するタイミングは何も、ゲームが開発された後に限らない。ゲームの方向性を決定するためのレビューは企画段階で行い、ゲームバランスの評価やプロモーションのためのポイントを把握したい場合は、βテストの段階で行うことが適切となる。レビューを行う目的を明確にし、その目的に合わせたタイミングでレビューを実施することが重要だと述べた。

他にも、定量調査&定性調査それぞれのメリット/デメリットや、調査結果をいかに分析していくかなどが語られる。ユーザーレビューは実施そのものが目的ではなく、レビューを通じてより良いゲームを作ることが最終的な目的だ。

セッションの締めくくりとして杉山氏は、競争が激化するゲーム業界において、競合タイトルを超える魅力を持たなければユーザーを定着させるのは難しいと述べる。ユーザーが継続的に遊び続けるようなゲーム体験を提供しなければ勝つことは難しく、そのためにも検証がポイントになると強調した。

③ゲーム終了後:「サ終」をエンタメに昇華させた、シノアリスの歩み(株式会社ポケラボ)

最後に紹介するセッションは、株式会社ポケラボのエンジニアである高田美里氏と悦田潤哉氏によるセッション「ユーザーの記憶に深く残るソーシャルゲームの終わらせ方 ~ユーザー自身がお墓に入る?!唯一無二のゲーム体験とそれを支える技術のはなし~」

このセッションでは、2024年1月15日にサービスを終了した「SINoALICE(シノアリス)」の大規模なエンディングイベントについて詳しく語られた。

「SINoALICE」は、アリスや赤ずきん、シンデレラといった童話のキャラクターたちが、自分の作者を蘇らせるために戦うというダークファンタジーRPG。最大15対15のリアルタイムギルド戦が特徴で、2017年にリリースされて以来、多くのファンに支持されてきた。

しかし、2024年のサービス終了にあたり、「SINoALICEをただでは終わらせたくない」という開発陣の思いもあり「シノアリスフィナーレ計画」が発案される。この計画は、プレイヤーがゲームの最終イベントを楽しみながら、自らの名前(ゲーム上のプレイヤー名)を「シノアリスだったナニカ」と呼ばれるオフライン版アプリに刻むという、独自のエンディング体験を提供するものだった。ユーザーにとって一見ネガティブに映りがちな、「サービス終了」という事象を大規模なエンターテインメントとして昇華させたのが、アプリ「シノアリスだったナニカ」だったのである。

ただ、ここで一つ課題が挙げられる。「シノアリスだったナニカ」に自分の名前を刻む前に行われる物語の最終章・ヨクボウ篇は、それまでのすべてのストーリーをクリアしないと挑戦できない。最終バトルではギルドメンバー全員が同時に揃って戦わなければならないなど、限られた時間内で難易度の高い挑戦が必要となる。

加えて、2024年1月15日に「SINoALICE」が終了する前に配信された最後のイベントは2023年12月20日。その後2023年12月26日に配信された第7章をクリアする必要があるが、日数にすると最終章の実装からサービス終了までわずか2週間しかないことになる。ヘビーユーザーならまだしも、サービス終了直前にダウンロードしたユーザーや、直近で再開したユーザーにとって、エンディングを十分に楽しめない可能性が出てくるのだ。

これらを解決するために、開発陣はプレイヤーがスムーズにエンディングに到達できるよう、「バトルサポート機能」や「スキップ機能」などの救済策を導入した。またゲームプランナーから「バズりそうな裏技が欲しい」という要望がきっかけで生まれた技として、「端末を100回シェイクすることで、最終章であるヨクボウ篇の開始地点に飛ぶ」という斬新な仕組みを短期間で実現させた。当初、この機能は公式に発表されず、プレイヤーが自力で発見するのを待つ形で導入されている。その後、徐々にプレイヤーが気づき始め、ついに2024年1月1日に公式X(旧Twitter)で暗号を投稿することで、この裏技が告知された。

エンディングイベントを成功させるうえで、ギルドレイド(ギルドメンバー同士協力してレイドを進め、報酬を獲得、分配するPVEモード)を同期する手段や、サービス終了前の大量ログインによるサーバーダウンを制御するためのログイン制限など、さまざまな課題が発生したが、エンディング開発におけるタスクマネジメントにおいて、「タスクを小分けにし、優先順位をつけ、進捗を可視化する」という基本的なタスク管理に徹したという。

高田氏は「SINoALICE」ならではの『サービス終了を全力で楽しむ』という姿勢を、エンジニア、プランナー、マーケティングチーム全員が一丸となって前面に押し出せたことが、本当に良かった」とセッションを締めくくり、プレイヤーにとって忘れられない体験として、開発チームにとっても成功を収めたプロジェクトとなった。

 

 

計3日間に行われたイベントではほかにも、人気ゲーム「塊魂」のサウンド制作秘話や、メディアミックスの考え方、AIを活用したゲームの現在と未来など、ゲーム開発の裏側を知れるさまざまな講演が行われた。イベントのスライドやバックナンバーは、毎年開催されるCEDECで発表された講演の資料を中心としたデジタルライブラリー「CEDiL」にて閲覧可能(会員登録必要あり)。ここでは伝えきれなかった多くの講演が見られるので、ぜひ参考にしてほしい。

■CEDEC2024
名称:コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2024(CEDEC2024)
URL:https://cedec.cesa.or.jp/2024/
会期:2024年8月21日(水)~23日(金)
会場:パシフィコ横浜 ノース(神奈川県横浜市西区みなとみらい)
主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
共催:日経BP
後援:経済産業省 横浜市

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