大人から子どもまで、運命的な一冊を訪ねられる「祈りの丘絵本美術館」
――まず表紙をみた。そのとたん、私はひと目でその絵に恋してしまった。
『憧れのまほうつかい』さくらももこ 著
引用元:Amazon公式サイト( https://www.amazon.co.jp/憧れのまほうつかい-新潮文庫-さくら-ももこ/dp/4101388229)
絵本は決して子どもだけの読み物ではないのだ、と気付かされたのは、さくらももこ氏の『憧れのまほうつかい』という本に出逢った時だった。
シンデレラやアラジンと魔法のランプなどの慣れ親しんだ題材でも、挿し絵によってがらりと印象が変わる。シンガポール出身の絵本作家であるエロール・ル・カイン氏を追って旅をする本書は、『ちびまる子ちゃん』の作者として著名なさくらももこ氏のユーモア溢れる語り口と相まって、気軽に絵本という芸術の世界を味わえる良書だ。
かくいう私も幼少期から絵本には触れてきたが、せっかくならル・カインの作品をはじめ、童話の世界を改めて振り返ってみたい…と訪れた思い出の地が、長崎にある「祈りの丘 絵本美術館」である。緑に囲まれた煉瓦造りの建物は、曇りの空の下でもどこか温かな空気で迎え入れてくれた。
こちらは長崎を代表する観光地のひとつ、グラバー園に向かう坂道の途中にあって、お土産物屋やガラス細工、べっ甲などを扱う雑貨屋の中で楚々と佇んでいる。学生時代から長崎に足を運ぶたび立ち寄っているが、絵本の販売だけでなく2~3階では作品の展示も行われているので、毎回新鮮な気持ちで眺められるのも嬉しい。
ちなみに、2022年8月現在は10月2日まで開催されている『太田大八の絵本と楽しむ昔話の世界』が見どころ。長崎出身の作家、太田大八氏の世代を超えて愛される、豊かな色彩の作品たちを目にすることができる。
3階には常設展や絵本の観覧コーナーも用意されており、心ゆくまで落ち着いた贅沢な時間を過ごさせていただいた。それにしても観覧コーナーにある『おりこうなビル(ウィリアム・ニコルソン)』、タイトルからして印象的で忘れられない…これがめぐり逢いというやつなのだろうか。
絵本を表現するのは、一般的にはあくまでも大人である。だからこそそこには、子どもの関心を惹くための巧みな仕掛けや、大人にも響くような深いメッセージが眠っているのだろう。
それは絵についても言えることで、シンプルで無駄のない線を活かしたもの、あっさりとしたタッチの上に様々な色を重ねることで、柔らかな雰囲気を醸し出した水彩画調、ル・カインのように精密かつ重厚な印象を与えるもの…など、読者の好みや感性に寄り添うかの如く、幅広いジャンルが揃っている。
そこで今回は、前述したル・カインの作品(と画集)を含め、あえて親しみ深い童話の絵本をいくつか購入してみた。訳者の解釈によって言葉の使い方もかなり異なるようなので、また新たな物語に出逢うような気持ちで、これからじっくりと楽しみたいと思う。
お子さんの感性を育てる一冊を親子で探すのにもぴったりの場所だが、木漏れ日が差し込む静かな室内、アートを味わうような気持ちで緩やかな午後を過ごしたい方にもおすすめ。大人ならではの絵本探訪は、昔とは違った響きや発見があるかもしれませんよ。
【祈りの丘絵本美術館】
所在地:〒850-0931 長崎県長崎市南山手町2-10
電話番号:095-828-0716
開館時間:10:00 ~ 17:30(入館は17:00まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)/展示入替日/年末年始
観覧料(2~3階。チケットは1階受付にて):大人・大学300円、小・中・高200円
※団体割引(10名以上):100円引き
障がい者割引(同伴者含む):半額
※「ぶっくくらぶ」会員さまは無料