一生、言い訳をしない 26歳で漕ぎ出した「自分の船」
- 名古屋
- 株式会社ライオンハート 代表取締役 市川厚氏
商業デザインと出会い 26歳という若さで起業
起業に至るまでの経緯を教えてください。
大学中退後、アパレルに就職しました。製造・販売の仕事だったのですが、人見知りするので、初見の人との距離を作ってしまうんです。なかなかうまくいかず、失敗の連続でした。その会社の社長はとても仕事ができて、男でも惚れるような人間だったのですが、その社長に怒られてばかりでしたね。そして、できないことに対して、私は言い訳ばかりしていました。
ご自身ではどう思われていましたか?
よくないとは思っていても、言い訳が止まらなかったんです。依存ですね。麻薬に手を出したことはないですが、その人たちが罪を繰り返してしまう気持ちがよく分かるような気がします。いけないことだと気づいているから苦しいんですね。 「仕事が楽しい」なんて思えない辛い毎日でした。一生分怒られたような気がします。
そこから気持ちに変化が生まれたのでしょうか。
製造・販売の仕事がうまくいかない私を見かねた社長から、Webサイトの立ち上げを任命されました。ラストチャンスのつもりだったと思いますね。私も、背水の陣ですから、必死に独学で勉強しました。その甲斐あって、ひとりでサイト立ち上げまでこぎつけることが出来た。自分でやり遂げる事が出来た、会社に自分の存在価値を見せる事が出来た、というのが、今につながる原体験です。
その経験が、独立への道につながったのでしょうか?
そうですね。「自分の成長のためにも言い訳をしてはいけない」と強く感じました。 それを実現するためにも「一生、言い訳をしない」と誓って、環境を変えたいと考えるようになったんです。 独立に向けて、事業アイデアや企業にかける想いを先輩に語っていたら、それを聞いていた先輩も「是非やりたい」と合流することになり、結果、4名で会社を立ち上げました。
もがきながら手に入れた大切な心 「自責」「尊敬」「素直」
道を見つけられて、どう思われましたか?
就職するまでは、人生うまくいっていたんです。そこそこ勉強もできるし、手先も器用でした。そして、人を尊敬することなく、バカにし、ひねくれていましたね。それが社会人になり、鼻をへし折られた。「アパレル」ってかっこいいイメージがあるじゃないですか。その「アパレル」という船に乗っている自分はかっこいい。でもその船は、自分が動かしているものではないんですね。それに気づいて、海にボチャンと落ちたわけです。必死で泳ぎながら周りを見たら、今までバカにしていたような職種の人たちが、イカダに乗ってスイスイ進んでいるのが見えた。小さくても、みんな自分の船をしっかり持っているんですよ。 そんな中でDTPの仕事をつかんだ時は、やっとイカダの木を集めて浮かんだ状態でしたね。ホッとしました。
人に対する気持ちに変化が生まれたのですね。
Webデザインは独学で続けていたのですが、仕事を通してDTPの現場で働くデザイナーと知り合い、デザインのことを教わりました。それこそ、背景キリヌキなど、デザイナーなら知っていて当然のことを質問するので、不審に思われていたと思います(笑)。でも、素直に感心したり、ノートに書き込む様子などをみて、「どうも本当に知らないらしい」と、色々教えてくれました。デザイナーさんとのやりとりで「まずは出来ないのは自分のせいだ、という自責の念を持つことが大切。そして、できる人を尊敬し、その人の話を素直に聞き、素直に実行することが成長につながる」ということを学びました。 それが、成長に必要なキーワードとして今も大切にしている「自責」「尊敬」「素直」です。
そして起業し、今年で10年を迎えられますね。
運が良かったんですね。経営の師匠となる人との出会いがあって、なんとか生き残っています。その師匠が勉強会に誘ってくれたんですよ。なぜ誘ってくれたかと聞いたら「誘ってほしそうだったから」と言うんです。何かを感じてくれたんでしょうね。私たちのお客様の未来のために、この会社を救ってくれたのかもしれない。私はそれに対して一所懸命やるだけです。
この10年で事業内容に変化はありましたか?
最近では難しいオーダーが増えて、社会的な役割が少しずつ変わってきています。以前は名刺やWebのような目に見える部分、つまり最終段階でデザインに関わることが多かったのですが、だんだん「ビジョンが伝わらないけどどうすればいいでしょうか」といった、デザインの前段階からの相談をお客様から受けるようになりました。そこで現在では「なにをやったらいいか?」といった戦術や企画の部分からトータルで提案し、デザインを行っています。
では、仕事に対する気持ちの変化は?
ないですね。私は元々「好きなこと」を仕事にしています。実家が萬古焼の窯元で、子どもの頃、粘土をこねる作業が楽しそうに見えたんです。また、母方の祖父がラムネ工場を営んでいて、遊園地への配達に連れていってもらっていました。祖父は人柄がよかったので、みんなに愛されていたんですよ。両家を見ていて、仕事って楽しいものだなと感じていたんですね。はじめてのアルバイトは調理補助をしたのですが、それも楽しいものだった。「やっぱり仕事って楽しいじゃん」という気持ちが私の中にありますね。
周囲を気にせず 自分スタイルを貫く
今後の展望を教えてください。
いろんな人と働きたいですね。クセのある人でもポテンシャルが発揮できて、居ついてくれる環境を作っていきたいです。それは、優秀なスタッフがたくさんいて、難易度の高い仕事がある環境だと思うんです。となると、事業も社員も拡大しなくてはいけない。そういう意味では拡大路線です。
代表として、社員との関係を築く上で力を入れていることは?
私は社員とコミュニケーションをとりません。「元気か?」「誕生日おめでとう!」なんていうのは言わないんです。私からすると不自然に感じるんですよ。そうした時点で社員に媚びるような気持ちになってしまうのが自分らしくないし、気持ち悪い。 ただ、自分が気になった時には、話しかけています。
人からの評価などは気にしませんか?
どう思われているか、気にしない。上がってきたデザインに対しても、ズバズバとダメ出ししますね。それは、その人を否定しているわけではなく、目の前に起こっていることに対して感想を言っているだけ。お客様の代わりに言わなくてはいけない。嫌われてもいいんです。あとでギクシャクするかななどの心配は、どうでもいい。気をつかうような関係にはなりたくないです。
では最後に、クリエイターや起業を目指す人たちにアドバイスをお願いします。
好きなようにやったらいいんじゃないかな。嫌われてもいい。好きなようにやって嫌われたってことは、その人から好かれようとしたら無理しなければいけない。すると破綻するわけです。でも、嫌われたくないということが好きな人だったら、嫌われたくない人生を選べばいい。そういうことをあまり気にしなくてもいいんじゃないかと思います。
取材日:2014年10月8日
株式会社ライオンハート
- 代表者名:市川厚(いちかわあつし)
- 設立年月:2004年5月
- 事業内容:広報・広告活動の企画立案・実施/ブランディング戦略立案・実施/採用計画立案・採用及び社内ツールの制作/ビジョン達成のためのアドバイザリー業務/マーケティング戦略・企画立案・実施
- 所在地:〒461-0004 名古屋市東区葵1-15-17 あミューズビル4F
- URL:http://www.lionheart.co.jp/
- お問い合わせ先:上記HPより