人と人をつなぐ 地域と地域をつなぐ ものづくりを通じて地域をデザインする
- 金沢
- 株式会社 エイチツーオー 代表取締役 加茂谷 慎治 氏・木和田 里美 氏
異業種交流で知り合ったことが起業のきっかけ
「エイチツーオー」の社名の由来を教えてください。
木和田さん:印象に残る社名にしたいなと考えました。デザインを通して、人の暮らしに欠かせない存在になりたいなと思いました。水のように透明で、しなやかで、時に力強さもある。そんな企業を目指したいと思ったのです。エイチツーオーというデュオグループの歌が思い浮かんできました。その中に「大人の階段上る」(H2O『想い出がいっぱい』)という歌詞がありました。企業として、一歩一歩階段を昇って高みを目指したいとも考えたのです。そして何より、創業したのが平成20年。ちょうどH20だなと思いついて、すぐに決めたのです。
起業したきっかけを教えてください。
木和田さん:弊社はデザイナーの私・木和田とプロデューサーの加茂谷の2人が代表となっています。以前は2人とも会社員で、異業種交流の場で知り合いました。加茂谷が務める会社のホームページを作っていたのが私でした。勤務する会社が事業を停止することになったのをきっかけに、独立することにしました。
起業する前の歩みを教えていただけますか?
木和田さん:富山県氷見市の出身で、石川県内の洋食器メーカーの商品企画開発室でデザイナーをしていました。その後、デザイン会社に移り、プロダクトだけでなく、ウェブなどのスキルも身につけることができました。
加茂谷さん:私は新聞社で記者、管理部門を経て、石川県内の企業に勤めていました。その頃、異業種交流で知り合った木和田にホームページの制作を依頼したのです。
起業はスムーズに進みましたか。
木和田さん:突然、起業することになったので、正直、資金を含めて準備もありませんでした。事務所について考えると、敷金や礼金、家賃の前金に、設備と気が重くなりました。そんな時、金沢市が運営する起業支援のためのインキュベーションオフィスに空きが出たとのことで、入居者を募集していると知りました。書類の締め切りまで1週間足らずでしたが、急いで申請書を仕上げて、持参し、ギリギリ応募に間に合いました。審査会のプレゼンがあり、無事、審査にパスして、共有スペースに机2つのブースを確保したところからすべてがスタートしました。起業の翌年には、県が開催する「革新的ベンチャービジネスプランコンテストいしかわ」に応募し、優秀起業家賞をいただいたことも大きな励みになりました。
どのように事業を進められてきましたか。
木和田さん:私はデザインを担当し、加茂谷は主としてライティングと講師の業務を担当しています。業務の範囲は、グラフィック、Web、パッケージなど、各種デザインに加え、企業や自治体、個人の本やパンフレット製作のための取材・編集を行っています。最近では、地域づくりのためのコミュニティデザインやワークショップを自治体や地域団体から依頼されるケースも増えています。昨年からは自社でデザイン・製作した金箔レースアクセサリー「Gold-Knot」の販売を開始しました。
起業して良かったことや大変だったことは?
木和田さん:自分が起業するとは思いもしなかったのですが、起業したことで、多くの人に支えていただいてることを身をもって感じています。良かったことは、やはり、仕事を通して様々な分野の人と出会い、仕事の成果を直接、体感できること、毎日毎日が決断で大変なこともありましたが、自分の思いついたことをすぐにカタチにできることが良かったと思います。起業当時は、突然、起業することになったので、やはり資金面で苦労しましたね。
加茂谷さん:たくさんの人に支えられてきました。創業当時、まだヨチヨチ歩きの時に声をかけてくださったお客さまのことが忘れられません。周囲の皆さまには感謝しかありません。サラリーマン時代とは異なり、すべてが自分に返ってきます。働くこと、休むこと、すべてが自分の責任です。それでも、好きで始めた事業ですから、日々の業務が厳しくもありますが、基本的に楽しいですね。起業家の仲間と話すと、やはり好きで始めたことなので、24時間、仕事のことを考えているという人が多いですね。
金沢の伝統文化と欧州の技術を融合した新しい自社商品を開発
自社でデザイン、制作する「Gold-Knot」(ゴールドノット)とはどのような商品ですか?
木和田さん:金沢の伝統文化「金沢箔」と、16世紀のヨーロッパで親しまれた「タティングレース」の技術を融合させた金箔レースアクセサリーです。「伝統工芸を日常に身に付ける」というコンセプトを元に、高級感を持ちながらとても軽く、気軽に身につけることが出来ます。東京や県外の百貨店でも好評をいただいており、自社による通信販売にも力を入れています。
本やパンフレットの制作も行っていますね。
加茂谷さん:2015年は金沢のカフェを紹介する『金沢カフェ散歩』(北國新聞社)を、2016年は金沢のパン屋さんを紹介する本『金沢おいしいパン屋さん』(北國新聞社)を制作しました。自社でお店を選定し、取材、撮影、表紙やページの編集までを行っています。 お客さまご自身の生きざまを本の形で後世に残す「自分史」の制作も行っています。「自分史」の制作は、綿密なインタビュー取材を通して、これまでの人生の歩みや本人の想いを伝えるお手伝いとなっています。
ものづくりにおいて大切にしていることはありますか?
木和田さん:イタリアのデザイナー、エットレ・ソットサスは「デザインとは恋人に花束を贈るようなものだ」との言葉を残しています。相手のことを考えて、あの人にはこんなデザインが似合うだろう、あの企業はこんなデザインを喜んでくれるだろう、そんなことを思いながら、デザインを進め、ものづくりに取り組んでいます。
コミュニティデザインという仕事
もう一つの柱である「コミュニティデザイン」とはどのようなことを行っているのですか?
加茂谷さん:石川県内、県外を問わず多くの地域で、自治体や地域団体からの依頼を受け、ワークショップを通じた地域づくりを支援しています。「地方創生」が叫ばれている中、それぞれの地域が抱える課題は多岐にわたります。それに対して、地域の人たちの絆と、地域の資産を活かして、新しいつながりを生み出し、課題を解決するための、お手伝いをしています。
具体的にはどのような取り組みをされていますか?
加茂谷さん:「地域の縁側」ともいわれるコミュニティカフェの開設講座を5年前から開催し、地域の人が気軽に集える場をどのように作り、維持・運営していくか、そのコンセプトやノウハウを多くの人に伝えています。受講生の中から、20名以上のカフェオーナーが生まれました。人と人とをつなぐ場として、地域に根差し、地域のにぎわいにつながっていくことはとてもうれしいことです。
今後の展開についてどう考えていますか。
木和田さん:おかげさまで金箔レースアクセサリー「Gold-Knot」の引き合いも増えてきました。商品のデザインや開発をさらに進めて、より多くの皆さんに親しまれる商品づくりを進めていきたいと考えています。
加茂谷さん:地方で創業するには、特定の事業に絞り込むことがむずかしく、多岐にわたって事業を展開してきました。今後は取り組む業務を絞り込み、エイチツーオーらしさに磨きをかけていきたいと考えています。
取材日: 2016年9月26日 ライター: 羽馬 晃海
株式会社 エイチツーオー
- 代表: 代表取締役 加茂谷 慎治(かもや しんじ)・木和田里美(きわだ さとみ)
- 設立年月: 2008年
- 事業内容: デザイン総合プロデュース オリジナルブランド Fika http://fika-lab.com/
- 所在地: 石川県金沢市香林坊2-4-30 香林坊ラモーダ 8F
- TEL: 076-205-6202
- URL: http://h2o-d.jp/