依頼者からの実践的な業務を通して、 障害者に“働く喜び”を伝える就労支援サポート
- 仙台
- 一般社団法人COM'S 所長 西山 裕司氏
自身の職業訓練経験を活かして、障害者の就労支援事業所を設立
まずは西山さんのこれまでのキャリアについて、教えていただけますか?
20代の頃からずっと飲食店に勤務しており、4店舗を任されるような役職に就いていました。しかし、忙しく不規則な生活が続く中で、次第に体を壊し始めてしまい、退職を考えるようになったのです。 そんな時に、ホームページを作る仕事をしている先輩が、収入面でも安定しているから良いと勧められ、飲食店を退職して公共職業安定所へ通い、職業訓練でホームページ作りを学びました。ここからみなさん通る道なのですが、いざ職業訓練を終えて就職活動をしてみても、自分の作品がないので実績が認められず、なかなか仕事に就けないのが現状なのです。しかも、就職活動の最後に参加した某企業の集団面接で、ほかの方が手がけた作品を目の当たりにする機会があり、「今の自分のレベルでは無理だ!」と初めて悟りました。それが職業訓練を終えて2~3ヵ月経った頃の話で、そこからまずは腕を上げようと思い、飲食時代にお世話になった方々に「無料で何でも作ります!」と声をかけて、メニュー表やロゴ、販促物など様々な作品を手掛け、悪い所は全部言ってほしいとお願いして、その方々からいただく指摘を元に学び、実践でスキルを積み上げていきました。時には、メニュー表1つ作るのに、1ヵ月以上かかったこともありましたよ。 そうする内に、その方々からの紹介で、有料のお仕事がいただけるようになり、個人事業主のデザイナーとして活動できるようになりました。
それから、どのようにして同事業所の設立に至ったのですか?
デザイナーとして事業が波に乗ってきた頃、当時お付き合いしていた彼女(妻)と結婚を考えるようになりました。しかし、妻は難病を患っており、事業を営む妻の両親から、ご自身の経験も踏まえて「安定したサラリーマンになってくれ」と頼まれたのです。それから一度、個人事業主を辞めてサラリーマンになりましたが、収入が大幅に下がり、共働きを検討しましたが、難病を抱えている妻はなかなか就職に踏み出せないのが現実でした。いろいろ悩んでいた頃、当時勤務していた会社のコンサルタントの方と仲良くなり、宮城、福島、岩手、3県で東日本大震災が起きた年に起業する人向けの助成金制度があることを聞いたのです。 はじめは、もともとプログラミングなどの専門学校に通っていた妻と一緒にパソコン教室をやれたらいいなと思い、妻が起業の助成を受けるためのセミナーに半年通いました。準備を進める中で、障害者向けの支援事業があることを知り、妻のように病気や障害があるから働きたくても働けない人たちがインターネット環境さえあれば仕事ができるようになるための訓練を受けられる環境をつくろうと思い、行政へ助成金を申請して2012年に当社を設立しました。
課題をこなす職業訓練だけではなく、実践的に作業に取り組める環境
現在の事業内容について教えていただけますか?
宮城県から指定を受けた肢体不自由・聴覚言語障害・内部障害・精神障害・難病等の患者のための多機能型事業所(就労移行支援・継続B型)です。 障害者の方用の就労支援事業所として、利用者一人ひとりに合わせた支援計画をもとに、パソコンを使ってイラストレーター・フォトショップ・ホームページの作成・動画の編集などを実践的にやっていきます。職業訓練だと基礎的なところを教えて、訓練の中での課題を作っておしまいになってしまいますが、お取引先からの依頼が訓練の課題となるので、完成後は作品として提出できるのが特徴です。 もちろん、障害がある方の就職に向けた訓練が一番の目的なので、パソコンでの作業以外に履歴書の書き方からビジネスマナーの習得などもサポートしております。
今現在の利用者の人数や、登録までの流れを聞かせてください。
現在、在宅も含めて23名の利用者にご登録いただいております。相談支援事業所に行かれて、うちを紹介されたという方がほとんどですが、最初は見学、体験、その後、実際にやっていけるかを確認して、問題がなければ行政へ手続きを行います。 利用者の方々は一人ひとり障害が異なりますし、それぞれ作業に取り組める能力やスピード、ここに通える頻度、今の生活状況など、全てが違うので、個々の状態に合わせて個別支援計画を立て、就労して定着できるように、支援・サポートを行います。
利用者の方は実際にはどのような作業をされるのですか?
例えば、パソコン初心者の方でも作業できるオークション出品作業や、医療機関、行政関係(仙台市・多賀城市・塩竈市/しおがまし)などからご依頼いただいた実際の仕事を、イラストレーター等を使って行っています。オークションでの売り上げや、ご依頼先からいただく制作費は制作に関わった利用者の工賃としてお支払いしています。 当事業所ではプロが作業をしている訳ではないので、依頼者様からいただく価格を抑えておりますし、その分、納期もたくさんいただき、私たち講師が確認して納品するように努めております。
これまで利用者の方々が作られた、実績などありますか?
はい、宮城県障害者技能競技大会「アビリンピック」のDTP部門で2名の利用者が金賞・銀賞を取得し、ホームページ部門でも1名の利用者が銅賞を取得しました。DTP部門で金賞を取った方は、当事業所へ来られる1週間前まで入院しておられ、退院したその日に見学へいらっしゃり、そのまま通うようになって、全くのイラストレーター初心者から3ヵ月で金賞を取得するまでに成長したのです。本当に誇らしいですね!障害者の方々も、ここまで仕事ができるということをもっと伝えていきたいと思うんです。
明るく変化していく利用者の表情を見るのがやりがい
西山さんが利用者の方と接する上で、大切にしていることはありますか?
正直なところ、特別に何かを思っている訳ではなく、当たり前のこととして「人として対等に接する」ということですね。気を付けているつもりもないけど、周りからよく言われるのです。例えば、当事業所に新卒で講師として入社した子は、障害者の方に対して「介助してあげたい」という気持ちになることがほとんど。もちろん思いやりの気持ちから来るのですが、障害者にとってそれは本来、余計なお世話なんですよね。 自分でできるものは自分でやる。車椅子を「押してあげる」という時点で対等ではなく、上から目線になっていますよね。私は常日頃、「困ったら言ってね」と伝えますがそれぞれに任せて、明らかに困っているが言えない時だけ、判断して動くようにしています。
やりがいを感じられるのは、どんな時ですか?
利用者の方の表情が変わって、楽しそうにしている時ですね。 例えば、あるうつ病を患っている方は、当事業所へ来た時は表情がなかったのですが、どんどん表情が出てきて、笑っていると良かったなって思えます。 利用者同士も仲が良く、アットホームな環境なので、どんどん笑顔の輪が広がって行けば良いですね。
駆け抜けるように今日まで歩んで来られたと思いますが、西山さんの原動力はなんですか?
単純に「負けず嫌い」なんでしょうね(笑)。 飲食店勤務時代も他のお店で感じた良いものを参考にして、すぐに自分たちの業務に取り入れたり、個人事業主として駆け出しの頃も実践で頑張るのみ!と思って動いたり、こうして障害者の就労支援という新しい分野に踏み出した時も、まだ行政が制度を整備している段階だったので、大変なこともいっぱいありましたが、「負けず嫌い」を原動力にして行動に移してきました。
今後は障害者の「雇用」を目的とした事業所展開も視野に
今後の展望について教えていただけますか?
宮城県にあと2つ、事業所を展開していけたらと思っています。 最初は障害者の方々を「就職させたい」という思いでしたが、今は「雇用したい」という思いに変わってきています。 今は「B型」という事業形式なのですが、「A型」という事業所を立ち上げれば、最低5時間以上の勤務時間を設けることを条件に、障害者の方々を雇用することができるのです。 とういうのも、以前、精神障害のある利用者の方に「働きたくない」と言われたんです。 どういう意味かと聞くと、ここである程度できるようになって、いざ就職しようと思った時に、また就職した先で何か起きたら恐いという思いが先に来てしまい、なかなか踏み出せないというのです。ですので、そこの受け皿になる事業所を作りたいという思いが1つですね。
もう一つはどのような展望ですか?
在宅で仕事をする方のための事業所を展開すること。 在宅で仕事に取り組む障害者の方に一般企業が仕事を頼むと、行政から受注額の5%前後の助成金が出る制度があるのですが、ほとんどの企業が利用していない状況です。 当事業所には重度の身体障害を抱え、在宅で業務に取り組む利用者がいらっしいます。大手マスメディアから直接仕事の依頼が来るほど、仕事のスキルが高い方ですが、重度の身体障害があるという点から、なかなか仕事が増えないというのが現状です。そこで、その方をはじめとする在宅の利用者の働き口をサポートする事業所を立ち上げるのが展望(→目標では?)ですね。 これからも利用者のニーズに合わせて新しい方向性も検討しながら、障害者の方々の就労支援に取り組んでいきたいと思っております。
取材日: 2017年2月14日 ライター: 桜井玉蘭
一般社団法人 COM'S
- 代表者名:西山絵理子
- 設立年月:2012年
- 事業内容:就労移行支援(一般型)、就労継続支援B型
- 所在地:多賀城市桜木三丁目4-1復興パーク内A-11号館1F
- URL: http://com-s.org