「聴く・見る・知る」リアルなコミュニケーションを通して感じた、 クライアントの真の価値を表現する
- 新潟
- グラフィックデザイナー 石川 竜太 氏
- Profile
- 新潟県三条市生まれ。新潟市のデザイン会社で8年勤務後、独立。2006年4月、株式会社フレーム(新潟市・デザイン会社)設立。麒麟山酒造のブランディング及びパッケージデザイン、ダイニチ工業株式会社のロゴデザイン、キリンビバレッジ「生茶」「yosa soda」のパッケージデザイン、LOTTE「紗々」のパッケージデザインなど、新潟にとどまらず全国的に親しまれている商品&企業のデザインも幅広く手掛けている。
「会社を辞めてどうするのか」師匠の言葉で目覚めた20代
グラフィックデザインに興味を持ったのはいつ頃からですか?
最初のきっかけは、高校の美術の先生が私の作品を認めてくださり、デザイン系専門学校のコンクールで受賞したことでした。その後、県外の美術系短大へ進学しましたが、まだ将来はぼんやりとしていましたね。卒業後、地元に戻り「本格的に就職しないと」と思い、求人票を見て新潟市のデザイン会社に入社。毎日夜遅くまで働いていましたが、自分が何を目指したいのか?どんなグラフィックデザイナーになりたいのか?を本気で考えたのは、20代後半になってからでした。
何かきっかけがあったのですか?
勤務していたデザイン会社では、毎日忙しく、何のためにここにいるのかを見失ってしまったことがあり…当時の師匠に「会社を辞めたい」と伝えたんです。「辞めてどうするの?」と師匠に問われたときに、やっと真剣にいろいろなことを考え始めたという感じ。新潟で1番と言われるデザイン会社の2番手として仕事をさせてもらって、こんなに良い環境を手放して何ができるのだろう?ここで今、自分は何を身につけるべきか?と。ようやく本来の自分の役割とデザインワークを見出した気がします。「辞めたい」と言ってから結局数年在籍しました。入れ替わりが激しかったデザイン会社で、トータル8年勤務。周りからは「打たれ強い」と評価されましたね。(笑)
話は前後しますが、県外の大学を卒業後、新潟に戻られた理由は?
やっぱり新潟が好きだったから。ちょっと都会は苦手なんですよね。人が多くて、せわしなくて…。新潟市も都会だなと思いますよ。地元の三条市に帰るとほっとします。(笑)
新潟のどんなところが好きですか?
山も海もあって、春は桜が咲き、夏は花火、雪の降る冬も風情があります。自然が豊かで、四季がハッキリしているところ。だから食にも恵まれていますよね。山菜も魚も、もちろんお米も。日本酒とビールも。(笑)
新潟の逸品=「越品」を全国へ、そして海外へ
多彩なクライアント・媒体のデザインを幅広く手掛けていらっしゃいますが、特に好きなジャンル、得意なデザインというのはありますか?
色やカタチ、柄だけではなく、企業のコンセプトから視覚化するということを根底に置いてデザインをしています。ですから、企業の核となるロゴ制作などは特に楽しいですね。コトバも含めて全体をフォーカスする、広い意味でのデザインが好きです。
デザインを考案・提案する中での心掛け、大切にしていることは?
お客様のビジネスに直結するデザインを担当させていただいているため、お客様のお話を聴く、現場を見る、考え方や方向性を知る、リアルなやり取りを大切にしています。お客様の優れたポイントを見出すこと、お客様が気づいていない本当の価値を探ることに力を入れています。時には、デザイン提案を越えて、資材のコストを下げる取り組みを共に考えたり、お客様にとって有益となる人やモノを紹介したりすることも。「一緒に仕事をして良かった」と思っていただけることが一番です。
2006年に設立された「株式会社フレーム」の特長・魅力は?
受注形態が9割、クライアント直の仕事です。お客様と直接のコミュニケーションで生まれるものを大事にしています。現在、9名のスタッフが頑張ってくれていますが、やはり人数が増えるごとに、デザインの質・スピード感が増していると思います。ちなみに、弊社はどんな案件も、「社内コンペ」で提案するデザインを決定します。私はアドバイス程度で、ほとんど社員の総意で決定。自分のデザインが選ばれないときも、もちろんあります。組織としてやれることに重きを置いているという感じ。スタッフとともに、会社とともに成長していくイメージです。
東京本社のクライアントの仕事、海外でのお仕事も多くなっていると思いますが、新潟に拠点を置くことの意味・理由について教えてください。
新潟は「良いもの」がたくさんあるんです。食だけではなく、使うものも残るものも、全ての質が良い。新潟伊勢丹では、これらを「越品」と括って売り場展開をしています。全国、海外に発信していきたいものがあふれているだけに、可能性も無限大。遠方のお客様から声が掛かれば、現地へ訪れます。TV電話やネットの中継は、好きじゃないので…やはりリアルに顔を見て話すことが基本だと思っています。新潟に軸足を置いて、全国・海外へ足を運ぶ、このスタンスは今後も変えるつもりはありません。
メリハリのある生活で、より良いインプット/アウトプットを
新潟のクリエイティブ業界についてどのように感じていますか?
アートディレクターズクラブ(以下、新潟ADC)のクリエイティブは、レベルが高いと全国の審査員の方々から評価をいただいています。「石川でもできるなら自分も…」と思って頑張る後輩たちが、どんどん育ってもらえればうれしいです。
そんな新潟ADCで例年受賞されている石川さんご自身についての評価は?
私は運が良かったのだと思います。師匠にも恵まれ、たくさんのことを学ばせていただきました。会社員時代に担当させていただいた麒麟山酒造様の紅葉のパッケージを「新潟ADCに出品してはどうか」と提案してくれたのも師匠です。独立後も、麒麟山酒造様とのお仕事は継続させてもらっています。また、東京本社のクライアントが弊社を見つけてくださり、直接ご連絡いただけたのもラッキーなことでした。
突然ご連絡があったのですか?
はい、本当に突然です。その時私は外出していて、いただいたお電話はスタッフが受けたのですが、帰社した際に「キリン(ビバレッジ)さんから電話がありました」と。「何かの間違いではないか?」と疑いましたよ(笑)。 東京の電話番号に折り返すと、本当でした。疑ったスタッフ、ごめん(笑)。そして夢のように嬉しい出来事でした。
9名のスタッフに対しての想いは?
私自身が会社員時代に毎日遅くまで働いていたので、弊社のスタッフには早く帰ってプライベートも充実させてもらいたいと思っています。クリエイティブ業界は夜遅くまで働く、というイメージを払拭するためにも、オンオフの切替はしっかりと。弊社の「ノー残業デー」は、毎週何曜日という規定ではなく、個々にその日を設けています。「今日は●●さんが18時退社の日」という感じ。プレミアムフライデーも相変わらず実施中(笑)。その他にも「平日デートに行きたい」「午後のコンサートが観たい」といった場合は、半日休暇を取ることもできます。インプットする時間も大切ですから。全ては、私自身のスタッフへの感謝の気持ちです。
今後の夢や目標について教えてください。
お客様に飽きられないように、日々バージョンアップしていくこと。それに尽きます。会社としては、今以上のものを求められると感じたら、人数を増やすことも考えますが、今のところ「規模の拡大」だけを目標にはしていません。これからもずっと新潟でデザインに関わる仕事をしていきたい。新潟の街が好きで、クリエイティブが好きだから。経営だけに徹する気持ちは全くないですね。
最後に、U・Iターンを考えているクリエイターへメッセージをお願いします。
四季の美しい、食べ物のおいしい新潟で暮らしてみませんか?首都圏より家賃も安いし、何より人間らしい生活を満喫できると思います。みんなで力を合わせて新潟のクリエイティブをさらに盛り上げていきましょう!
取材日:2019年1月22日 ライター:本望 典子
石川竜太/グラフィックデザイナー
新潟県三条市出身。既成概念にとらわれることなく、常に新しい仕組みや仕掛けを考え、新しい価値観を生み出すコミュニケーションを創り出すべく 商品・ブランド開発、広告制作、C.I・V.I計画、SPなど、デザイン全般にあたる。新潟ADCグランプリ、日本タイポグラフィ年鑑2017 グランプリほか、pentawards 2年連続platinum獲得。株式会社フレーム代表取締役。長岡造形大学非常勤講師。