人との関係を大切にする「京都」だからこそ、じぶんらしい働き方が叶えられた。
歴史的情緒あふれる京都で、まちづくりや教育・研究活動のサポートに力を入れている女性がいます。広報業務を軸として、企画・取材・撮影・グラフィックデザインを幅広くこなす土谷真咲(つちや まさき)さんです。東京都生まれの土谷さんは、6年前、京都へ移住。大学、ブライダル企業での広報の仕事を経て個人事務所「Words&Arts」を立ち上げ、フリーランスで活動されています。東京でのエピソードや京都でのご活躍について話をお聞きしました。
建築デザインを学ぶために理工学部に進学
学生時代はどのように過ごされていましたか?
小さいころは絵を描くことや読書が好きでしたが、この頃はまさかデザインや文章を仕事にするとまでは思っていませんでした。小学校を卒業した後は中高一貫の女子校に進学。女子校時代は周囲に気兼ねすることなく、のびやかに過ごせた6年間でした。進路を考えるようになったのは、高校2年生の頃だったと思います。私は理系科目が得意でしたし、建築デザインにも興味があったので、建築系の学科への進学を決めました。
建築デザインの学びはいかがでしたか?
初めはデザインを志していましたが、本格的に学ぶようになるとなかなか難しく、興味はデザインよりも環境工学のほうに移っていきました。研究内容自体には興味がありましたが、就職しようと思うとなかなかしっくりくる職種がなく、インターンなどをしつつも将来については悩むことが多かったように思います。
自宅から大学まで1時間半も電車に乗って通っていましたので、読書の時間がたっぷりありました。今思えば、この時の読書量がライティング力を養ってくれたのかもしれません。
ベンチャー企業でビジネスの立ち上げを経験
大学卒業後はどんな仕事に?
在学中はさまざまなアルバイトをしていました。大学院進学から就職に急きょ進路を変えたこともあり、卒業後は、学生時代から働いていたベンチャー企業にそのまま就職。立ち上がったばかりの会社でしたので、さまざまな業務を手掛けていました。チラシ制作、イベント会場の図面制作、ブース出展の広報活動など、幅広い経験ができました。
会社のパソコンにデザインソフトは入っていなかったので、チラシも図面もオフィスソフトでの制作。環境が整っていなくてもゼロから形にしていく行動力は、この会社で培われたのだと思います。
数百万円の広告をディレクションする広報マネージャーに
引っ越されて京都での暮らしが始まるわけですが、どのようなお仕事を?
家族の都合で京都に移ることになり、大学の広報を担当している部署で働くことになりました。1年半ほど勤めた後、よりクリエイティブな仕事を求め、ブライダル企業に転職しました。
ブライダル企業ではどんな仕事をされましたか?
1年ほど経験を積み、広報マネージャーを任されました。京都はブライダル企業が多く、競争の激しい土地。何十万円、何百万円という広告費を払ってどれだけ集客するかは、広報の腕にかかっています。
反応の良い広告を作るため、海外のブライダル雑誌や洋書を買いあさり、披露宴のテーブルコーディネートやウェディングドレスのトレンドを研究しました。
やりがいのある仕事ですね。
毎回必死でしたが、とても面白い仕事でした。流行している色、ドレス、テーブルコーディネートをタイムリーにリサーチして、各部署の担当者と相談しながら世界観のある広告を作り上げていくのが楽しくて。
媒体担当者やカメラマン、ライターの力も借りましたが、「これでは会場の良さが伝わらない」と写真を選び直したり、キャッチコピーを書き直したり。ヒットする広告づくりに携わった経験から、ターゲットを設定して見せ方を考える手法が身につきました。
「小回りの良さ」でマルチクリエイターとして独立
やりがいのある仕事を辞めて、なぜフリーランスに?
カメラマン、ライター、ウェディングプランナーなど、仕事で携わっていた方の多くがフリーランスとして活躍されていました。その姿を見て「フリーランス」という働き方に憧れたのです。
京都はフリーランスが働きやすい街。 私もブライダルフェアのチラシやリーフレットを制作していましたので、この力を活かせないかと独立へと踏み切りました。
制作業界のご経験がないなか、知り合いも少ない京都。どのようにお仕事をされましたか?
まずデザインの勉強からスタートしました。グラフィックデザインや配色の本を何冊も買い込んで独学です。
そんな時に「京都で景観づくりをしているNPOの広報を手伝ってくれないか」と声をかけていただきました。そこからは、まちづくり専門家としてイベントをお手伝いし、ホームページ用の記事を取材して執筆しました。地域でのお付き合いが広がり、まちづくりの冊子やイベントの企画などの依頼が増えていきました。
科学・研究に関するイベントの企画運営も経験されていますね。
2019年の夏に、研究室を通じて、小学生向けの科学イベントをお任せいただきました。この案件では企業への協賛依頼、取材・撮影・冊子制作、グッズ制作など、イベントの企画運営をトータルで担当しました。 自分が研究への道を断念してしまった過去があるため、科学のおもしろさ・楽しさを子どもたちに伝え、将来のことを考えるきっかけにしてほしい、という願いを込めて手掛けたイベントです。
当日は、参加してくださった企業の方々へのインタビューをまとめた冊子を配布しました。「子どものときにどんなことに興味があったか?」「いまの仕事は、どんなことがきっかけで始めたのか?」などを伺いました。読んだ子たちの心に小さな科学の“種”が育てば、という想いがこもっています。
準備から開催までの数か月間は、目の回るような忙しさでしたが、研究室の方々といっしょに準備していき、なんとか実施。努力したかいあって、1300人もの方に来場いただけました。小学生から高校生まで、子どもたちが夢中になって実験やロボットの操縦を楽しんでいる笑顔が忘れられません。
大変だったけれど、大きなやりがいと手応えを感じた案件です。
子供たちに「将来の道は広い」ことを伝えたい
土谷さんにとって、京都で仕事をする魅力とは?
京都は人と人との関係を大切にする街です。東京はクオリティやコストパフォーマンスで判断しがちですが、京都は「この人に任せたい」と人柄で選ぶ傾向があるのではないでしょうか。京都に来てまだ年数の浅い私でも仕事をいただけるのはありがたいですが、その分、しっかりとした仕事をしないといけない、と、毎回気を引き締めて臨んでいます。
お客様に評価いただいているのは、企画・取材・撮影・デザイン・イベント運営を、トータルで手掛けられる小回りの良さ。培ってきたスキルでご依頼いただいた方のお手伝いができればと思っています。
暮らしの面ではいかがでしょう?
当初はモノや情報にあふれた東京を恋しく思いましたが、住み慣れた今では自然豊かな京都に落ち着きを感じています。東京にいたときは思いもしませんでしたが、神社に行く習慣ができました。「近くに来たからまちの神様に挨拶していこう」と思えるのは、神社と暮らしが結びつく京都ならではと感じています。
今後の⽬標について教えてください。
教育・研究関係のイベント企画や、冊子などの媒体の制作を通じて、子供たちや若者の進路を広げるお手伝いがしたいと思っています。
また、つながりを持ってくださった地域の方々、一緒にまちづくり活動に携わっているメンバーとも、自分のできることを活かしながらいっしょに仕事ができたら嬉しいです。まちづくりやイベントは、1人でなく皆の力でできあがっているもの。人のつながりを大切にしながら仕事の幅を広げていきたいです。
Uターン、Iターンを考えている⽅にメッセージをお願いいたします。
京都は個人で仕事がしやすい環境です。ユニークな仕事や、自分の好きなことを仕事にしている方も多いですし、小さく、深く、仕事をしていけるところが魅力だと思います。フリーランスで活躍したいと思っていらっしゃる方にとっては、スタートを切りやすい場所ではないでしょうか。
取材日:2020年3月4日 ライター:葉月 蓮