グラフィック2021.10.05

【東京都美術館】桂ゆき、丸木スマなど6名の女性作家の作品から「日々生きること」を問いなおす展覧会

東京
公益財団法人東京都歴史文化財団
​上野アーティストプロジェクト2021「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」
Ueno Artist Project 2021: "Everyday Life I am Reborn"
会期:2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)

 

「上野アーティストプロジェクト」は、「公募展のふるさと」とも称される東京都美術館の歴史の継承と未来への発展を図るために、2017年から始まった展覧会シリーズです。毎年異なるテーマを設けて、公募展を舞台に活躍する作家たちを紹介しています。その第5弾である今回は、「Everyday Life」をテーマに、戦前から現代にいたる6名の女性作家を取り上げます。

毎日の暮らしの中で出会う風景や物事、それらの記憶―。そのような、自分自身のすぐそばにあるものへのまなざしを起点に、作家たちは多様な表現を生み出してきました。

戦前・戦後の美術団体で活躍し、身辺の事物を通じて自己そして社会と向きあってきた物故作家3名と、身の回りに埋もれた様々な「生」の断片を拾い上げ、それらを留め、かつ再生させるかのような制作行為に取り組む現役作家3名の作品そして生き方は、わたしたちが「日々生きること」について、問いなおすきっかけを与えてくれるに違いありません。


出品作家(50音順)
・桂ゆき(かつら ゆき/1913-1991/二科会会員、女流画家協会創立会員)
・川村紗耶佳(かわむら さやか/1989-/日本版画協会準会員)
・貴田洋子(きだ ようこ/1949-/日展会友、現代工芸美術家協会本会員)
・小曽川瑠那(こそがわ るな/1978-)
・常盤とよ子(ときわ とよこ/1928₋2019/日本写真家協会会員、神奈川県写真作家協会会長 他)
・丸木スマ(まるき すま/1875-1956/女流画家協会会員、日本美術院院友)
 

展覧会のみどころ
1 美術団体にみる女性作家の活躍
戦前から二科会に所属し、戦後は女流画家協会創立にも参加した桂ゆき、横浜の戦後を写し、晩年まで同地の写真家団体を牽引した常盤とよ子、1950年代に75歳を過ぎてから女流画家協会展や院展で作品を発表した丸木スマの3名の物故作家に注目し、戦前戦後の美術団体における女性作家の活躍を振り返ります。桂ゆきの《ひまわりの咲く午後》や、丸木スマの《簪》など、かつて二科展や院展で発表された作品が東京都美術館に再展示されます。

2 美術館での初展示
現在も美術団体で活躍中の川村紗耶佳による木版画や貴田洋子による津軽こぎん刺し作品、また小曽川瑠那のガラス作品など現役作家3名の作品は、新作や本邦初公開の作品を含み、いずれもまとまった点数を美術館でご紹介する初めての機会となります。

3 さまざまな素材や技法による表現の追求
本展には、津軽こぎん刺し、コラージュ、写真、ガラス、木版画、クレヨンと水彩、水墨など、異なる素材やさまざまな技法を用いて製作されたバラエティ豊かな作品が登場します。作家たちが、素材や技法にどのような思いを持ち、それらの特性を活かしていかに独自の表現を追求してきたのか、ぜひご注目ください。
 

展覧会構成
【第一章 皮膚にふれる  桂ゆき・貴田洋子】

〇身近にある「皮膚におなじみの」物体と丹念に向き合うことを通じて、自然や社会、そして人間と対峙し続けた画家・桂ゆき(1913₋1991)。東京・千駄木に生まれ育ち、戦前から二科会を舞台に、また戦後は女流画家協会創立にも参加するなど、女性が画家として認められることに困難が伴った時代から長きにわたり、画壇において常に注目を集める存在であり続けました。

桂ゆき 《ひまわりの咲く午後》 1948年 油彩、カンヴァス 茨城県近代美術館蔵

 

​〇青森・大鰐町に生まれ、近世以降の津軽地方で、野良着の補強と防寒のために発展・継承された津軽こぎん刺しを独学で身につけた貴田洋子(1949₋)。こぎん刺しの伝統模様や運針規則を厳格に守りながらも、その幾何学的画面の中に独自の手法で有機的な線を登場させるなど、表現のあらたな可能性を追い求め、ふるさとやこぎんを守り伝えた津軽の女性たちへの思いを大作で表現し、日展および日本現代工芸美術展への出品を継続しています。

貴田洋子 《ふるさと・あのころを舞う》 2018年  糸、麻布(津軽こぎん刺し)作家蔵

 

〇ここでは、桂の初期の小品、コラージュ作品から1980年代までの作品13点と、貴田の初期作から新作まで16点を展示します。「皮膚にふれるもの」から広がるそれぞれの作品世界をお楽しみください。
 


【第二章 土地によりそう  常盤とよ子・小曽川瑠那】

〇生涯を横浜で暮らし、戦後の女性写真家の草分けの一人として活躍した常盤とよ子(1928₋2019)は、1956年の個展で発表された、横浜の赤線地帯に潜入した一連の作品で一躍脚光を浴び、その後も社会問題に強く関心を寄せ、女性、戦争孤児などを被写体に撮影を続けるとともに、神奈川県写真作家協会などを拠点に後進の指導にも力を注ぎました。

常盤とよ子 《夜の蝶へ》 1956年  ゼラチン・シルバー・プリント 横浜都市発展記念館蔵

 

〇武蔵野美術大学卒業後、ガラス工芸の専門教育機関で学び、在学中からガラスの公募展や国際コンクールで評価を確立した小曽川瑠那(1978₋)。脆弱性と耐久性というガラスが持つ正反対の性質に対し、小曽川は、はかない生命や記憶とそれらを保管する記録媒体としての二重の意味を見出します。現在は岐阜県高山市を拠点に、高山の風景のほか、各地に眠る戦争、公害、災害などの記憶、また、その中に生きた/生きる人々の命をテーマとした制作に取り組んでいます。

小曽川瑠那 《ひといきを読む》 2019年  ガラス、ランプワーク、臼 作家蔵(参考作品)

 

〇今回は、女性たちの日常をとらえた常盤の約30点の写真と、小曽川による新作インスタレーションを展示します。自分自身が日々生活を送る土地によりそい、間近にありながら見過ごされてしまう人間や生活、景色、そして消えゆくそれらの記憶に対し、カメラとガラスというそれぞれの方法で光を当ててきた2人の挑戦をご覧ください。
 


【第三章 記憶にのこす  丸木スマ・川村紗耶佳】

〇広島の農村に生まれ育ち、畑仕事や家族の世話に明け暮れて70歳を過ぎた頃、画家である長男夫妻(丸木位里・赤松俊子)に勧められ初めて絵筆をとった丸木スマ(1875₋1956)。描いたのは、自身が暮らした山村の風景や、身の回りの動植物。墨や水彩、クレヨンなどを自由に操り、1950年から没年まで、女流画家協会展や再興院展に連続入選を続けるなどの活躍を見せました。

丸木スマ 《簪》 1955年  水墨彩色、紙(二曲一隻屏風)  原爆の図丸木美術館蔵

 

〇日本版画協会に所属し、鹿沼市立川上澄生美術館木版画大賞や高知国際版画トリエンナーレなど数多くの版画コンクールでも高い評価を獲得している川村紗耶佳(1989₋)は、一貫して記憶をテーマにした制作を続けています。作家の出身地である北海道で家族と過ごした日々の記憶は、画面上ではどこかにいる誰かのありふれた日常の一コマとして描き出され、作品を見る誰でもが、そこに自分自身の記憶を重ねずにはいられません。

川村紗耶佳 《mundanedays Ⅲ》2017年 水性木版、和紙 作家蔵

 

〇ここでは、丸木スマの女流画家協会展、再興院展出品作を中心とする11点、川村の小品から大作まで12点をご覧いただきます。描くこと、彫ること、摺ることで、かけがえのない生活の記憶が「かたち」として残され、その残された「かたち」の中から、また新たな記憶が生まれなおし続けていくことを、それぞれの作品の前で感じていただけると幸いです。
 
 

展覧会基本情報
展覧会名:上野アーティストプロジェクト2021「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」
Ueno Artist Project 2021: "Everyday Life I am Reborn"
会期:2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
休室日:2021年12月6日(月)、12月20日(月)~2022年1月3日(月)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般 500円 / 65歳以上 300円
※学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご提示ください
※都内の小学・中学・高校生ならびにこれらに準ずる者とその引率の教員が学校教育活動として観覧するときは無料(事前申請が必要)
※特別展「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(会期:9月18日~12月12日)のチケット(半券可)提示にて入場無料
※事前予約なしでご覧いただけます。ただし、混雑時に入場制限を行う場合がございますのでご了承ください
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
展覧会ウェブサイト:https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_uenoartistproject.html
問い合わせ先:東京都美術館 03-3823-6921

同時開催:東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶
https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_collection.html
本記事に関するお問い合わせ:公益財団法人東京都歴史文化財団

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