【武蔵野美術大学 美術館・図書館】展覧会「三浦明範—vanitas vanitatum」開催について
展覧会名にあるラテン語 "vanitas vanitatum"(ヴァニタス ヴァニタトゥム)は旧約聖書中の「伝道の書」に残された言葉で、「空の空」を意味します。現実の不条理に直面しながら、虚無感に屈することなく、既存の秩序さえも問い直した末に賢者が辿りついた言葉です。その言葉は、身近な事物を克明に観察、描くことで問題を提起し、答えを探しながら描き続けてきた画家・三浦明範の作品に重なります。大型作品を中心に、油彩とテンペラによる彩色作品からシルバーポイントと墨によるモノクローム作品まで、28点を一望できる展観です。生きること、死ぬこと、日頃の私たちがあえて直視しない事柄と向き合う絶好の機会となります。
三浦明範—vanitas vanitatum
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20682/
会期:2023年7月15日(土)— 8月13日(日)
休館日:水曜日
時間:11:00-19:00(土・日曜日、祝日は17:00まで)
入館料:無料
会場:武蔵野美術大学美術館 展示室3
主催:武蔵野美術大学 美術館・図書館
協力:武蔵野美術大学 造形学部通信教育課程研究室
[同時開催]『若林奮 森のはずれ』2023年6月1日(木)−8月13日(日)
【本展の見どころ】
■ 古今東西の画材を活かした表現
描画にはヨーロッパで鉛筆の登場以前に用いられていた金属尖筆、アジアの伝統的画材である墨、下地には北西ヨーロッパ産の白亜や中国原産のカオリン、さらにアルキド樹脂といった現代の材料も含め、画材の新たな使い方がみられます。画材や技術といった側面はあくまで手段でしかないとしながらも、それらを試行錯誤する楽しさは絵を描く動機の一つとなっています。
■ 大画面に繊細な描画
細やかに描き込まれた大型作品に、複製にはない画面の充実した素材感を確認できます。三浦はこれまで先人たちの作品をふまえ、画材の長所を引き出し、短所を補いながら絵画表現の可能性を広げてきました。画材の素材感を消す方向にあった西欧古典絵画の技法を応用し、平滑面に重ねられた画材が光によって豊かに表情を変える様子は、素材を積極的に押しだす日本の伝統絵画にも通じています。そこに描かれた内容をも含んで、目に見える部分で後世に伝わる価値を備えているといえます。
■ 問題提起する絵画
「絵を描くことは自分を見つめることでしかない」という、画家本人の思考を深めた作品でありながら、観る者それぞれが抱えてきた問題意識とつながり得る絵画群です。それは生死といった身近に潜む不思議に端を発した作品であることに由来しているのかもしれません。画面に満ちる光と底知れぬ黒、繰り返し描かれている事物を前に、どのような問いが想起されるでしょうか。私たちが、立ち止まり深く考えるような絵に出会うことになるでしょう。
所蔵・写真はすべて作家
【作家紹介】
1953年秋田県大館市に生まれる。76年東京学芸大学卒業。80年春陽展新人賞受賞。83-84年文化庁派遣芸術家国内研修員。96-97年文化庁派遣芸術家在外研修として、15世紀フランドル絵画の研究のためベルギーに滞在。その後、日本とベルギーを中心に、アメリカ、オランダ、チェコ、中国など各地で作品を発表。古典絵画の技法に遡ることで、油彩とテンペラの混合技法や金属尖筆を用いた表現の可能性を広げてきた。画材の研究成果は著書『絵画の材料』としてまとめられ、次世代の絵画制作者が表現を探求していくための基盤づくりに寄与している。武蔵野美術大学造形学部通信教育課程油絵学科教授。春陽会会員。日本美術家連盟会員。
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