演じることをとことんつき詰めた究極的な作品、映画『Page30』

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから映画鑑賞はやめられない
阪 清和
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演劇には不思議な力がある。観ている観客が俳優の演技に触発され、前向きに生きる力を手に入れることもあれば、俳優自身が演じることによって自らが抱える悩みや矛盾を昇華させ、新しい地平に踏み出していくこともある。一見、戯曲という線路を踏み外さないように慎重に進んでいるように見えて、俳優の心は現実から離れ、別の何かを求めて自由に飛翔していることもある。

とある日にスタジオに集められ、たった3日間の稽古の後、4日目には仮面をつけた謎めいた観客たちの前で本番の舞台を上演することを強制された、経歴も出自も違う俳優4人を描いた映画『Page30』(堤幸彦監督)。本作は、演じること、俳優であることを究極的なまでにつき詰めたきわめて異色の作品だ。

エグゼクティブプロデューサーを務める人気グループ「DREAMS COME TRUE」の中村正人が「TRICK」シリーズ、「ケイゾク」、「池袋ウエストゲートパーク」などのドラマや『20世紀少年』シリーズなどの映画で知られる堤幸彦監督に映画制作をオファーし、プロジェクトが始動。「劇団マカリスター」を主宰する井上テテと堤監督が脚本を書き下ろし、劇中で俳優が演じる戯曲を劇団「□字ック(ロジック)」主宰の山田佳奈が手掛けた。音楽を担当するのは、中村正人と国際的なジャズピアニストの上原ひろみだ。

稽古場であり本番の舞台でもあるスタジオに集められたのは、4人の女優たち。二流に甘んじている役者、なかなか売れない役者、演技が絶望的にできない大根役者、言われるがまま演じる受け身なだけの演劇人生にいたたまれなくなった役者…。それぞれに虚勢を張ったり、緊張感を維持したりして平静を保っているが、実生活の俳優活動の中では切羽詰まった瀬戸際にいる。スマホや時計も取り上げられ、演じることだけに集中させられた彼女たちは、4つの役柄を順番に演じていく。当然、主人公格の役を誰もが演じたがるが、本番で誰がどの役を演じるかは決まっていない。

俳優としての実力不足で集中を乱されることに文句を言ったり、運営側との橋渡し役をしている俳優が4人の中にいることをなじったり、相手の経歴そのものを批判したり、先導役となる演出家がいない中、予測不能な演技が積み上げられていく。唯一の手掛かりは戯曲だが、そこにさえも謎が秘められ、虚実の見分けがつかない。不協和音が充満したまま、時間だけが過ぎていく。

やがて4人それぞれの、のっぴきならない事情が浮き彫りになり、俳優としてばかりか人間としての本質が暴かれていく。わずか30ページの台本だが、失敗したり詰まったりすると、次の俳優に交代して役がわり。4人の俳優としての人間関係や、役の組み合わせによって変わる関係性が絡み合い、画面に流れる濃密な時間がさらにかき乱される。

なかなか最後まで到達せずいらだちながらも真剣さが増し、やがてわき目もふらずのめり込むように。一種芝居の恍惚感の中で不思議な没入感も漂い始める。そして、4日目。本番の日を迎える…。

本作は内容だけにとどまらず、上映方法もユニークだ。渋谷CLUB QUATTROでデビューライブを果たし、渋谷公会堂(現:LINE CUBE SHIBUYA)、NHKホール、国立代々木競技場 第一体育館と、渋谷を拠点に大きくなっていった中村正人と、ボーカルの吉田美和から成る「DREAMS COME TRUE」が渋谷に新しい1ページを開こうと、「夢が始まる場所」というコンセプトのもと「渋谷 ドリカム シアター」を『Page30』の「メイン上映館」として4月11日から常時上映し、並行して全国の映画館でも上映する。

起用されたのは、デビューから3年後の2018年に濱口竜介監督の映画『寝ても覚めても』で鮮烈な映画初主演を果たし、最近もNetflixオリジナルシリーズ『極悪女王』で話題を呼んだ唐田えりか。加えて、『殺し屋1』で映画デビュー後、2013年には紀伊國屋演劇賞を受賞した林田麻里、映画『運命屋』(MS.Destiny)でニューヨーク・インディペンデント・シネマアワードの最優秀プロデューサー賞を受賞するなどプロデューサーとしても注目されている広山詞葉、人気グループ「HIGH and MIGHTY COLOR」の元メンバーで本格的に女優業もスタートさせたMAAKIII(マーキー)といういずれもクリエイティブなキャリアを持つ4人。

実際の性格と、演じている役のキャラクターが違うのは当然、さらに言えば俳優である前に人間として持っている性格も違って当たり前。それらが混然一体となって見るものに迫ってくる凄みがこの映画にはある。

堤幸彦、中村正人をはじめ、そうそうたるクリエイターたちのたくらみの中で、演者たちが個性的な才能をたぎらせる。そんなカオスな世界観をより弾けさせるのが上原のピアノで、時には切迫感、時にはドライブ感を演出して、映画を盛り上げている。

映画の行き着く先を予測するのは不可能だ。ただ映画という空間に「参加」するしかない。 もしかしたら、あなたの中にも変化が生まれるかもしれない。

『Page30』
4月11日(金)渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開

主演:唐田えりか 林田麻里 広山詞葉 MAAKIII
原案/監督:堤幸彦
音楽:上原ひろみ 中村正人 
エグゼクティブプロデューサー:中村正人
脚本:井上テテ 堤幸彦 劇中劇「under skin」
脚本:山田佳奈  
製作/配給:DCT entertainment,
映画公式HP:https://page30-film.jp/
映画公式X:https://x.com/page30_movie
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/page30_movie/
© DCTentertainment

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライターとして独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア戦略・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞、ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)テレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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