愛は疑惑を乗り越えられるか? 映画「スパイの妻」
スパイが登場する物語といえば、本人がスパイか、あるいは主人公がスパイと対峙するストーリーがほとんどだ。
しかし「スパイの妻」の主人公・聡子はただの奥様だし、その旦那である優作は貿易会社の社長である。
スパイじゃないじゃーん!! おしどり夫婦でほっこりするじゃーん!! いい夫婦の日が近いから(11月22日)その日に見ればよかったじゃーん!! ……と思っていたら段々不穏な空気が漂い始め、その緊張感にどっぷりハマって目が離せなくなるのが本作の魅力だ。
人物の思惑や物語の展開など、予想と期待を何度裏切られたか数えきれない。ドキドキするミステリー要素の合間に、ほっこりする夫婦の愛と絆のエピソード……終始「飴と鞭」状態である。
歴史もの+フィクション=ある種のファンタジーに近いはずだが、そう思えない世界観になっているのは黒沢清監督をはじめとするスタッフの努力と創意工夫が随所に散りばめられているからではないだろうか。
エレガントで女性らしい振る舞いをしつつも、ここぞという場面で芯の強さを見せる聡子を蒼井優、飄々として掴みどころがない優作を高橋一生、私情を忠義で隠そうとしているのが透けて見える若干面倒な軍人・津森を東出昌大が演じているが、キャスト本人のイメージと役がマッチしていて、各々が無理なく伸び伸びと演じているのが好感度高い。ナイスキャスティング。
個人的に、優作と共に行動してある種の犠牲となった文雄(坂東龍太)が終始気になった。脇役ではあるものの、出番が終わった後もずーっと気がかりな存在に。作中で唯一と言っていいほど素直ないい子なのに……報われてほしいなぁ……。
この作品、今年の6月にNHKでドラマとして制作された後に劇場公開されたそうだ。そして第77回ヴェネツィア国際映画祭に出品され、コンペティション部門銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞したとのこと。……えーっ!! ドラマ版見ればよかったー!! と後悔したが、映画館という広い空間と大迫力のスクリーンであの静かでゾワっとする世界を見るのは、テレビ版とまた違った味わいがあるだろう。テレビ版鑑賞済みの人も、そうでない人も一見の価値あり。
10月16日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー!
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『スパイの妻』 ストーリー
1940年。満州で偶然、恐ろしい国家機密を知ってしまった優作は、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとする。聡子は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも、その身が破滅することも厭わず、ただ愛する夫とともに生きることを心に誓う。太平洋戦争開戦間近の日本で、夫婦の運命は時代の荒波に飲まれていく……。
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蒼井優
高橋一生
坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理
東出昌大 笹野高史
監督:黒沢清
脚本:濱口竜介 野原位 黒沢清 音楽:長岡亮介
エグゼクティブプロデューサー:篠原圭 土橋圭介 澤田隆司 岡本英之 高田聡 久保田修
プロデューサー:山本晃久 アソシエイトプロデューサー:京田光広 山口永 ラインプロデューサー:山本礼二
技術:加藤貴成 撮影:佐々木達之介 照明:木村中哉 録音:吉野桂太
美術:安宅紀史 編集:李英美 スタイリスト:纐纈春樹 ヘアメイク:百瀬広美
VFXプロデューサー:浅野秀二 助監督:藤江儀全 制作担当:道上巧矢
制作著作:NHK, NHKエンタープライズ, Incline, C&Iエンタテインメント
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:ビターズ・エンド 配給協力:『スパイの妻』プロモーションパートナーズ
2020/日本/115分/1:1.85
HP:wos.bitters.co.jp
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