クリエイティブな発想でよみがえった名作、ミュージカル「ローマの休日」
22年前に日本の東宝が世界に先駆けて映画『ローマの休日』をミュージカル化した「ローマの休日」が、その誕生の地、日本で再び上演されている。ストレートプレイとしての舞台化や、宝塚歌劇でのオリジナル脚本による上演もあったが、今回は東宝版の復活であり、2000年以来の再々演。最先端と伝統的な手法を組み合わせた舞台表現や楽曲のブラッシュアップ、アン王女役にふさわしい気品と茶目っ気を併せ持った女優の出現と、さまざまな要素を時間をかけて磨いたクリエイティブチームの努力が20年ぶりに名作ミュージカルを蘇らせた。
映画『ローマの休日』は1953年公開の米映画。ヒロインに起用されたほぼ新人のオードリー・ヘプバーンが大スターへの道を歩み出すきっかけになった作品だ。古い歴史を持つ王室の王女が欧州歴訪中にローマで街に抜け出し、たまたま知り合った新聞記者と繰り広げるラブストーリーである。イタリアのオートバイ「ベスパ」に二人乗りして街を疾走するシーンや、真実の口に手を突っ込みひと芝居打つシーンなど名シーンが盛りだくさん。舞台ならでの方法でそれらは再現された。ベスパのシーンでは、台形状の富士山のようなセットの頂点に2人が乗ったバイクを置き、セットの前面に路面の動画をプロジェクション・マッピングのように映し出す映像処理で、疾走感を演出。真実の口のシーンでは照明を落として、実際の現地のほの暗さを再現。おふざけをしながらも2人の気持ちが近づいていくシーンをロマンチックな影の中に切り取った。
キャスティングも魅力的。Wキャストのアン王女は、宝塚歌劇団退団後もその太陽のような魅力で作品が途切れない朝夏まなとと、はじけるような笑顔でたくさんの人を元気にしてきた土屋太鳳のWキャスト。それでいて、どちらも国を代表する王室の主要メンバーとしてふるまえるアン王女の芯の強さとプライドをも表現できる実力の持ち主だ。
さらには、かつてチャラ男で名を馳せたオリジナルラジオの藤森慎吾が素晴らしい。映画やドラマでの演技の評価も高いが、舞台では芸人らしい笑いの取り方のうまさと高い身体能力が注目された。役柄の持つ生き方のしたたかさや人としての地の良さまでが表現されていて、観客を惹き付けてやまなかった。「エリザベート」に適役があるのだが、関係者の方々はもう気付いているだろうか。
ミュージカル「ローマの休日」は12月19~25日に名古屋市の御園座で、2021年1月1~12日に福岡市の博多座で上演される。それに先立って10月4~28日に東京・丸の内の帝国劇場で開かれた東京公演はすべて終了しています。