エンタメの可能性信じて、担い手たちは毎日が闘いの連続
劇場が閉鎖されているブロードウェイに比べれば、日本は大劇場から小劇場まで多くの演劇が上演されており、恵まれている方だ。しかし感染者数が思うように減らない現状や緊急事態宣言の再発出などの状況下では、誰もが右往左往。政府の迷走ぶりやエンターテインメント産業への世間の無理解もあって、大手興行主から個人の演劇人まで、経験したことのない苦労を強いられている。
あるミュージカルは、上演予定期間の大部分を中止にし、残りをコンサート形式で上演することを決定。またあるミュージカルはセットや出演者を減らす決断も下した。製作発表会場に入るメディアを最小限に絞り、他のメディアには配信によるリモート取材をお願いする苦肉の策をとる例も。
小劇場は収容人数の50%という観客ではそもそも採算がとれない。それでもあえて演劇人としての気概で公演を打っても、劇場側が閉鎖を決めれば上演は不可能だ。感染対策の徹底は大前提だが、消毒液の大量確保も大きな負担になる。
自治体が飲食店に営業自粛を求めた午後8時という時間も演劇には何とも悩ましい。たいていの演劇の夜公演は午後6時半から9時半の間に上演される。午後8時に終わらせるためには6時より前に開演する必要があるが、それでは5時過ぎに仕事や自宅などでのテレワークを終える会社勤めの観客は間に合わない。既に販売が済んでいる席数が50%を超えていれば当日券を販売することができず、いくら評判を呼んでも観客は50%以上には増えないのだ。
出演者らに複数の陽性判明者を出した話題のミュージカルは初日を遅らせたものの、自宅療養期間を終えた出演者が復帰し無事開幕。しかしその直前、復帰した出演者の一人にコロナとは別の既存の感染症が判明して、急きょ別のメンバーが代役に立ち、いきなり正念場を迎えた。まさに毎日が闘いの連続で、一時も気が抜けない。幸い実力派として知られるこの代役の演技が素晴らしく、出演者の結束力も高まっていたため、舞台の出来栄えは見事なものだった。カーテンコールで観客が関係者の努力に大きな拍手を贈っていたのが印象的だった。
「エンタメはしょせん娯楽。不要不急だ」。演劇人の目には日々そんなネット上の書き込みが飛び込んでくる。国の助成や支援も欧米とはけた違いに小規模で消極的であることは世界的にも有名な日本。文化行政の抜本的な改革が急務だが、エンタメの担い手たちは決して歩みを止めない。出口が見えない中、演劇や映画、音楽などのエンタメが人々に「人生を左右する感動」を与えられる可能性を信じて、できる限りの努力を続けている。