温めてくれるニール・サイモンの魔法、相次ぐ上演に心ほっこりと

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 「ローズのジレンマ」「23階の笑い」と、最近、相次いでニール・サイモンの舞台を観る機会があった。人間の心の機微に富んだ会話と男女の織りなすハートウォーミングなストーリーテリングは世界中の人から愛され、今も地球のどこかで演じ続けられているサイモンの戯曲。この2作品もまた、人々の心をほっこりと温め、こんな人生も悪くないなと思わせてくれる、そんなサイモンの魔法を感じさせてくれた。(写真は舞台「ローズのジレンマ」の一場面。左から大地真央、村井良大、神田沙也加、別所哲也=写真提供・東宝演劇部)

 サイモンはニューヨーク・ブロンクス生まれ。ニューヨークやデンバーの大学を出た後、1961年に劇作家デビュー。4年後の1965年には後に代表作となる「おかしな二人」(第19回トニー賞劇作家賞)を早くも生み出し、1968年には映画化もされた。1970年代には「サンシャイン・ボーイズ」、1980年代には「ビロキシー・ブルース」(第39回トニー賞作品賞)、1990年代には「ヨンカース物語」(第45回トニー賞作品賞)といった傑作戯曲を連発した。有名な映画『グッバイガール』は第35回ゴールデン・グローブ賞脚本賞を受賞している。

 「23階の笑い」はサイモンがコメディ作家として下積みをしていた時代を投影した半自伝的な作品で、高層ビルに事務所を置くコメディアンと笑いを生み出す作家たちとの人間模様を描いた。三谷幸喜が演出したこともあって、笑いを生み出す現場の泣き笑いが強調され、思わず「笑いとは何か」と哲学的な思考にひたってしまうことも。そしてこれだけ笑いの探究者が集まればやはりその日々は喜劇的な要素が満載されているのだと妙に納得。松岡茉優、吉原光夫、瀬戸康史、山崎一、小手伸也らの豪華共演による丁々発止のやり取りに見応えがあった。

 「ローズのジレンマ」は、サイモン最後の戯曲で、夏場に過ごす邸宅を舞台にした作品。最愛の恋人、ウォルシュ(別所哲也)を亡くした人気作家のローズ(大地真央)。ショックのためかスランプに陥り、部屋を花だらけにするなど浪費が治らず、助手のアーリーン(神田沙也加)はウォルシュの未完小説を若手の作家に完成させ、印税を稼ぐことを提案する。
 実はローズは毎日現れるウォルシュの亡霊とおしゃべりをし、思い出話ばかりしていた。そんなときの彼女は幸せそうだが、危なっかしい。やがて現れた売れない作家のクランシー(村田良大)がローズやアーリーンをかき乱し始める。
 とにかくお洒落で、この世のお話とは思えないうわずった設定なのに妙に現実的で、作家の頭の中をのぞいているようでもある。男女が交わす感情の細やかな表現があちこちに。もしかしたらサイモンが最後にたどり着いたクリエイティブの極致だったのかもしれない。とにかく最初から最後まで、小山ゆうなの粋な演出が冴えた作品だった。

 「23階の笑い」の公演はすべて終了。「ローズのジレンマ」は2月6~25日に東京・日比谷のシアタークリエで、2月27日~3月1日に大阪市の新歌舞伎座で、3月3日に愛知県刈谷市の刈谷市総合文化センターで上演される。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。円満退社後の2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。パンフ編集やイベント司会、作品審査も手掛け、一般企業のリリース執筆や顧客インタビュー、広報・文章コンサルティングも。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。準備が整い次第YouTubeにも進出します。活動拠点は渋谷・道玄坂。Facebookページはフォロワー1万人強。ほぼ毎日更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/ )。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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