1996年の名作が今にじんじん響く、「マシーン日記」装い新たに再演
まるでカーンとゴングが鳴ったかのようだった。それも渋谷の真ん中で。シアターコクーン(京都にも巡演予定)で上演されている舞台「マシーン日記」は、虐げられている者と支配している者、鎖につながれている者、不自由な翼持ちなのに飛翔しまくっている者が展開する愛憎渦巻く言葉と身体表現の格闘技。1990年代に産み出された小劇場界の名作が、2021年という「今」にじんじんと響いている。(写真は舞台「マシーン日記」とは関係ありません。イメージです)
舞台「マシーン日記」は現在シアターコクーンの芸術監督を務める松尾スズキが、当時のプロデュース団体からの依頼を受けて書き下ろした戯曲で、1996年に初演。3回の再演とパリ公演で絶賛を浴びたことはよく知られている。しかし今回がこれまでと違うのは、演出を手掛けるのが松尾から指名を受けた「モテキ」「共演NG」などのドラマで知られる映像ディレクターの大根仁であることだ。松尾の過去戯曲を気鋭のクリエイターに演出してもらうという企画の一環だが、松尾、大根という組み合わせはぞくぞくするほどデンジャラスで魅惑的な香りに満ちている。
しかも舞台上に登場するのは、関ジャニ∞のメンバーとしてクールな魅力で知られる横山裕、アイドルチックな魅力に大人の個性を備えつつある森川葵。そこに演劇界の鬼才として知られる大倉孝二と、変幻自在の演技で巨匠たちを唸らせてきた秋山菜津子が加わるのだから、あまりにも贅沢すぎるキャスティングだ。
舞台は終始、ある町工場の敷地内にあるプレハブ小屋。いきなり主人公が鎖につながれている状況に、心はざらざら。やがてその状況に暴力や共依存、虐待などの社会問題が紐づいていると分かって、もはや狭い空間の話ではなくなってくる。
性的にあけすけなせりふや、セックスを感じさせる描写(わいせつなものではない)もあるが、不快になるようなものではなく、むしろ物語の熱量を上げる方向に作用。互いの人生をぶつけ合いながら愛憎のテンションを上げていく表現形式はまさしく格闘技。ほとんど出ずっぱりなのに冷静さと高揚のバランスが崩れない横山をはじめとして、すべてをさらけ出すような演技を達成した森川や、初めての松尾作品で躍動した大倉、どんな状況に置かれても期待をはるかに超えていく秋山と、マックスレベルの演技の衝突を見られたことはキャストにも観客にも収穫の多い舞台だった。それらの演技をまとめたというような安易なレベルではなく、細胞レベルで融合させた大根の才能にもしびれた。
舞台「マシーン日記」は2月6~27日(当初の初日は2月3日だったが延期された)に東京・渋谷のシアターコクーンで、3月5~15日に京都市のロームシアター京都メインホールで上演される。