そして何より女は決断する、高畑充希がミュージカル「ウェイトレス」で躍動
自分勝手な夫からの束縛やDVまがいの強引な圧迫感、ちょっとしたきっかけで火がついてしまった不倫の恋。ままならない現実の中にどっぷりと浸かっている彼女の人生を切り拓くかもしれないのは、ほかでもない、世界で一番美味しいパイを焼ける自分の腕前だ。そして何より、女は決断する、男たちが想像もできないような深い、深いところで…。高畑充希が主演するミュージカル「ウェイトレス」は決して甘くない人生の切り拓き方を、米国南部のダイナーで働くウェイトレスたちの悲喜こもごもの日々を通して描き出すハートフルコメディー。日本初演の主役を担った高畑充希の極上の歌声と、遊び心満載の演出で、忘れられない余韻を残す作品になった。(写真はミュージカル「ウェイトレス」の一場面。左からLiLiCo、高畑充希、宮澤エマ=写真提供・東宝演劇部)
ミュージカル「ウェイトレス」は、米映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』をベースに、2016年に米ブロードウェイで初演されて大成功を収めた。全米ツアー公演、ロンドン・ウェストエンド公演でも好評で主要クリエイターをすべて女性が占めるという快挙も達成した。
女性を応援する要素がいっぱい詰まったミュージカルなのだが、男性が決して覗き見てはいけないようなドキドキするような世界が展開する。何しろ女性たちの本音から、男性の前では決してしないであろう、あけすけな性生活の会話なども。高畑は「決してお花畑な内容ではないので、ちっちゃい子連れはおすすめしない」と会見では苦笑していたが、男性たちの先入観や偏見で縛られがちな女性たちの実態がそれだけ反映されているということだろう。
ドタバタの要素が強い前半と比べ、後半は高畑が演じるジェナが自立心に目覚め、新しい世界へと飛び立つ勇気を徐々に充填させていく場面の連続で、観客たちを大いにかき立てる。その武器になっているのが、高畑の歌唱力だ。
もともと「ピーターパン」で本格デビューを飾った高畑なので、その歌声や舞台度胸には定評があったが、映画やドラマなど映像界での経験も積み重ねて、あらためて舞台という場所、ミュージカルという世界に高畑が絶対に必要な存在なのだということを強く印象付けた作品になった。
ジェナが不倫の恋に迷い、人生の本当の意味を見つけていく過程で抱く葛藤や苦悩、そして自分で人生を切り拓いていくエネルギーをみなぎらせていく、そうした心情を歌声で表現する高畑には圧倒的に魅了される。
伸びやかでつややかな歌声だけではない。感情のバイブレーションを反映するような歌唱による表現の細やかさと多彩さ。高畑がここ数年、さらなる進化を遂げていることが明らかに私たちに伝わってくるのだ。
話題作への起用が続く宮澤エマや、初ミュージカル出演となった映画ナビゲーターのLiLiCoの奮闘ぶりも手伝って、小気味のいい作品に仕上がっている。
ミュージカル「ウェイトレス」は3月9日~30日に東京・日比谷の日生劇場で、4月4~11日に福岡市の博多座で、4月15~19日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、4月29日~5月2日に名古屋市の御園座で上演される。