ソコカラナニガミエル
ずっとほしかった「鉄コン筋クリート All in One」を、ついに買ってしまった。
「鉄コン筋クリート」は松本大洋さんの漫画で、2006年にアニメ映画化された作品だ。
そして私にとっては大好きな映画の原作本という認識で、この漫画を手に入れた。
ただ、映画公開時は嵐だったニノや蒼井優ちゃんなど、豪華俳優陣が声優をつとめたこともあって話題になっており、興味は沸いたが映画館まで観に行こうとは思えず…
なぜなら、主役の子どもたちがかわいくないのだ。松本大洋さんの絵も、実はあまり好みではなかった。子どもというより「ガキ」という方が似合うその絵が。
しかし、10年ほど前にたまたま映画版「鉄コン筋クリート」を観て、食わず嫌いにも似たその感情が180度覆された。
物語の舞台となる架空の街・宝町の、雑然としてエキゾチックでどこか懐かしい風景。退廃的なのに美しい。子どもの頃夕暮れまで遊んで、家の前まで帰ってくると温かい匂いがしていて、そんな思い出を揺さぶるような街の雰囲気に1秒ごとに呑まれた。
あらすじは簡単に言うと「地上げ屋とヤクザと不良少年の抗争」。内容はそこそこバイオレンスです。
ストーリーの根本はめちゃめちゃ人間的で、ぶっ飛んでいるようで現実的。
暴力、報復、恐怖、葛藤、逃避、混沌。
それでも、登場人物は全員、みな共通して一生懸命に生きている。
そして、最終的に軸になるのは、主人公で宝町を根城に親もなく生きるクロとシロの、血じゃなくもっと透明で深いところで強くつながる絆だ。
クロは強くて暴力的で、自由なようで常に何かを背負って生きている。シロは心底純粋で善悪も判らず、それが怖いほど無垢。
シロのかわいさもこの作品の魅力だ。(子どもがかわいくないとか言ったくせに)
日課の「もちもーち。こちら地球星日本国、シロ隊員。この星はとても平和です」とつながっていない電話に通信しちゃうとこも、両手にたくさんつけた腕時計も、こだわりの変な帽子も、シロのエキセントリック少年ボウイなかわいさを引き立てている。
シロが作品のクライマックスでこう言う。
「クロにないネジ、シロがもってる!シロがみーんな持ってる!」
人は人にしか救えないことがある。一人では完成系になれないこともある。
自分も、大切な誰かも、そしてきっとあなたも、一人では生きられないはずだ。
拒絶しても、孤独に逃げても、闇ばかりみても、一人では足りないネジは補填できないし、進めない。
つながりってあまり広くすると面倒だしやっかいなものでもあるけど、両手に収まる範囲、家族や大事な友だちの足りないネジはしっかり抱えて生きていきたいなぁ。
「鉄コン筋クリート」は、そんなことを考えさせてくれる作品だ。