才能の化身「アマデ」が象徴する天才の内側、ミュージカル「モーツァルト!」
モーツァルトの頭の中には神童と呼ばれた幼少時代の「アマデ」が居て、才能が枯渇しつつあった青年期以降のモーツァルトを陰に陽に助けていた…。そんな大胆な仮説を基に天才の心の内側と才能のありかに迫ったミュージカル「モーツァルト!」が再演されている。権力者やパトロンに芸術の囲われ者として支援されることでしか活躍できなかった当時の作曲家の自由への飛翔の思いをめぐる青春の屈折と、才能と肉体の愛憎という哲学的な構図まで見せて、クリエイティブな感性を炸裂させている。(写真はミュージカル「モーツァルト!」の一場面。左が山崎育三郎=写真提供・東宝演劇部)
ミュージカル「モーツァルト!」は、ミュージカル「エリザベート」で知られる脚本・作詞のミヒャエル・クンツェ、作・編曲のシルヴェスター・リーヴァイの黄金コンビが共同で生み出し、1999年に初演した「ウィーン発ミュージカル」。日本では2002年に初演され、2007年までは井上芳雄・中川晃教がWキャストで主人公ヴォルフガング(モーツァルト)を演じてきたが、現在では山崎育三郎と古川雄大という昨年のNHK連続テレビ小説「エール」への出演で話題を呼んだコンビだ。
「フィガロの結婚」や「ドン・ジョヴァンニ」「魔笛」など不朽の名作を発表したモーツァルトの父親との確執、地元領主の大司教との対立、妻との分かり合えない日々などに焦点を当てている。
中でも観客の関心を刺激するのは内なる「アマデ」との関係だ。
作曲とピアノ(チェンバロ)演奏の才能に秀でて神童と呼ばれていた子どものころ、「女帝」マリア・テレジアからもらった貴族風の衣裳を着て、羽根ペンをせわしなく動かして作曲にいそしむアマデに対して、遊び好きで自堕落な青年モーツァルト(劇中ではヴォルフガング)はなかなか大成できないでいる。
そんなモーツァルトに半ば呆れながらも、時には励まし、時には怒り、モーツァルトを作曲に駆り立てるアマデ。モーツァルトはその存在から目をそらすことも多いし、才能を利用したいと考える時は露骨にすり寄る。
映画など映像なら合成で表現できるが、そんな小細工ができないのが演劇の難しさと面白さ。アマデのことを「頭の中の…」と劇中でモーツァルトが話していることから実体がないものとして描かれていることは間違いないが、子役が演じるアマデは舞台上に実在するし、観客はモーツァルトの物語と同時にそれを目撃する。
演劇でしかなし得ないそんな表現によって、観客はこの物語が魂レベルの物語であることを理解するのだ。
子役はせりふを封じられ、不満そうな顔でモーツァルトを見たり、羽根ペンを動かすスピードなどによっていら立ちを表したりしていく繊細な演技を求められる。終演後のカーテンコールで、モーツァルト役の山崎や古川が子役を称えるのは、こうした「貢献度の高さ」があるからだ。
ちなみに、今回の公演でアマデを演じているのは、設楽乃愛、鶴岡蘭楠、深町ようこの小学生3人。深町は初ミュージカルだが、設楽、鶴岡は豊富な経験を持つ。演技力、あるいはそれを超える表現力がないとできない役だ。
ピアノをモチーフにした大きなメインのセットや上下関係・力関係を鮮烈に表す高低差を利用した舞台装置も含めて、全編に創意工夫が見えるミュージカル。オリジナルを生み出したクンツェ&リーヴァイと演出の小池修一郎の才気が光る日本版「モーツァルト!」は今回も刺激に満ちていた、
ミュージカル「モーツァルト!」は4月8日~5月6日に東京・丸の内の帝国劇場で、5月14~17日に札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruで、5月25日~6月7日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。