「時間」が演劇に与える豊かな奥行き、「17 AGAIN」など同時期上演のミュージカル2つ
現実の世界で取り戻せないのは「時間」だ。過去に戻ることは、現代の科学技術ではできないし、時の経つのを遅らせたり止めたりするのは絶対に不可能。しかし、時間というもの、あらゆる自由な表現が可能な演劇の世界では、その扱い方によっては、強力な武器になる。たまたま同じ週に観た2つの演劇が、共にこの時間という概念を巧みに使った作品であり、そのことが物語に豊かな奥行きを与えていたことに気付かされた。(写真はミュージカル「17 AGAIN」とも「メリリー・ウィー・ロール・アロング」とも関係ありません。イメージです)
ひとつはテレビや映画で活躍する竹内涼真の初舞台として注目されているミュージカル「17 AGAIN」。高校バスケのスター選手だった17歳の主人公が、彼女の妊娠を知って大事な試合を放棄してまで病院に行ったことでスカウトされる機会を逃し、彼女とは結婚したものの、35歳の今はただの中年太りのおじさんになっているという前提がまず強烈に示される。
タイムマシンに乗ってもう一度その時にと思ったわけではないのだが、離婚を視野に入れた別居中にある不思議な現象によって17歳の時の自分に戻った主人公は、子どもたちの友達として家族に接近し、母校にも入学する。
いじめられがちな息子にはポジティブに生きる気構えを教え、反抗期の娘には今の彼氏の性悪さを訴える。もちろん元スター選手だけにバスケの腕はピカイチ。人気の転校生になる。
もうひとつはミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング」。かつて強い友情で結ばれた仲間だった3人の男女が、人生を経るうちに変転し、その関係性を屈折させていく物語。平方元基、ウエンツ瑛士、笹本玲奈のトリプル主演作品である。
なぜ時間と関係があるのかというと、このミュージカルは時間を逆行して演じられていくからだ。つまりどんどん過去にさかのぼりながら、物語が進んでいく。最初のシーンで何か深刻な関係になっていたことの秘密が次のシーン(つまり少し前の過去のシーン)で明かされていく仕掛けだ。それがどんどん続いていき、やがては3人が出会ったころに。
ここでは時間は絶対的なもので、「17 AGAIN」のようなマジックは使えない。ただ厳しい現実が過去へと向かってどんどん開かれていく。
前半のシーンでもやもやしていたものが、どんどん明らかになっていく。これが3人の関係性の崩壊の原因かもしれないと感じたことが過去のシーンで実証されたり、少し違った視点で描かれていたり、いずれにせよ、過去に戻るもどかしさはなく、むしろ明快に疑問が解き明かされていく。
「17 AGAIN」にしても、「17歳のころの自分をもう一度やり直す」というよくあるタイムリープものの王道のような物語ではなく、過去の自分の姿を借りて現在の家族の再生に挑むという実に現代的な物語構成になっているところがみそだ。
かつてテレビドラマ「テセウスの船」で父親の無罪を証明するために過去に戻った青年を演じた竹内と、考古学好きの女子大生キャロルが行きついてしまった古代エジプトでキャロルにほれ込んでしまうヒッタイト国の王子をミュージカル「王家の紋章」で演じてきた平方と、タイムリープにゆかりのある2人が主演を務める2つのミュージカルが同じ時期に再び「時間」の物語に挑んだことも興味深い。
「17 AGAIN」は6月6日まで東京・池袋の東京建物Brillia Hallで上演される。兵庫・西宮、佐賀・鳥栖、広島、名古屋公演もあり。
「メリリー・ウィー・ロール・アロング」は5月31日まで東京・初台の新国立劇場中劇場で上演される。名古屋、大阪公演もあり。