中村佑介展in金沢21世紀美術館 沈黙という名のコミュニケーション
先月になるが、金沢21世紀美術館で開催された「中村佑介展」に行ってきた。
イラストレーター・中村佑介さんといえば、やはりわたしは好きなバンドのジャケットが思い浮かぶ。
オリジナルグッズ(アマビエ様とえらい子ちゃんのマスクケース)付きの入場券を購入して会場に入ると、早速ASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲が聞こえてきた。
展示はアジカンのCDジャケットのアートワークから始まり、わたしはマスクがあってよかったと心から思う。ニヤニヤが止まらない。
中村佑介さんを「アジカンのジャケットでおなじみの人」という入りで知ったわたしだが、その他の作品を知れば知るほど無二のイラストレーターさんだなぁと思う。
中村さんのイラストに、わたしは2つの魅力を感じている。
1つは「ウォーリーを探せ!的な魅力」。小さな物語が点在して大きなひとつの作品になっている感覚だ。
CDジャケットや書籍のカバー絵はまさにアーティストや登場人物、作品に登場するアイテムなどが散りばめられていてわかりやすいが、一見関係のないようなひねりのあるイラストにもどんな意味やつながりがあるのか考えると面白い。
もう1つは、「2つの視点」。象徴的なイラストを、展示会でも見つけた。
カメラを向けられた女の子と、きっと女の子から見たカメラ。
相互関係が1枚の絵の中に閉じ込められていて、奥行きがある。
絵という平面ではない、紙という枠を飛び出したその先が見えるイラストが中村さんの持ち味ではないかと思う。
展示では今年で19年目を迎える中村さんの「ほぼ全ての作品」を紹介しており、あわせて「製作工程」や「作品の謎」ともいえる部分が知れるのも非常に興味深い。
中村さんの作品で描かれる「横顔はなぜ左を向いているのか」、「女の子の顔はなぜ白い(着色していない」のか」。
作品単体だけでは計り知れない作り手の思いや頭の中を知ることができるのも、わたしは展示会の面白さだと思う。
また、高校生向けの音楽の教科書に中村さんのイラストが使われていると知ったのも驚きだった。なんだかオシャレでいいなぁ、高校生。
石田衣良先生の小説カバー画。
そして、こ、これは!エヴァのプラグスーツ?!
わたしの中で永遠の幼さの象徴であるキキとララも、中村さんの手にかかれば少し大人びたこの横顔である。
サンリオな色使いを残しつつ、しっかり中村ワールドのキキララがたまらない。
最後になるが、展示会の入口近くにあった中村さんのあいさつ文が心に残る。
「“描く”というのは、誰とも会わずにひとり紙を通し、まだ見ぬ人へ想いを投げかける行為です。
ここにはそんな18年分の膨大な時間と問いがあります。
また“観る”というのは、それらをどう思うか、どんな答えを返すのかという行為です。その往復によって絵はようやく完成します。
つまり、こんな状況下で自粛を余儀なくされている“しゃべる”“動く”“集まる”をもともと必要としないめずらしいコミュニケーション。
展覧会を通し、“沈黙”を大いに活用して頂ければ幸いです。」
圧倒的な作品数と非常に有意義なコミュニケーションを交わし、大満足の展示会だった。