“抜きの美学”を取り入れた作品を生み出す、世界的なパティシエ

広島
コピーライター、エディター
Kyoko Kittaka
橘髙 京子
数年前、世界的に有名なパティシエにインタビューをする機会があった。彼はショコラティエとしても有名で、フランスのショコラ品評会で最高位を獲得したこともある、スゴイ人だ。取材ができることが決まった日から「あの、有名人とお話ができる絶好のチャンスをもらった!」と、ワクワクしていた。
 
そして、いよいよ取材当日。イベント会場で彼の姿を見かけた途端、急に緊張感が襲ってきた。しかし、その緊張感は、彼と話しているうちに自然とほぐれていった。穏やかで優しい口調は、テレビ番組でコメントしている時と同じ! 私の質問にも、ゆっくりと相槌を打ちながら丁寧に答えてくださり、大変嬉しかったことを今も鮮明に覚えている。そして、さらに私の心を解きほぐしたのが、彼が日本の伝統文化や芸術、四季をとても大切にしているということだった。私自身も芸術鑑賞や自然観察が好きなので、共感する部分がとても多く「こんなに楽しい取材は初めてかも!」と思ったほど、感動で胸がいっぱいになった。
 
たくさんのことを話してくださった彼の言葉の中で、特に印象に残っているのが“抜きの美学”。この“抜き”という言葉は書道や日本画でいう“余白”のことだが、これは日本人特有の美意識だそう。「僕は千住博さんの作品『ウォーターフォール』の画面の余白に日本人の精神性を感じる。そういった“抜きの美学”を取り入れて“すべてではなく一部だけを飾る”お菓子づくりを心掛けている」とのこと。私自身、幼少時代から書道を学んでおり、師事する書家から“余白”の大切さを何度も聞かされていたので、彼の話にどんどん引き込まれていった。そして、もう一つ印象に残っていることは、彼は自分が創作するお菓子のことを「僕の作品は~」と、おっしゃっていたことだ。そのせいか、パティシエというよりもアーティストと会話をしているような気持ちになった。取材後、改めて彼の店のホームページなどで作品を拝見したが、洋菓子でありながら「和」の要素を感じさせるものが多く見受けられた。
 
この記事を書きながら「またお会いして、お話を聞きたいなあ」という気持ちが沸き上がって来た。もし東京に行く機会があるなら、必ずお店に立ち寄りたい。そして、願わくば、お菓子作りをしている様子をライブで観てみたい! 地方ではなかなか出合えない彼の作品の数々を、五感で存分に楽しんでみたいものだ。
プロフィール
コピーライター、エディター
橘髙 京子
大学卒業後、広告代理店のコピーライターや出版社の編集者・ライターとして勤務。現在は映像業界のプロデューサー、フリーライターとして活動中。

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