ミュージカルには難しそうな要素磨き上げ成功、「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 殺人、痛み、血の匂い…。普通ならどんなファンタジックな外皮にくるんでも、映画やミュージカルになるのは難しそうな要素の一つ一つを哲学的なレベルにまで磨き上げて、人間の欲望や人間性の真実に肉薄した作品に仕上げているのが「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」。オリジナル映画、ミュージカル、リメイク映画と世界の人々を熱狂させてきたこの究極のコンテンツのうち、最も話題性のあるミュージカルがいま東京で上演されている。(写真はミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」の一場面、上は左から妃海風、三浦宏規、石井一孝、下は左から井上小百合、鈴木拡樹、いずれも写真提供・東宝演劇部)

 もともとは米国で1960年に公開されたB級ホラー映画が元ネタ。日本では未公開ということでも分かるようにヒットと言えるほどの反響があったわけではない作品だが、「B級(および低予算)映画の帝王」と呼ばれるロジャー・コーマン監督のもと、若き日(23歳!)のジャック・ニコルソンがサドの歯医者にいじめられるマゾの患者として出演するなど、映画マニアにはたまらない作品だった。

 物語の発想の面白さに注目した舞台関係者が1982年にミュージカル化したところ、これが大ヒット。なにしろ後に「美女と野獣」「アラジン」「リトル・マーメイド」「ニュージーズ」「ノートルダムの鐘」などの映画やミュージカルで名曲や大ヒット作を量産することになるアラン・メンケンが作曲を担当する未来の天才による出世作であり、おどろおどろしいストーリーにポップな色彩と躍動感を付け加えたことで、二つの要素が激しくスパークして、新たな魅力が生み出された結果としての成功だろう。

 1983年にはロンドンのウエストエンドで話題となり。2003年にはブロードウェイ公演も成功させた。日本でも1984年以降頻繁に上演されるように。時代ごとの若いスターたちの登竜門的作品になった。

 今回の作品では、2019年にミュージカル「レ・ミゼラブル」で主要キャストのマリウス役に抜擢されて以降注目度が高まった三浦宏規と、舞台「刀剣乱舞」で主演するなど進境著しい鈴木拡樹が主人公のシーモア役。昨年2020年に上演されながら、新型コロナウイルスの感染拡大のために途中で中止になったくやしさを、1年後に実現した再演で晴らすかのような弾けた演技が惹き付けた。

 

 物語はシーモアが市場で見つけてきた植物がある究極の肥料によって大きく育っていくことでさまざまな人々を巻き込まざるを得なくなる展開。その肥料が人間の生き死にに直結しているだけに、恐ろしい事態が待っている。

 ただ、その恐怖だけで引っ張っていくわけではなく、植物に置き換えているとはいえ、「欲望」というものがどこまでも果てしなく、人間もまた「人生の成功」や「恋愛の願望実現」などがちらつくと一線を超えてしまう生き物だということが分かる。

 物語に大きく絡んでくる歯医者は人に痛みを与えることに喜びを感じる類の人間。痛みとは何か、痛みから何が生まれるか。かなりマッドな設定でキャラクター付けされているとはいえ、哲学者や研究者並みの深い考察が施されている。

 巻き込まれ型の主人公と無邪気で天然なヒロイン。現実主義者の店長に暴力的な歯医者。そして町の不良少女が三人娘として歌い踊ることでミュージカルの屋台骨をしっかりと支えている。

 芸達者たちがしっかりと自分の役割を務めあげているからこその完成度だろう。さらなる再演にも期待したい。

 

 ミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」は8月26日~9月11日に東京・日比谷のシアタークリエで上演される。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者として従事した30年のうち20年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。円満退社後の2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。パンフ編集やイベント司会、作品審査も手掛け、一般企業のリリース執筆や顧客インタビュー、広報アドバイスや公式サイトの文章コンサルティングも。全国の新聞で展開予定の最新流行を追う記事や音声YouTubeも準備中。活動拠点は渋谷・道玄坂。Facebookページはフォロワー1万人。ほぼ毎日更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/ )。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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