「ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ:どこにもない場所のこと」 世界の終わりにアーティストには何ができるか
金沢21世紀美術館で現在、韓国人アーティストデュオの国内初となる大規模個展「ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ:どこにもない場所のこと」が開催中だ。
ムン・キョンウォンさんとチョン・ジュンホさんは共同プロジェクトとして立ち上げた「News from Nowhere」を中心に、世界各国で個展や展示を行ってきた。
石川県内では金沢21世紀美術館主催の企画展や、2018年から金沢港に近い金石地区でのアートプロジェクト、2021年の「奥能登国際芸術祭2020+」などに参加している。
今回の個展では、代表作である「世界の終わり」、金石での撮影シーンも含む「Silent Planet」、韓国と北朝鮮の間に実在する地図にない村を描く「News from Nowhere : Freedom Village」などの映像インスタレーション作品を展開。
北朝鮮が外貨を稼ぐために運営するという飲食店で夢を語る若者を取り上げた作品などを通し、分断国家に生まれ育った彼らならではの感覚で矛盾や脅威、抑圧、自由や違和感に疑問を投げかける。
金沢21世紀美術館での展示が初公開となる新作「News from Nowhere: Eclipse」では、大海原にたった一人救命ボートでさ迷う男が描かれ、フィクションと仮想を行き来する人間の葛藤や強い意志を表現した。
プレスガイダンスでインタビューに答えたムン・キョンウォンさんとチョン・ジュンホさんは展示作を振り返り、「News from Nowhere : Freedom Village」で取り上げた非武装地帯の村について「初めて耳にしたときはそんな場所は都市伝説だと思った。Googleマップにも載っていないが、間違いなく実在しており、夜になると兵士が村人を点呼して数えるような場所。特別な場所のように感じるが、実はこのような地域は世界中にあるのではないか」と話す。
また、「世界の終わり」の前後を対比として描く同作品について、「世界の終末の瞬間とその後世界が動き出してから、アーティストには何ができるのかを考えていた」という。
コロナ禍や戦争など「世界の終わりへの緊張感が高まっている時代」に感じることを問われると、「アーティストとしての在り様が見えない時期が自分たちにもあった」と答え、「展示を多くの人に見てもらえることに喜びを感じる。作品は今の自分を鏡のように映し出し、反映していく存在。観る人とともに体験してさまざまな問題について語っていきたい」と話した。
震災や疫病で世界が混乱の真っ只中にいるとき、自分たちが信じてきたもの、手にしているもので何ができるのか。
ムン・キョンウォンさんとチョン・ジュンホさんの展示を通じて、私たちも考えさせられるものがある。
たとえば、絵画、音楽、映像、工芸、文学などといったものは衣食住に直接関係していないけれど、人間が生きていくうえでは絶対的に必要なものだと私は信じている。
荒れ行く大海原を、自分が大切にしたいもの、守り続けていたいものを抱きしめながら進み続ける人間でありたい。