納得と驚きが交互に、わくわくさせる劇団四季ミュージカル「バケモノの子」
師匠が弟子に秘儀を伝授する「師弟もの」や闘いに挑む「格闘技もの」、まったく別のものに生まれ変わる「転生もの」、さらには若者たちの淡い「恋愛もの」の要素も持っている細田守監督の長編アニメーション映画『バケモノの子』がミュージカル化された。もっと言えばパラレルワールドやダークファンタジーの要素さえ加味されているこの傑作アニメは舞台化によってそのそれぞれの要素を少しも損なうことなく一層際立たせ、壮大な世界観が出現。しかも数々のディズニーアニメのミュージカルを手掛けてきた劇団四季による創造とあって、わくわくする世界を描き出すことに成功していた。(写真は、ミュージカル「バケモノの子」の一場面、撮影=阿部章仁)
両親が離婚して父と離れ、母とも死別して途方に暮れていた9歳の少年、蓮(れん)が東京・渋谷のすぐそばにあると思われるバケモノたちの町「渋天街(じゅうてんがい)」から武術の弟子を探しに来ていた熊徹(くまてつ)に出会い、「強くなりたい」との思いから、その奇妙な世界の住人になる。
バケモノたちを長年束ねてきたリーダー「宗師」を次世代に引き継ごうと、現宗師の卯月は2人の候補者を選び、武力だけでなく品格を磨くことも条件に課して数年後に開く試合でどちらかに決めることにした。候補になったのは、武術の指導者で誰からも慕われる猪王山(いおうぜん)と、乱暴者だが武術に長けた熊徹だった。
物語はこの2人と、8年後には熊徹の一番弟子に成長した蓮(渋天街では「九太」と呼ばれていた)、猪王山の長男、一郎彦を中心に波乱の展開となる後半へと突入していく。人間界に戻ることもあった蓮には将来への迷いがあり、一郎彦には懸念しているある秘密があった。それは渋天街という世界をまるごと巻き込む運命を連れてくる。
猪王山と熊徹の対決シーンでは、互いに体を拡大することによってパワーを弾けさせるが、舞台上での表現では、単に体を大きくするだけではなく、拡張した身体を表す猪と熊の巨大なパペットを装着して1体3人がかり(それぞれの役を演じる出演者と操作係2人)で動かして迫力満点の格闘を演出。「ライオンキング」などでの劇団四季の動物の繊細な表現を見慣れている観客にとっては納得と驚きが交互に浮かぶ表現だった。
けもののイメージを宿す渋天街でのバケモノたちのマスクや特殊メイクも見ものだが、人間界の渋谷で「こっちこそ、バケモノの世界じゃないか」と言いたくなるようなハロウィーンの熱狂ぶりが戯画的に描かれるのも社会批評的で興味深いのに加え、豪華な衣装を着た中世の王侯貴族や特異な存在に扮することも多い劇団四季の俳優が、現代の普段着で登場するのも妙に新鮮で、見逃せない。
劇団四季との関係が深いとはいえ、劇作家・演出家の青木豪が演出を、「アナと雪の女王」の訳詞で知られる高橋知伽江(元四季ではあるが…)を脚本・作詞に起用。NHKの連続テレビ小説や映画などの音楽で知られる富貴晴美も作曲・編曲で参加するなど、才能を結集して前進しようと挑戦を続ける劇団四季の世界がよりいっそう多彩で豊かになったとの思いも強くする最新作だった。
ミュージカル「バケモノの子」は東京・竹芝(最寄り駅はゆりかもめ「竹芝」かJR「浜松町」)のJR東日本四季劇場〔秋〕でロングラン上演中(2022年9月30日公演分までチケット発売中)。