息づくクリエイティブな発想、第2シリーズ完結の「京都人の密かな愉しみ」

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだからドラマ鑑賞はやめられない
阪 清和

NHKBSプレミアムで5年にわたって放送されてきたドラマ「京都人の密かな愉しみ」のシリーズ第2弾「Blue 修業中」が完結した。京都人や京都ファンだけでなく、全国の多くの人に愛されてきたこのドラマ。第1弾の和菓子店の若女将をめぐるシリーズも人気があったが、庭師、京料理人、陶芸家、京野菜名人、パン職人といった京都らしい職人を目指す若い5人の同級生が青春の日々を絡ませ合った「Blue 修業中」はとりわけ視聴者の心に響き、シリーズ終了を深い感慨と共に迎えた人も少なくない。自分の中でシリーズが終わってほしくないと、放送日の5月28日に録画した完結編をまだ見ていない人もいるほど。4Kでも放送されていることからも分かる通り、映像が美しいのは当然なのだが、それ以上に番組作りには数々のクリエイティブな発想が息づいており、クリエイターにファンが多いのもうなずけるところだ。(写真は京都の風景ですが、ドラマ「京都人の密かな愉しみ」とは関係ありません)

 

第1シリーズは東京、大阪の主要テレビ番組製作会社が加盟する団体「全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)」が選ぶ第32回ATP賞テレビグランプリを2016年に受賞しているが、その際の受賞理由では「企画性、映像の美しさ、構成、編集、すべてにおいて優れていた」と絶賛されている。

ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー、料理コーナー、観光情報が巧みに組み合わされており、ドラマも多回にわたって設定が継続するメインのドラマと「オムニバス」と呼ばれる独立した短編に分かれ、それぞれに京都人の実像を描き出したのだ。

これは単に「飽きさせない」という消極的な理由からではなく、京都を多面的に描くことで、一筋縄では理解できない「京都」という街に少しでも近づこうという試みであり、千年以上も都(みやこ)が置かれた京都の複雑に絡み合った糸を解きほぐす手法なのである。単にドラマだけ、バラエティーだけでは何も描いたことにもならない京都の豊かな要素を抉り出すには最適の方法だった。バラエティーやドラマの演出家、映画監督、ドキュメンタリー作家でもある演出の源孝志のありようが反映したものだろう。単純なアプローチをしようものなら、番組内の流行ぜりふではないが、京都人に「(京都を描くのは)千二百年早いわ」と言われかねない。

 

「伝統的な日本文化を大切にする」といった京都人の表側のパブリックイメージだけでなく、「腹の中で何を考えているのか分からない」といった裏側のイメージも巧みに利用しているのも特徴だ。面倒そうな付き合い方のマナーや暦にがんじがらめになっている姿も番組の大切な要素。マナーの厳しさは思いやりの結果だし、暦への忠実ぶりは季節の変化に対応するためのよりどころであることを示し、決して古びていないことを分からせてくれる。

古いものが好きという他県民の先入観を打ち砕くのが京都人のパン好きぶり。実は新しいものが大好きで、首都=都という都市がそうやって文化の細胞を再生させ続けてきたことを分からせる現象。この番組はそういったところにもきちんと視線を向けている。

ドラマ部分のストーリーに寄り添いながら、五山の送り火や祇園祭の裏側に迫ったドキュメンタリーも魅了した。NHKのドキュメンタリーらしい律義さで祭りや行事の裏方に迫りながら、それを支える京都人の魂の部分にまで迫っていたのが印象的だった。

 

また、キャスティングの絶妙さにはうならされる。端正な演技で若手のトップを走る林遣都をはじめ、明るいキャラクターで今やドラマやCMには欠かせない存在の矢本悠馬、愛くるしい存在感で慕われる実力派女優の趣里、映画を中心に台頭し高倉健の再来とも言われる毎熊克哉。次々とヒロインの座を獲得して勢いに乗る生粋の京都人の吉岡里帆も途中から加入し、強力な布陣となった。スタート時こそ知名度に多少の差はあったが、それぞれが俳優としてブレークを果たし、いまやこの顔ぶれをそろえることはこの番組以外では難しいとさえ思われるほど。制作側に演技の将来性を見通す力がないとなかなかできない芸当だ。5人の「修業」という青春は視聴者を惹き付けた。

 

「京都人の密かな愉しみ」自体が続くのかどうかの発表はないが、これだけの人気番組に成長したからには打ち切りということはないだろう。第3シリーズにも期待が高まる。

個人的には放送時間を拡大してでも、「桐タンスの恋文」「私の大黒さん」「真名井の女」「月待ちの笛」「逢瀬の桜」など名作が多く、人気のあったオムニバスドラマを復活させてほしいところ。第2シリーズの続編については既にSNSで要望が沸騰しており、いつか実現させてほしいのは衆目の一致するところだ。

プロフィール
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阪 清和
共同通信社で記者として従事した30年のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。円満退社後の2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。パンフ編集や大手メディアのデータベース構築、メディア向けリリース執筆、イベント司会、作品審査も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、広報アドバイスや文章コンサルティングも。音声YouTubeも準備中。活動拠点は渋谷・道玄坂。Facebookページはフォロワー1万人。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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