非日常は、日常の中に~松原タニシ著『怖い間取り』

福岡
ライター
kosaka
香坂

 引っ越すたび痛感するのは「間取りだけじゃ分からないことも多いなあ」だった。

 

 物件を吟味する際、多くの不動産情報サイト等で必ず公開されているのが間取り図だと思う。

 部屋の写真まで掲載されていると分かりやすいが、潔く間取り図のみで、詳しくは内見で確認してください、というようなものも少なくない。

 となれば、一般的に重視されるのは平米数、部屋数、それぞれの部屋の広さ、キッチンや浴室の広さ、機能面……あたりだろうが、色々な物件を精査しているときりがないので、膨大な情報の中から的を絞るのが意外と大変だった記憶がある。

 

 しかし、大前提として皆が自然と避けているのが「告知事項あり」なのではないだろうか。

 

 これは、物件を契約・購入する際入居者が躊躇しがちなポイントがあることを示すと言われている。しかし、必ずしも所謂「事故物件」というわけではなく、下記の事項に当てはまる物件であれば告知義務が生じるので、確認しておきたい。

「4つの告知事項」とは?

・法的瑕疵:構造上の安全性や建ぺい率、容積率などが、法で定められた基準に達していない(改善の必要がある)場合

・物理的瑕疵:建物の構造上欠陥、土壌汚染、地盤沈下など住みづらい事情がある場合

・環境的瑕疵:近くに工場やゴミ処理場、火葬場、ラブホテルなどがあり、騒音や治安が気になる場合

・心理的瑕疵:孤独死や自殺、事件など人の死に関わる事情がある場合

参照:ライフルホームズ公式HP(https://www.homes.co.jp/cont/rent/rent_00827/

 

 告知事項あり、といえば「心理的瑕疵」をイメージする人が多いだろうが、確かに周りの環境や建物の構造上の問題などは直接的に住み心地に関わってくる部分ゆえに、事前に聞いておきたいところである。

 とはいえ、こういった問題がある物件であると分かった以上はやはり契約を戸惑うものだが、世の中にはわざわざ「事故物件にこだわって」住む猛者もいるらしい。

 

 その記録を記した本が、ベストセラーにもなった松原タニシ氏の『怖い間取り』だ。

 

引用元:Amazon『事故物件怪談 恐い間取り』

https://www.amazon.co.jp/事故物件怪談-恐い間取り-松原-タニシ/dp/4576180975

 評判もあってずっと気になってはいたものの、引っ越しの直後は何となく拝読を憚られ…満を持して、という感じで今回開いてみた。

 タイトル通り、エピソードごとに事故物件の間取り図も一緒に掲載されているユニークな本書は、体験談をエッセイのような形でまとめてあり非常に読みやすい。

 

 いっぽう、意外というか当たり前のことではあるのだが、「どの話に出てくる部屋も、間取りはごく普通」なのが逆に恐ろしかった。

 

 『怖い間取り』というからには、何かしら特殊だったり、個性的だったりする部分があるのだろうかとぼんやり考えていたからだ。

 例えるなら『十角館の殺人』に出てくる洋館のように、まったく同じ広さの部屋がぐるりと円を描く感じで並んでいる…といった具合であればいかにも何かが起こりそうだと分かりやすいが、本来非日常は日常の中で起こるのだな、という感覚にぞっとさせられた。

 ただ、しいて言えば「過去、犯罪行為が起きた部屋はより一層注意した方がいい」傾向があるのは本当だ、と聞いたことがある。逃げたままの犯人に場所を知られていたり、周辺環境的に狙われやすかったりする場合があるから、と。

 

 事故物件といえば霊的なものを連想しやすいけれど、『怖い間取り』でも似たようなエピソードが語られているところを見ると、真に警戒すべきは「ヒトコワ」かもしれない。

 

 ちなみに、私自身は物件の雰囲気的なものはかなり気にする方である。

 

 実際、過去に友人が引っ越した途端事故や病気など大きな不幸に次々見舞われ、おまけに悪夢で脅されるようなことがあったため同じ物件の向かいに移り住んだところ、不思議なことにすべて綺麗に解決した、という経験を話してくれたことがあり、その場所との相性的なものはあるんだろうな、と信じているからだ。

 今の住まいは引っ越し当初は不調もあったが(おそらく転居疲れが原因だろう…きっとそう)幸い現在は快適なので、末永く穏便に付き合っていけることを願いたい。

 

 引っ越しするなら、皆様は何を、どこまで追求しますか?

 

※キャプチャ画像は『イラストAC』よりお借りしました(https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23201060&word=間取り図No69 2階建 4LDK+2S&searchId=

プロフィール
ライター
香坂
オリジナル会葬礼状のライター業を経て、現在はWEB系のフリーライターとして活動中。漢字とひらがなのバランスに悩むのが好き。仕事におけるモットーは「わかりやすく、きれいに」。趣味はお酒・アイドル・展覧会鑑賞・化粧品・創作。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP