言葉の一番深いところから問い掛けてくる、全国でも注目度高まる「iaku」
注目すべき劇団は数あるが、「iaku(いあく)」ほど言葉の一番深いところから問い掛けてくる劇団はない。
決して派手なパフォーマンスをするわけでないし、メディアで大々的な露出をするような集団でもない。しかしその作品は、まるで土に水分がしみこんでいくように、静かに、しかし着実に人々の栄養分になっていく。
それは主に劇団を率いる劇作家・演出家の横山拓也の描き出す世界によるものだが、登場人物の個人的な問題でありながら、はてしない普遍性を持つ、その筆致はさまざまな人々を虜にしつつある。最新公演「あたしら葉桜」は、今や若手劇作家の登竜門的存在となっている「岸田國士戯曲賞」に名を冠された劇作家の岸田がかつて発表した「葉桜」をモチーフに、新たに横山が創り出した戯曲で、その底流に流れる近似性を味わいながら、横山の新しい世界をも感じられる。
横山拓也は大阪府出身。大阪芸大在学中に俳優らと結成した劇団では作・演出を務め、その後個人的な活動に入った。
2012年には制作担当の笠原希とともに演劇ユニット「iaku」を結成。劇団員を抱えるのではなく、公演の度に、俳優を集める形式をとっている。横山のオリジナル作品を日本各地で発表していくことと、各地域の演劇(作品および情報等)を関西に呼び込む橋渡し役になることを指針にしている。
横山が外部の演劇ユニットに書き下ろし、2009年に初演された「エダニク」は第12回日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞するなど高い評価を受け、iakuでも再演。「流れんな」「人の気も知らないで」「目頭を押さえた」「あたしら葉桜」「walk in closet」「車窓から、世界の」「逢いにいくの、雨だけど」など、戯曲が発表されるたびに評判を上げてきた。今最も「新作が待たれる劇団」である。「エダニク」あたりからは東京の演劇ファンにも認知され始めた。その人気や認知度は全国に広がる気配を見せている。
実は「あたしら葉桜」は初演ではなく、2015年にiakuとカトリ企画の合同公演で初演された。その後、2018年に東京で上演されたイベント「iaku演劇作品集」の中で、今回と同じように「葉桜」の朗読と2本立てで上演されている。「葉桜」作者の岸田は文学座の創立にも関わった劇作家の一人で、現代口語の基礎を戯曲で確立した人物。言葉にこだわる創作法は横山らも大きな影響を受けていると言っていい。
そこから横山は現代に設定を変えた「あたしらは葉桜」を生み出すだけでなく、先に岸田の「葉桜」を、台本を持ったまま舞台で朗読させることで、時空を超えた2つの物語を交錯させてみせる。
結婚を承諾するかどうかの決断がつかない娘。煮え切らないそんな娘だけでなく、母親もまた娘の結婚相手に不安を覚えている。ふわふわした2人はなかなか定まらない。何気ない会話からさまざまな感情が沸き起こる。
初演にも出演した母娘役の林英世、松原由希子はともに関西現代俳優賞の女優賞と同奨励賞の受賞経験を持ち、繊細な表現に定評のある女優だ。 関西弁の口語表現や、関西弁が持つしなやかな感情表現を追求した作品でもある。
「新作が待たれる劇団」と前述したが、iakuが評価されている理由の一つに「再演」を重要視しているという面があることも忘れてはならない。 そもそも横山は劇団の旗揚げ時に「基本的には再演を繰り返すような作品を創り出すこと」を活動の目標のひとつにしている。そのコンセプトの通り、上質な作品を創り出し、それを何度も再演してさらに磨きをかけていくという地道な姿勢が目立つ。「葉桜」と「あたしら葉桜」の連続上演はそのライン上にあると言え、なおかつ、ことばの鍛錬という挑戦の中にも位置付けられる。
今回の演出は、iakuの黎明期から演出家として関わり、この数年は外部から見守ってきた上田一軒があたった。iakuの土台作りを手伝った経験と外から見つめていた時に芽生えたであろう客観性が新たな化学反応を起こしていることは明らかだ。
「あたしら葉桜」
■東京公演:4月15日(土)~4月23日(日)
三鷹市芸術文化センター 星のホール
■大阪公演:4月28日(金)~4月30日(日)
インディベンデンドシアター2nd
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