むかしサイコー
中学生の頃から就職するまで、地元の幼なじみとバンドをやってました。
よくあるパターンですね。
就職をして先輩からボロボロの中古車を5万円で買って、それからクルマが趣味に変わり、
するとギターは弾かなくなってしまった。2つ以上の趣味を平行してできないんですね私。
ギターたちは全部売ってしまいました。嗚呼、バイトを頑張って買った何本ものギターたち。
気軽に付き合えばいいのでしょうけれどマジに思い詰めてしまうO型の性分なのでしょうか?
弾かれないギターが可哀想に思えて、誰か弾いてあげてくれませんかとオークションにかけちゃう。
それから35年後のクリスマスの夜。酔っ払っていると「ピンポン」と玄関のベルが鳴り、
ドアを開けてみると宅配便の人がでっかい段ボール箱をちょっと迷惑そうに抱えて立っていました。
開けるとエレキギターが1本。おぉぉぉぉ!???
送り主は当時のバンドでベースを弾いていて、のちに大手の楽器店に就職した金田くん。
そして間髪開けずに電話がかかってきて、今度はドラムスの上仮屋くん。
「それでリハビリしろ」とひと言。ガチャン、電話切れる。
で、部屋の隅っこでネコに迷惑がられながら運指の練習をする日々のはじまり。
髪の毛はピンクじゃないし、ねずみ色の寝間着のままの眠そうなオジサンが。。。
これがリアル版「ぼっち・ざ・ろっく!」だ。まったく絵にならないじゃん。
驚いたのは35年ぶりに足を踏み入れた「楽器界隈」。もとい、最近の言い方だと「楽器沼」。
手短に言うと機材オタクの世界になっていました。
エレキギターにはエフェクターという音を変える小さなマシンを使うことが多いのですが
35年ぶりに知った最近のソレは(いやたぶんもっと前から)、たくさんのエフェクターを
エフェクター・ボードというアタッシュケースの中に詰めて、その並び方、つなぎ方、果ては
色の組み合わせまで品評するという、、盆栽の世界に通じるわびさびすら感じます。
たいていは素人だけどプロも顔負けの人がうじゃうじゃといて、
見ていてへぇ~って楽しいし、音作りの参考になります。うらやましい。凄い。。。
やはりネットとスマホが普及したせいなのですね。かつては知り得なかった情報やコツを
滝のように浴びることができるので、ギターを始めて半年くらいの人が見事な盆栽(上記参照)を
組み上げていたりします。
あと情報が爆発的に増えたせいでメーカーのほうもだいぶ物作りの姿勢が変わっていました。
エレキギターの世界だと「58年モノ(1958年製造)」「59年モノ(1959年製造)」という言葉が
ありまして、それはバイオリンに例えるなら名器「ストラディバリウス」に近い神様レベルの代物。
当然市場に出てくるタマ数はごく少量なわけで、人類の大半は指をくわえて写真を見ているだけがせいぜい。
結果、人類の大半は同じシルエットの現代版しか選択肢は無いのであります。
が、久しぶりのギター界隈は変わっていました。メーカー自らが「58年モノ」を忠実に再現した
モデルをラインナップのトップに据えて誇らしげに売っておりましたよ。どのメーカーも。
もう凄いんですよ。木材、塗装の塗料、配線の素材に至るまで同じ。中学生の頃、図書室の
ミュージックライフで見たジミー・ペイジの愛機、キース・リチャーズの愛機。それがそのまま!
80万円くらいから、ですけどね。。。楽器店の友人いわく、じゃんじゃん売れてるらしい。
フツーのも売ってます。同じブランドなら26万円。メーカーにこだわらなければ4万円也。
大昔の名器よりパーツも改良されていてトラブルもきっと少ないです。
話を戻すと、半世紀以上前の名器が80万円~で手に入る。。。すごく嬉しい、しかし微妙な気分もあります。
楽器メーカーの職人さん達はどういう気持ちなのだろうと(余計なお世話ですけど)。
だってですよ、本当はココのパーツはこう変えたほうが絶対にいいのに、世間は「いや、1958年のまんまで作れ!」。
コピーライターだったら毎日「“おいしい生活”って書けよ」と言われるようなもの。うーん退職届出しちゃうかも。
そういえばギターに限らないですね。時計とか、スニーカーとか、アクセサリーも。復刻版がいちばんモテてる。
一服するにも古民家カフェが和めていいよね、とか。
もしかすると高度経済成長期のニッポンから世界に広まった「KAIZEN(改善)」の果てに飽きちゃったのでしょうか。
性能の向上とか工夫とか、もういいやって。
「揺り返し」はだんだん大きくなってきている実感はあります。
そして揺り返しが日々の仕事に降ってきた時、どうしたら楽しめるのだろうかと、ぼんやり考えました。